その頃の皇帝陛下②
ヒューゴの下に報告書が届いたのは、翌日だった。
「というか、早すぎだろ」
「情報を持つ者が大勢、牢にいますので」
神子と巫女の関係について調べろ、という命令を出したのは昨日のことだ。
普通ならこんなに早く調べられるはずがない。
答えは単純で、ラージェンの元貴族や、かなりお腹の大きな自称神官などが帝国の牢に入っているので、そこら辺に尋問したらしい。
誰も彼もが、少しでも刑を軽くしてもらおうと喜んで話をしたそうだ。
別々に聞き取りをしたのだが、面白いことにだいたい言っていることは一緒だったそうだ。
「へー、ほー、あほらし」
ラージェンの王侯貴族は、一度神子の婚約者となるけれど、その後で巫女と結婚する。
一度神子と婚約することで、ラピテル神と繋がりがある特別な存在、という証明になるらしい。
形だけの婚約だ。実際は、最初から結婚相手は巫女と決まっているので、巫女の方が好みの男性を選んで神子に婚約を押しつけている。
神子は幼い頃からそのことを教えられるので、婚約者に何か言うこともない。
そして、貴族と婚約したことで、神子がどのような生まれでも尊重している、と宣伝していたのだそうだ。
「だいたい、巫女だって神に仕える存在だろうが。巫女との婚約では神と繋がれないってことはないってことは、巫女の存在意義はどこにいったんだ?」
「ほぼ、名ばかりだったそうです」
帝国では考えられない。
あまりにも巫女と貴族に都合のよすぎるその考え方に、ヒューゴは呆れるしかなかった。
思いっきり矛盾しているが、これが王侯貴族の考えた、自分たちに都合のいい神子の使い方、というやつなのだろうが、思いっきり自国の神も馬鹿にしている。
神子を選ぶのは神なのに、その神子を人があまりにも都合良く使い過ぎている。
「あぁ、だからか」
だからラピテル神は、ラージェン王国が滅ぼされようとしていても、決して王国に力を貸さなかった。
けれどシルフィーリのことはしっかりと守り、傷つけることを許さなかった。
「うちに何もしないのは、シリウスがシルフィーリを溺愛し始めたからか?」
まぁ、それならそれで、ラピテル神のご機嫌が良さそうならいっか。
「巫女の生き残りがまだいるよな。そいつらは……シリウスに丸投げでいいか」
適当にあしらってそれなりの罰を与えて、二度と表舞台に出ることがないようにするだろう。
シリウスは、大切な人のためなら思う存分、その能力を発揮してくれる。
ヒューゴは、俺、シリウスのそっち側で良かった、とたまーに思う時がある。
主にシリウスが容赦なく敵対関係にある者たちを落としている時だ。
ヒューゴにとっても敵なので、基本的には容赦なくやってかまわないと思っているが、本当にたまーにシリウスが味方で良かったと思う時がある。
「これ、シリウスには?」
「送りました。明日には届くでしょう」
「そうか。帰って来たら、シルフィーリと遊びに行こうかな」
「陛下がですか?」
「そう。俺、もう気分はお兄さん。長年、神殿に搾取され続けたシルフィーリに、外の楽しさを教えたくなっちゃった」
「それ、シリウス様に怒られますよ」
「いつもシリウスと一緒だと新鮮さがなくなるとか何とか言いくるめる。たまには他の人とも出かけないと、シルフィーリの価値観が偏ってしまう、とか言えば、あいつもしぶしぶ認めるだろう」
「まぁ、たまには他の人と出かけるのも違う視点が入っていいかもしれませんね」
「お、その言葉もいいな。シリウスを説得する時は一緒にやってくれ」
「え?私がですか?陛下、本気ですか?」
「もちろんだ」
皇帝とシリウスの微笑ましくないであろうやり取りを、気配を消して見守るつもりだった部下が、何故か巻き込まれることが決定した瞬間だった。




