第9章 休業日に曇る客たち2
天音がスマホを取り出し、今日の探索予定を開いた。
「ねえ、紬ちゃん。今日って、いつもより深い区画まで行く日だったよね?」
「うん。今日はバフ飯を食べてから、深いところへ行く予定だったわね」
紬が、うつろな目で答える。
晃一の料理を食べれば、料理に応じて力や速さ、反応などが大幅に上がる。その上昇はステータスウインドウには表示されないが、食べた本人にははっきり分かる。
今日は、その強化を受けられない。紬自身のS級探索者としての力が失われたわけではないのだが、それより神崎屋で晃一に会えないことが、きいているようだ。
「じゃあ、浅いところに変える? 絵的にはちょっと地味な内容になるけど、撮るよ。予定通り配信しないと」
天音が予定表が映ったスマホの画面を指で示す。紬は、うなだれたまま、首を横に振った。
「やめとく。今さら浅い階層に行っても、うけないでしょ」
「はいはい、安全優先ね。大事。すっごく大事」
「そうよ。安全優先」
「でもさあ、紬の実力なら、予定通りの階層でも行けたんじゃない? なんでそこまで落ち込んでるの?」
「……安全のためよ」
紬は天音から目をそらし、端末を取り出した。
「もう! 仕方ないわね」
天音は、スマホで他のパーティーメンバーに、予定中止のメッセージを送る。
「じゃあ、里沙と眞子は呼ばないよ。来てもらってから『今日はなし』じゃ、かわいそうだもんね」
「そうね、来てもらっても仕方ないし。今日はやめにしましょう」
「そっか。神崎屋のご飯もなし、ダンジョン配信もなし。今日の予定、午前中で全部終わっちゃった」
紬はスマホで探索依頼の画面を開き、中止を選んだ。中止を押す指が、最後のところで止まる。
「紬ちゃん、指が止まってるよ。押す? あたしが押そっか?」
「押すわよ」
「もう決めたのに。いつもなら、さっさと決めるのにさあ」
「はあ……ダンジョン配信の中止は、パーティー結成以来、始めてよ」
紬は不満そうに言ってから、ようやく中止を確定する。
「で、報告したあとはどうする? あたし、予定が真っ白になったんだけど」
「明日は何時に開くのかしら、神崎屋……」
「いつも通りでしょ。もう明日のご飯の話してる?」
「私の今日は、もう終わったの……」
二人は地下2階へは進まず、そのまま東京ダンジョン入口へ向かった。帰りに、もう一回、神崎屋の休業を確認する。紬は、大きな溜息をついて帰路についた。




