その頃の皇帝陛下①
読んでいただいてありがとうございます。
シリウスに任せておけば大抵のことは何とかなる。
そう信じているヒューゴだが、最終責任者として日々送られてくる報告書はちゃんと確認していた。
婚約者が出来てからのシリウスからの報告書は、所々でシルフィーリがいかに可愛かったかということを紛れ込ませてくるので出来ればさらっと流し読みしたいところだが、やっぱり所々で重要報告事項を入れてくるので隅々まで読んで言葉の意味を考えなくてはいけない書類だ。
今はシルフィーリのことばかりだが、以前はもっと言葉遊びのような文章が交じっていた。
報告はもっと分かりやすく簡潔に!と何度か言ったのだが、他国からの書状が来た時に何かしらを見落として損を出さないようにする訓練ですよ、と言って止める気配が一切なかった。そのおかげで、他国から送られてくる書状や書類を隅々まで確認するクセはついた。
それはともかく、シリウスから送られてくる報告書から見えてきたのは、ラージェンのクソ面倒くさい現状だ。
商人たちが帝国貴族にすり寄るのは別に構わない。ラージェンも今は帝国の一部となっているのだから、そこを含めての経済圏だ。
元ラージェンの貴族たちも大方は何かしらの処分をしているので、そこまで力を残している家は数少ないし、監視もきちんと入れている。
だが、この巫女、というのが面倒くさそうだ。
ラージェンは何かとラピテル神殿が幅をきかせていた。
神殿が、本当に民のために祈りを捧げ、民を救う場であるのならばいいのだが、現実はそうではない。
フラフィス帝国内においては、神殿はある程度の力を持っているが、国政に関与することは許されていない。だが、ラージェンの神殿は思いっきり国政に関与していた。そのため、帝国侵攻時に大神官だった者たちはその地位から降ろして、フラフィス帝国内の神殿に身柄を移したくらいだ。
そして、巫女という存在。
「うちには神子のシルフィーリがいるから、他の巫女なんてどうでもいいんだが……」
だが、ラージェンの民は違う感情を抱くだろう。
「誰か」
「はっ」
「ラージェンの巫女と神子について詳しく調べさせろ。どんな些細なことでも報告しろ。それと、シルフィーリの周辺のことももっと細かく調査しろ」
シリウスの婚約者になった時点でシルフィーリ自身の調査はしたが、シルフィーリは本当に神子として表に出ていた少女だった。裏でこそこそと何かしらをやっていたのは、神官たちの方だった。
逃げた巫女たちについては、貴族の娘ばかりだったから、特に追うこともしなかった。
シルフィーリ一人がいれば、ラージェンの民は逆らうことなどしなかったから。
ヒューゴとしては、正直、巫女になっていた貴族の娘など、どう考えても厄介ごとの臭いしかしなかったから、出て来ないならそれでいいと思っていた。
けれど、神子であるシルフィーリが帝国でも大切に扱われていると知って、自分も同じ待遇を望む者が現れていたとしてもおかしくない。
「シルフィーリだけが特別なんだが、そういう者たちはシルフィーリより自分の方が特別だと思ってそうだよな」
あぁ、面倒くさい。
どうもシルフィーリが子供だったせいか、神子なのに軽く扱われていたふしがある。
そうなると、大公の婚約者にシルフィーリごときがなったのだから自分こそ皇帝の婚約者に相応しい、とか思って変な行動力で突っ込んできそうな気がする。
「……しまったなぁ。シルフィーリは俺の婚約者にするべきだったか?」
そう思ったが、そうなっていた場合でも絶対に突っ込んで来る気がする。
むしろ、もっと激しく来そうだ。
「いざとなれば、戒律の厳しい修道院にまとめて放り込むか」
もっとも、修道院の方で嫌がるかもしれんが。
寄付金を積めば何とか引き取ってくれる、かもしれない。
説教くらいはありそうだが、さすがに何もしていないのに巫女と呼ばれる存在を殺すことは出来ない。
妥協案が修道院入りだ。
うんうんと頷くと、ヒューゴは帝国内にいくつかある戒律の厳しい修道院に手紙を書き始めたのだった。




