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第1章 ダンジョン定食屋開店!!1

「店主、今日も、お任せで頼みます。後、ビールで」


 店内に、時代錯誤な鎧姿で剣や弓を持った若い女性達が数人入ってきた。この店は東京に突如出現したダンジョンの地下1階にある冒険者向けの定食屋だ。ここには、まだ電気もガスも届いている。


「いらっしゃいませ、お任せで!」


 俺は、フライパンに油ごとツナ缶を放り込む、そこに茹でたジャガイモ、カレー粉と刻みパセリを一つまみ、ガーリックパウダー、塩胡椒を少々。

 強火でさっと炒め合わせる。


 次に、ビールとだし汁で溶いた小麦粉に塩胡椒を少々入れた衣を付けた牛串を次々と油に入れて揚げていく。


「はい!ジャガイモのツナ炒め、牛の串揚げ、お待ち!」


 素早く料理とビールを客達のテーブルに並べる。


「おいしい、ツナの旨味がホクホクしたジャガイモにまとわりついて、最高よ」

「ふわふわした衣の牛串が、ビールに合うわ!」


 客達が歓声を上げる。


「やっぱり、ここのバフ飯は最高ね。どんどん力が沸いてくる!」


 彼女達は、口々にそう言った。


「腹いっぱいになったら、力が沸くのは当たり前だろ……」


俺は、そう呟いた。

 


 数カ月前……。


 最後の客が店を出たあと、神崎屋の中を急に広く感じた。


 俺は、亡くなった母親から受け継いだ定食屋「おふくろの味 神崎屋」を、大手チェーンの進出で閉めることになった下町の店主だ。


 営業中の匂いがまだ少し残っている。焼き魚と味噌汁、それに古い木の机の匂いだ。俺は白い腰エプロンを締めたまま、カウンターを拭いて、ふきんをたたんだ。短い髪に不精ひげの残る顔でいつもと同じ手順をこなしているのに、今日は指先が少しだけ重い。


「もう終わりかい、晃一」


 声の方を見ると、顔なじみの常連のじいさんが入口に立っていた。買い物袋を持ったまま、いつもと同じ顔でこっちを見ている。


「ええ。もう閉店です。今日で、ここは閉めます」

「そうか。昼飯を食べるところがなくなるのは困るなあ」

「困るって言われても、どうしようもなくて。すいません」


 俺がそう返すと、じいさんは少しだけ笑った。笑ってから店の中を見回し、壁の献立表に目を止めた。母親の字で書いた古い紙だ。何度も書き直した跡が残っているのを見て、黙って頷いていた。


「これ、まだあるのか」

「外すと、逆に落ち着かないんで」

「親父さん、こういう字を書いてたなあ」

「違いますよ、母親です。しっかりして下さい」


 俺は笑って言いながら、献立表の端を指で押さえた。材料が足りない日でも、まず客の顔を見てから献立を決めていた人だ。俺はそのやり方を、ただ真似してきただけだった。


「晃一」

「はい」

「次の店、ちゃんと探せよ」

「探しますよ。かあちゃんの味を出せる店がなくなるのは困るんで。」


 常連は缶コーヒーを一本置いて、頭だけ軽く下げた。


「じゃあな。どこに行っても、頑張ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 そう返した時には、もう相手は外に出ていた。


 俺は最後のテーブルを拭き直した。木の天板は何年も使ったわりに、まだしぶとい。捨てるのが少し面倒だ。面倒だから残してきた、というのもある。だが、そろそろ何とかしないといけない。


 シャッターを降ろす音が、小さく響いた。


 シャッターを閉めた店に背を向けると、今度は不思議と、次に店を再開する場所のことを考えられた。

毎章、料理レシピを入れますので、今夜のおかずを決めるのにお役立て下さい。

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