酒場の噂①
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気軽に入れる酒場に行くと、大勢の人が好きなように飲んだりしゃべったりしていて、敗戦国とは思えないほどの賑わいを見せていた。
隅の方の机が空いていたので座ると、従業員がすぐに来て、注文を取って行った。
「お前さんたち、見ない顔だな」
「何か新しい商品がないかと思いまして、帝都から来ました」
「帝都かー、いいな。俺は行ったことないが、賑わってるんだろ?」
「もちろん。ここにも負けない賑わいを見せていますよ」
隣の机に座っていた男が、シリウスたちに話しかけてきた。
すでに出来上がっているのか、顔が赤らんでいる。
「ラージェンには来たばかりなのですが、ジャスミンの面白い話はありませんか?」
さりげなく男に酒を渡しながらシリウスが聞くと、気分がよくなったのか、男が豪快に笑った。
「おぅ!ありがとよ。そうだなー、うちの旦那から聞いた話なんだが、新しい支配者ってのが、帝国の大公殿下らしいが、兄ちゃんは知ってるか?」
「帝都では有名な方ですから」
「そっか。俺たちには、雲の上のような人だけど、旦那さんたちは会いに行くらしいぜ。ジャスミンは王国時代から商人の街だから、このままにしてもらうらしい」
「なるほど。ジャスミンは、商人たちが好き勝手動かせる街だったんですね」
「滅多なことは言うなって。好き勝手って言うか、まぁ、それなりに持ちつ持たれつの関係だったから、色々と便宜を図ってもらってたってだけだって。その大公殿下にしたって、利益が出れば文句もねぇだろ?」
「商人としては、そうでしょうねぇ」
別に強く締めるつもりはないが、ただ、商人の言うがままになる、と思われるのは後々響くことになる。このまま自治させるより、代官を派遣して、しっかり監視をした方がよさそうだ。人選もしっかりしないと、商人と癒着するような人物では困る。
規則でキチキチの堅物より、柔軟な感性を持った人間を選ぼう。
「大公殿下について、何か言っていませんでしたか?」
「えーっと、確かその大公殿下ってうちの神子さんの婚約者になった、んだよな?」
「そうです」
「あ、やっぱりそうか。それで、残った巫女たちが買い物しまくってるらしいぜ」
「どうして、神子の婚約者のことでその巫女たちが買い物しているんですか?」
「そりゃー、誘惑するためじゃん」
「は?」
男が得意気にそう言ったので、シリウスは思わず素の声が出てしまった。
「誘惑、ですか?」
「そうそう。詳しくは知らんけど、神子の婚約者って、昔っから最後は巫女と結婚してるんだぜ。何か知らんけど、巫女たちが誘惑して、その婚約者が結婚相手を決めるんだってさ」
「神子の婚約者、ですよね?」
「神子さんは恐れ多いから、巫女を選ぶんだってさ」
「意味が分かりませんね」
「ま、昔っからの習慣みたいなもんらしいから、神子さんの婚約者が大公殿下ってことで、残った巫女たちが張り切って誘惑するんだろー。うらやましいよな!選びたい放題じゃん!」
がはははは、と笑う男に、シリウスは曖昧な笑顔を返した。
内心ではものすごく不愉快になりながらも、必死で表に出さないようにしていたのだった。




