表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/69

第7章 美味そうな匂いと換気口3

 食べ終わると、作業員はすぐに仕事の顔に戻った。


 脚立を置き、厨房の換気口の薄いフィルターを外す。中から細かい埃と、油を吸った黒い粒のようなゴミが少し落ちた。俺は慌てて布巾を持っていく。


「やっぱり少し溜まってるな」

「まだ、開店から少ししかたってないんだけどな」

「まだ少ない。けど、これから客が増えるなら掃除の周期を短くした方がいいぜ」


 作業員は手際よく内側を拭き、新しい消臭フィルターを取り付けた。金属の枠を戻す音が、かちりと店に収まる。この消臭フィルターには、ダンジョン内でしか働かない魔法効果があり、ほとんどの匂いを外に出さないようにしてくれるらしい。


「厨房も見ていいか」

「見るだけなら」

「修理の必要があれば言う」


 男は換気扇の音を聞き、火口の位置を見て、しばらく黙っていた。それから短くうなずく。


「今は大丈夫だ。きっちり、リフォームされてる。ただ、調子が悪ければ早めに相談しろ。客が多くなれば、厨房の機器も酷使されるからな」

「酷使されるか」

「忙しいと、消耗が激しいからな。メンテがいいと、味も落ちない」


 妙に料理人みたいなことを言う。

 紬が、空いた皿を見ながら小さく言った。


「厨房のメンテナンスも、大事なんですね」

「そうだな」


 俺が言うと、作業員は工具袋を肩にかけた。


「今回の工賃は、組合が出してくれるそうだ。だが、匂いが完全に漏れなくなる事はないかもな」

「魔法効果のある消臭フィルターにしたのにか」

「あんたの料理が特別なんだよ。規格外だ」

「腕に自信はあるが、ただの家庭料理なんだがなあ」

「まあ、匂いで腹を減らして倒れるやつは減るだろうよ」


 それは、喜んでいいのか分からない。倒れるのは困るが、店が流行らなくなるのはどうなんだろう。丁度いいところに落ち着けばいいが。


 会計を済ませる時、男は少しだけ笑った。


「次は仕事抜きで来る。焼きうどん、美味かった」

「いつでも歓迎だ」

「仕事込みでも来るぞ。メンテナンスは任せてくれ」

「それは助かる」


 男が出ていくと、店の中の匂いまで、少なくなった気がした。気のせいかもしれない。だが、厨房に戻ると、換気が良くなった気がした。


 紬が、厨房の換気口を見上げる。


「晃一さん」

「何だ」

「この店、空気が良くなった気がします」

「換気口でか」

「そうですね、換気口が綺麗になったからかも」


 変な言い方だが、少し分かる気もした。客が来て飯を作れば、匂いも出る。こういったメンテナンスは定期的に必要だろう。


 俺は洗い場へ皿を運びながら、次に掃除する場所を頭の中で考えた。

 飯を出すだけのつもりでも、店をやるというのは、思ったより色々やらなきゃいけないことがある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ