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偽兄弟商人の楽しい旅⑦

読んでいただいてありがとうございます。

 ジャスミンでも比較的高級な宿に入ると、まだ子供で体力もあまりないシルフィーリは疲れていたようで、すぐに眠ってしまったとケイトが報告に来た。

 夕食の約束をしていたが、無理に起こすのも可哀想だ。


「ケイト、シルフィーが起きたら、何か食べさせてください。私は情報収集のために外に出ますので」

「はい。お気を付けて」


 護衛はもちろん連れて行くが、少々強面と軽薄そうな騎士を選んだ。あからさまな威圧担当と、陽気な兄ちゃんキャラで口を軽くしてもらう要員だ。

 もちろんシリウスの直の部下なので、二人とも腕は立つ。

 他にもこっそり護衛をする者もいるので、よほどのことがない限り、シリウスに危険が及ぶことはない。

 シリウスが二人を連れて外に出ると、そこには、敗戦後すぐの国とは思えないほど活気に満ちていた。

 

「ふむ。商人に活気があるのはいいことですね」

「はい。ジャスミンの商人たちは、元々他国との取引きをしたがっていましたから」

「己のことしか考えていない国の上層部からの圧力がなくなった今、堂々と商売が出来るということですね」

「そのようです。それに、ジャスミンは徴兵に応じていなかったようです」

「ほう。よく上の連中から責められませんでしたね」

「文句は言われたようですが、商人が一致団結してジャスミン全体で拒否したようです。商人たちがいなければ物が届きません。特に戦争中だったので、ラージェンの上の者たちもそこまで強くは言えなかったようです」

「なるほど。それは、面倒くさいことになりそうですねぇ」


 シリウスは、面倒くさそうに息を吐いた。

 ジャスミンの商人たちは、自分たちが一致団結すればたとえ国王の命令だろうとも拒否出来る、という前例を作ってしまった。

 それは、ラージェン王国がフラフィス帝国に支配された今だろうが、変わることはないと思っているかもしれない。

 つまり、商人たちは、シリウスに逆らう、とまではいかなくとも、何らかの条件を付けたり、譲歩を引きだそうとしてくるだろう。

 商人なのだから、利益を求めることは当り前だ。

 多少のことなら受け入れてもいいと思っていたが、最初からそれをすると、ジャスミンの商人たちはシリウスを、そして帝国そのものを自分たちの思い通りに出来ると思って侮り始めるだろう。

 勘違いさせてはいけない。

 王国時代のことなど、帝国には関係ないのだから。


「商人、いや、そこで働く者たちが集まるような酒場に行きましょう。面白い話が聞けるかもしれませんから」


 酒を飲めば、人の口が軽くなることは多い。

 ちょっとした上司の愚痴くらい、言いたくなるものだ。

 商品や取引には直接関係ない、ちょっとした愚痴。

 だが、下の者たちほど、上の者たちのアレコレを知っていたりする。

 そう、たとえば、商売には関係ない人間関係や、愛人がいることも知っていたりする。

 それに勇ましい話が聞けるかもしれない。

 そういう話からも、色々と分かることがある。


「もし、ジャスミンの商人が、帝国に対して同じようなことをするつもりなら、何カ所かは潰します。帝国の商人は、ジャスミンにいる者たちだけではないですから。うちの商人たちに知らせてやれば、嬉々としてジャスミンを乗っ取りに来るでしょうから」


 販路や取引先を増やす、いい機会になる。シリウスのことを知っている商人たちは、喜んで協力してくれる。その商人たちが仕切ってくれた方が、シリウスとしてもやりやすい。


「楽しみですね」


 ラージェンの王侯貴族たちより、よほど手応えのある敵になるかもしれない。

 シリウスは、どちらかというと、武力だけではないそういう戦いの方の担当だ。

 楽しそうな笑みを浮かべるシリウスに、護衛の者たちは、この場にシルフィーリがいなくてよかったと安堵していた。

 シリウスはシルフィーリに対して、彼らが見たこともない笑顔や聞いたこともない優しい声で接している。最近はそんな姿ばかり見ていたのだが、シルフィーリに出会う前のシリウスは、いつもこんな感じだった。

 見ると、ちょっと不幸になるかもしれない、あやしい笑顔、そんな風に密かに言われているシリウスの笑みは、純粋培養のシルフィーリにはまだちょっと刺激が強いかもしれない。

 護衛たちは、主の幼い婚約者には、ぜひともあのまま純粋な癒しの感じで育ってほしい、と願っているのだった。

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