第8章 金欠の日でも大盛り1
開店前の店は、すでに長蛇の列だった。
開店すると、先頭に立っていた二人が飛び込んできた。いつもの席に紬が座って、出されたコップをっ手に取る。その隣の席に天音が腰を下ろして、スマホを机に伏せ、カメラを置く。
「晃一さん、今日もこの席ね」
「いつもどおりだな」
「そうね、ここが落ち着くんだもん」
紬はさらっと言う。落ち着くというより、もう席を決めている感じだ。いつも、真っ先に入ってきて厨房前のカウンターに陣取る。紬が来ないのは、アイドル活動の日と、一日では戻れないダンジョンの深層に潜る時くらいだ。
そんなことを話していると、戸が開いた。
入ってきたのは、背中を丸めた、あの若い探索者の女の子だった。皮鎧は綺麗にしているが、情けない顔をしている。髪は少し寝ぐせが残っていて、財布を手に店内を一度見回す。
「……空いてますか」
「まだ空いてる。好きなところに座れ」
言ったはいいが、その娘は、すぐには動かなかった。周りを見回して、カウンターを見て、こちらを見た。最後に、紬のいる席をちらっと見て、あわてて視線を外した。
「……」
紬が、冷たい視線を、彼女に向けていた。
「金欠?」
天音が、変な遠慮のない声で言う。
「天音」
紬が、軽くたしなめる。
「だって、顔に出てるし」
「すいません、ここのご飯を食べた時は調子良かったんですが、その後が続かなくて……」
「あー、バフ飯が無いと調子出ないよね。分かる~」
彼女の答えに、天音が笑って答えた。
若い探索者の女の子は、耳まで赤くなる。
「すみません、お金があまりないんで……安いものを」
「安いものか、しかし腹が減ってそうだな。サービスで大盛りにしといてやるよ」
俺は、そう答えた。
そう言うと、紬がちょっとだけ身を乗り出す。
「晃一さんは優しいからね。でも、調子に乗らないでね」
「分かってます、紬さんの、お相手におそれおおい!」
「分かってるならいいわ」
俺は、コップの水をカウンターの席に置きながら頭の中でため息をついた。調子に乗ってるのは誰だよ、まったく。
若い探索者は、観念したみたいに水を置いたカウンターの席へ座る。
「私、D級探索者の相模彩希っていいます。よろしくお願いします」
彼女は、そう俺たちに自己紹介した。




