第8章 金欠の日でも大盛り3
肉巻きおにぎり食べ終わった後、彩希は、かなり満足そうな様子だった
「昼にこれだけ食べられたら、今日は頑張れそう。力がみなぎってる感じ」
そう言って、皿を見つめる。金欠だったのが、少しだけ余裕の顔になる。食べ終わってから元気が出るのは、前と同じだが、今回はより満足げだった。
「腹は、ちゃんといっぱいになったか?」
「なりました。むしろ、満腹すぎてびっくりしてます」
「満腹なら問題ない」
「問題は、値段です……」
そこは気にするか。まあ、気にするだろうな。財布の中身が少ない顔をしていたし。
「今日はツケでいい」
「え」
「次に来た時、また払えばいい」
「でも、そんな」
「うちの店は、本来ツケはしないんだ。特別だぞ」
紬は、不満そうな顔をしている。
「仕方ない……晃一さんは優しいのよ」
「紬さん……」
「次は、もうちょっと景気のいい時に来な」
俺が、そう言うと、彩希は皿の前で一度だけ深く頭を下げた。
「……また来ます」
「おう」
「今度は、ちゃんと払え。いつでもいいぞ」
彩希が席を立つ時、録画しながら天音が言った。
「今の、受けそう。大盛りで救われた新人、って感じで」
「撮るな」
「もう遅いー」
彩希は、外へ出る前に一度だけ振り返った。
「あの、また、あの席……」
「悪いけど、並んでくれ」
「でも、できれば」
紬が、何でもないみたいな顔で手を振る。
「また来なよ」
その一言で、彩希はやっと笑った。
彼女が帰ると、昼の混雑の空気が戻る。
天音はもう編集の話を始めていて、紬は自分の分の肉巻きおにぎりを見ている。
「晃一さん、これ、普通に店の看板になるやつ」
「そうか?」
「そう。写真映えするし、これはパワー系がアップするのを感じる。力が沸いてくるわ」
「確かに、がっつり系だな。パワー飯だ」
「たぶんまた、晃一さんが知らないうちに、噂が勝手に広がるわ」
また、いい加減なことを言う。
でも、肉巻きおにぎりを食べた後の彩希を見ていると、あながち間違いでもない気がした。
「ところで晃一さん」
「何だ」
「今の子、また来たら、カウンターに座らせる気?」
「知らん。空いてたら座るだろ」
「でも、私のパーティー以外の女は座らせてほしくないんだけど」
「勝手に決めるな。空いてたら、自由に座ってもらう」
そう返すと、紬が麦茶を一口飲んだ。
「でも、私の席はここだからね」
「おまえも勝手に座ってるだけだろ」
「それ、認めたって事でOK?」
「認めたってなんだ? これからも並んで座れ」
天音が、スマホの画面を見ながらにやっとする。
「ねえ、今日の見出しどうする? 『肉巻きおにぎりで新人救済』とか、良くない?」
「救済なんて、おおげさだ」
「でも、彼女、助かったでしょ」
「助かったかもしれないが、見出しに救済って書くほどのことじゃない」
「おおげさなくらいが伸びるんだよ」
紬が、もう一度だけ肉巻きおにぎりの皿を見た。
「常連増えるといいね。女以外の」
「もっと忙しくなるな」
「嬉しいんだ。女の客が増えて……」
男女は関係ないが、客が増えると大変だ。食べに来るやつが増えるのはいい。問題は、増えたやつらが勝手に喧嘩を始めることだ。勘弁してもらいたい。
彩希は、この後、新しい階層に挑んで初心者踏破記録を塗り替え、運よくモンスターが高価な宝を落とし儲けたそうだ。後日、ツケを払いに来た時に聞いた話だ。




