第6章 小腹のすいたギルド職員
昼の混雑が引いた後、探索者ギルドの職員が一人で入ってきた。受付で見かける制服、やや肩を落とし、目には疲れが見える。しかし、背筋の伸びた、きっちりした姿勢は崩していない。
彼女は店内を一度見回し、俺に小さく頭を下げた。
「おふくろの味の神崎屋さんですね。噂を確認に来ました。あと、すみません。小腹も空いています」
彼女のお腹が、ぐぅと鳴る。
仕事中の顔をしているのに、腹の音だけは正直だった。
俺はカウンターに水を置いた。
「丼はどうですか。今なら、かつ丼がおすすめですよ。」
「それで構いません。完全に黙りますから、準備に集中して下さい。」
「食べる前から黙るんですか」
紬が隣で笑いをこらえ、天音は端の席でカメラをしまった。今日は配信ではなく、ただの昼飯だという顔だ。さすがに、ギルド職員を勝手に撮るわけにはいかないらしい。
豚ロースに塩を振り、小麦粉、卵、パン粉の順に衣をつける。油に入れると、衣が細かい音を立てた。油は、ラードとサラダ油を混ぜて使っている。本当なら、とんかつには全部ラードを使いたいが、定食屋ではコスト的に難しい。
「かつ丼は、揚げたてを煮すぎないのが大事です。玉ねぎをだし、醤油、みりん、砂糖で軽く煮て、切ったカツをのせる。卵は二回に分けると、固いところと半熟のところが出来て美味い」
職員はメモ帳を出しかけて、すぐ引っ込めた。
「勤務中に料理メモを取るところでした。あくまで、効果の調査なのに」
丼を出すと、彼女は背筋を伸ばしたまま一口食べた。次の一口で、前かがみになって、丼を抱えるように食べ始めた。
「……これは、報告書に書きにくいですね」
「何がです」
「美味しすぎる。効果の前に止まらなくなるわ」
紬が得意げにうなずいた。
「そう書けばいいわ。晃一さんの料理は、そういう味だから」
ギルド職員は、かつ丼を口にかき込みながら言った。
「店の存在は、許可すべきと報告します。危険店ではなく、美味しい店として」
「助かります」
「ただし、混むと思いますよ。うちの職員達は、美味しい店を常に探してますので。それに……頭が冴えてきたわ。眼精疲労も肩こりも無くなった! 体も軽い。これなら、いくら残業しても平気ね!でも、ステータスに変りは無い。報告しようがないわ」
「よっぽど、ひどいもの食べてたんですね……」
彼女が出ていったあと、天音が入口を見た。
「ギルドの人達にも知られちゃったね」
俺は空の丼を下げながら、炊飯器の残量を見た。今の量では、もう済まなくなってきていた。米を炊く量を増やさなければ。
この日から、ギルドの仕事効率が格段にアップし、サービスが向上したそうだ。うちは、いい材料使ってるからな。元気が出たのはいいことだ。




