第1章 ダンジョン定食屋開店!!2
東京の、この埋め立て地に来るのは、これが初めてだった。
ここには、突如ダンジョンが出現し、中ではゲームの世界のような法則が働いていた。このダンジョンは、東京ダンジョンと呼ばれている。同じようなダンジョンは世界でいくつか発見されているらしい。
地上の駅を出た時は、まだ実感が薄かった。けれど、ダンジョンの入口に近づくほど、空気が変わる。荷物を背負った鎧姿の探索者が行き交い、初見の俺から見ても、変な熱気のある場所だった。
「神崎さん、こっちです」
案内してくれている不動産担当が、スマホを見ながら歩く。
「この地下一階は、商店街みたいなものだと思ってください。探索者向けの商店が並んでいて、飲食店も普通にあります」
「ダンジョンなのに、普通にですか」
「ええ。地上と違うのは、たまに弱いモンスターが沸くことです」
「それ、かなり大事なところですよね」
「心配せずとも、探索者が常に歩き回っているので倒してくれますよ」
思わず言うと、担当者は少しだけ苦笑して答えた。
通路の壁には、いろいろな店の札が掛かっている。立派なドアのある店もあれば、小さな屋台の店もある。地上の商店街と似ているのに、客の顔は少し違う。疲れているのに、目だけは妙に生きていた。みんな一攫千金を狙う探索者だ。
「地下一階までは、電気、水道、ガスも通っています。家賃は地上よりずっと安いですよ」
「助かります」
「借金があるなら、おすすめですよ」
そこをはっきり言うのか、と思ったが、相手の顔に悪気はない。
やがて、不動産担当が立ち止まった。そこにあったのは、洞穴をそのまま使った空きスペースだった。入口に扉をつければ、そのまま店になる。
中をのぞくと、土の壁はむき出しだが、床は平らで、配線なども通っている。厨房施設やカウンターもあり、どうにか定食屋を再開出来そうだった。
「ここです。前の借り手が商売をやめたままで」
俺は洞穴の奥まで入って、壁に手をついた。綺麗に掃除されており、ほこりが落ちたりはしなさそうだ。
「どうします?」
「……やれますね」
「もう決めますか」
「迷ってる余裕がないんで」
言ってから、少しだけ笑った。笑えるうちに決めておいた方がいい。そうしないと、首がまわらなくなる。
俺は入口の外を見た。地下一階の通路には、他の飯屋や乾物屋、道具屋が並んでいる。探索者向けの顔ぶれなのに、空気は案外外と変りない。これなら、うちの店も混ざれそうだ。
看板は、そのまま「おふくろの味 神崎屋」にする。今日から、ここが俺の城だ。




