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商人の街ジャスミン①

読んでいただいてありがとうございます。

「おはようございます」


 ぐっすり眠れたシルフィーリはすっきり目覚めたが、酒場で情報収集をしていたシリウスは、少し眠たそうにしていた。


「おはようございます、フィー」

「兄さん、昨日の夜は遅かったんですか?」

「えぇ、色々と聞きたいこともありましたので」


 酔っ払いが多くなった頃を見計らって、シリウスは酒をおごりさらに気分良くさせて情報を聞き出した。

 やはりここでは商人の力が強く、特に中心部に大きな店を構える商会は、上層部にも顔が利いたそうだ。

 ただし、王国が帝国に吸収された今は、帝国の上層部に何とか繋ぎを取ろうと必死になっているらしい。

 今度領主になる大公殿下に何としても会わねば、と息巻いているそうだ。

 会うのは別にかまわない。

 商人が商人である限りは。

 ただし、己の分を越えて、これからのラージェン領の在り方にまで口を出そうとするようなら許さない。

 意見を言うのはかまわないが、自分たちの都合のいいようにこちらを操ろうという思惑が透けて見えてくるようなら、そこまでだ。

 別に商人はジャスミンだけにいるわけでもないのだから。

 帝国の商人たちは、その辺のことはわきまえている。

 何せ彼らは、皇帝が即位した頃に手痛い目に合っているのだから。


「商人たちは焦っているようですね」

「帝国の支配下になったからですか?」

「それもありますが、帝国の商人が入ってきていますから。今まで自分たちが独占していた市場に入ってきた新参者とはいえ、帝国の商人です。この国の商人では太刀打ち出来ないほど大きな商会の者もいるので、排除も出来ないんですよ。それに敗戦国ですから、下手な動きを見せて帝国軍に目をつけられたくないのでしょう」


 昨夜、下っ端たちは上の方の人間はそのことで頭を抱えていると言っていた。

 徐々に帝国から物が流入してきており、帝国産に比べると一段も二段も品質が劣るラージェン産の物が売れなくなってきているそうだ。

 

「こちらで何かあれば、と思っていましたが、これはもう少し時間をかけて探した方がよさそうですね」


 商人の街であるジャスミンなら、ラージェンの特産物になるような何かに出会えるかもと期待していたのだが、目を引く品物が全くない。

 

「さてさて、困りましたねぇ」


 特産品がもしなければ、何か産業を興すしかない。

 

「閉鎖されていた国ならではのことではあるのですが、国外からあまり物が入ってこないので、国内だけで全てをまかなってきたようですね。それだとジャスミンの商人たちのように、国内の流通を押さえている商人たちだけが力を持つことが出来る構図になっています。帝国の商人たちはそのことを知っていたから、初めから自分たちで流通の経路を開拓する気満々で来ているようです」

「どういうことですか?」

「たとえば、護衛ですが、ほとんど帝国で雇って連れてきています。こちらで雇おうとすると妨害が入るか、下手をしたら護衛の役割を果たすつもりのない者たちを送り込まれるかもしれないと危惧した結果でしょうね。ジャスミンの商人たちは、馴染みの者たちから帝国の商人たちが行く道や、扱っている商品についての情報が全く得られなくなりました。かといって、道中で襲おうにもまだ帝国軍が見回りを強化しているので、すぐに捕まってしまうでしょう。その者たちの口から自分たちの名前が出てきたら、ヤバイでしょうねぇ」

「あ、そうですね。つまり、帝国の商人たちは、最初からジャスミンの商人たちを見限っているということですか?」

「そこまでは言いませんが、あてにしてはいないのでしょう」

「でも、それだと、実際に売る時とかのお店とかはどうするのでしょう?」


 さすがに今ある店を明け渡せということは言えない。ジャスミンの商人たちはラージェンの各地に店を構えているので、商売敵がその地域に入ってくることは嫌うはずだ。


「フィー、全ての店がジャスミンの商人たちの持つ店ではありませんよ」

「全ての店……?えっと、個人商店とか?」

「正解です。帝国商人たちがまず狙うのは、その地域に根付いた個人商店や小さな商会です。そこに帝国の商品を卸します。もちろん、ラージェンの者たちが一方的に不利になるような契約をした商会には、帝国の本店も含めて監査が入ることになるでしょう。帝国商人たちは、そんな愚かなことはしませんよ。ラージェンが入ったところで、広い帝国全土の流通を担っている商人たちにとって負担はそんなに変わりません。ジャスミンの商人たちが、自分たちが独占していることをいいことに今まで不当に高い値段で売っていた商品が、帝国商人の手によって質の良い物が適正価格で各地に送られ、その地に根付く小さな店で売られることになります」


 シルフィーリは、目をパチパチさせた。

 神子としてしか生きてこなかった今までは、そんなことを考えたこともなかった。

 商人たちによる競争。

 帝国から送られてくる質の良い品物が、ラージェンの各地に届く。

 もし、それにジャスミンの商人たちが手を出そうとしたら帝国軍が出てくる可能性があるので、下手な手出しは出来ない。

 

「これが帝国の商人たちの戦い方です。今までジャスミンの商人たちに押さえつけられていた小さな店が、安定した仕入れ先を持つことで盛り返してくることでしょう。逆にジャスミンの商人たちの持つ店は、縮小していくことになると思いますよ」


 小さな店が築いてきた人脈は、馬鹿に出来ない。

 ふんぞり返って商売をしてきた店から離れる者は多いだろう。

 帝国の商人たちは、全てを自分たちで独占しようとは思っていない。どちらかというと、依存度を上げる方に重きを置いている。

 現地の店に定期的に仕入れさせることで自分たちに対する依存度を上げ、無くなることを恐れさせる。

 そうやって新しい取引先を開拓していくのだ。


「そうだ。そういう店に何かあるかもしれませんね。まずは、ジャスミンの小さな店を回ってみましょうか。もちろん、フィーも一緒に行きましょう。きっと楽しいですよ」

「はい!」


 シルフィーリはキラキラした目でシリウスの方を見たのだった。

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