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商人の街ジャスミン②

読んでいただいてありがとうございます。

 大きな商会の店というものはとても分かりやすい。

 大通りにある立派な店。

 なので、その地域に根付く個人商店を見つけようと思えば、細い道に入って古そうな店を探せばいい。


「とても簡単ですね」

「そうですね。だいたいどこの国でもそんな感じですよ。大きな商会は品数が多いですし、品質もそれなりの物揃っています。便利といえば便利ですが、その地域の産業などを知りたければ個人商店は参考になります。大きな店にはない、少ししか作られていない物が売っていたりするので」

「どうして大きな店には、そういう物が売っていないんですか?」

「いくつか理由があります。たとえば、安定して供給されない商品に手を出したくない、各地の店舗に置きたいので数がほしい、仕入れても少しの儲けにしかならない、などでしょうか。逆に一点物だと価値が上がるかも知れませんが、中途半端に数があるとそれも微妙です。上の人間の判断次第といったところでしょう。ですが、個人商店なら付き合いで少しだけ仕入れることも可能です。儲けもそこまで気にしないのでしたら、店の片隅に置くくらいは出来るでしょう。たまーに、そういった物の中にとんでもない物が紛れている時があるんですよ」


 実際、シリウスが昔行った街でたまたま見つけたガラスのグラスが、失われたと言われていた製法で作られていた物だったことがある。小さな一家が経営していたガラス工房が密かにその製法を受け継いでいたらしく、シリウスは技術がもう二度と失われないようにすぐにその一家を保護した。

 今では数人の弟子を取り、技術の継承も順調に進んでいる。


「それに、その場所でしか作られていない野菜などもありますね」

「お野菜。変わった野菜があれば食べてみたいです」

「美味しければ、うちでも作りましょう。フィーが気に入る野菜があるといいですね」


 これくらいの年齢の子供だと、野菜には好き嫌いが出るはずだが、シルフィーリはどんな野菜でも美味しそうに食べる。好き嫌いは特にないらしい。

 ただし、それには原因があり、幼い頃からシルフィーリは神子として潔斎をしなければいけない、などと言われて質素な食事をしてきたらしく、時々出た野菜がたくさん入ったスープが好きだったから、という理由らしい。

 それを聞いた時は、本当にろくでもないラージェンのラピテル神の神官たちを一人残らず極刑にしたくなった。

 好き嫌いをあまり言わないシルフィーリだが、野菜は美味しいから好きなのだそうだ。

 肉ばかりを好んで食べるどこかの皇帝とは大違いだ。


「でも野菜は、そのままでは遠くに運べないですよね」

「そこは一工夫必要なところですね。昔、乾燥させた野菜というものを食べたことがあります。ベーコンなどと一緒に煮てスープにしたのですが、とても美味しかったですよ。こちらで採れる野菜が乾燥に適しているのなら、そういう風に加工して売りに出してもいいかもしれません」

「確かに、神殿では薬草を乾燥させていました。同じように野菜も乾燥させれば長持ちするかもしれません」

「えぇ。試行錯誤にはなりますが、少しやってみるのもいいでしょう」


 手間暇はかかるが、冬の遠征でお湯の中に乾燥野菜を入れるだけで美味しいスープが飲めるのならば、やってみる価値はある。


「さて、どこの地域だったかな?少し調べて誰か派遣しましょう。乾燥野菜の作り方を覚えてきてもらわないといけませんね」


 小さな村で、乾燥野菜もそれほど多く作っているわけではなかったが、そこに行けば作り方は教えてもらえるだろう。

 誰か適当な人材を派遣しよう。

 ただ、ちょっと死ぬほど忙しかった頃の曖昧な記憶なので、シリウスが思い出す方が苦労しそうな感じだ。

 何せ一緒に蘇ってくるのが、皇帝からの無茶ぶりで帝国内をあちらこちらに行かされていた頃の記憶なのだから。

 正直、お尻が無くなるかと思った。

 何度、馬車に揺られ、馬を走らせたことか。


「あ、思い出したら、陛下への恨みも思い出しました。お土産として新鮮な野菜を届けましょう。フィーの手紙を添えて」


 手紙には、次に会った時に感想を聞かせてください、と書いてもらおう。

 そんなシルフィーリからの手紙が来たら、野菜嫌いの皇帝もしぶしぶ野菜を食べるだろう。

 次に会った時にシルフィーリからきらきらした瞳で感想を求められて、食べていない、なんて言う度胸はないだろうから。


「ピーマンは必須ですね」


 それから、もうちょっと苦みのある野菜も入れておこう。

 ヒューゴがどんな表情で野菜を食べるのかを想像して、シリウスはちょっとだけ気分がよくなったのだった。

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