第83話 無限ダンジョンイベント攻略 その⑪ 地下100階の先編
翌週土曜日、『気まぐれ』は地下115階、火のフロアにいた。
「あと2階層差が縮まらないねー」
「まさかこんなに100階から難易度上がるなんてね」
先週の土日で『躍進』との差を2つ縮めた『気まぐれ』だったが、それ以降は一進一退と大きく変わることはなかった。
それもこれも地下101階からの難易度上昇にある。
「向こうは下の情報はないからな、焦りもないんだろう。ほら行くぞ、全言葉剣!」
リョウヤの言う通り、毎日公開されるのはトップの到達階層だけで、『躍進』には他のクランの情報を知ることはできない。
もちろんフレンド通話で教えることは可能だが、イベント中はさすがにリョウヤ達元『躍進』のメンバーも接触しないようにしていた。
そして中央付近で雑魚相手にリョウヤは全力の攻撃を繰り出す。
地下100階付近では攻撃力は高いもののHPはそれほどでもなかったのが、ここから一気にHPも高くなりちょっとやそこらのワードの攻撃で倒せなくなっていた。
「今の声で集まってきたよー! マホっち、スマぷー!」
全力の攻撃ということは声も大きくなり、これまで回避できていたモンスターも反応してくる。
平日に何度か試した結果、それをあえて囮にすることでモンスターを集め、それを魔法で殲滅するのが一番効率が良かった。
特にリョウヤの声は大きいのでかなりの範囲からモンスターを呼び寄せることができる。
「いくよスマぷー!」
「オッケーや!」
マホとスマイルがタイミングを合わせて特大の範囲魔法を放ち、集まったモンスターを一掃する。
「まだ残ってる!」
「おっと! お任せっス!」
その討ち漏らしにはアークが反応して仕留め、先に進む。
こうなれば寄ってこなかった奥にいるモンスターには全員で掛かることができ、安定して倒していくことができていた。
「いやー、さすがみなさん前回MVP獲っているだけあって火力が凄いですね。あー君さんも『躍進』にいたのがわかる的確さです」
それを後ろで録画しているハートが絶賛する。
ハイレベルな攻撃が飛び交う絵面に興奮を抑えきれなかったらしい。
それもそのはず、これはハートが求めていたものだ。
現在トップを争っている二組は、人数ゴリ押しの『躍進』と、火力ゴリ押しの『気まぐれ』。
見ていてどちらが壮観かというのは人によるだろうが、ハートは後者が見たくてこのクランに入ったようなものだ。
それにとある理由でこういう画を撮っておきたかったというのもあった。
「この先がボス部屋前っぽいよ。ティエりんとあー君準備してて」
「任せて」
「いつでもいいっスよ」
ガーゴイルは動き出すと回避重視で物理攻撃を当てることが難しくなるが、鎮座している位置からマホ達を見つけるまでの一瞬に遠距離攻撃を当てるチャンスがあることを見つけていた。
階を進むごとに広くなった本筋が一旦狭まり、ボス部屋前の空間との境界になる位置で二人は武器を構える。
「一球……入魂っス!」
「|超水直矢《ハイパーストレートウォーターアロー!」
野球のセットポジションの構えから足を上げたアークの動きに合わせて、その足の着地と同時にティエラも前の空間に足を踏み込んで矢を放つ。
そうすることによって、二体のガーゴイルには二人の認識と攻撃が同時になり、回避できずに攻撃が直撃する。
「よし、半分削った! あとはいつものパターンで!」
二人ともウルトラレアのワードを使用していてこのダメージだ。
そこからは前衛が跳躍を誘い、直線的な動きになったところを後衛がそれぞれペアで連携して落とす。
今はダメージを考えてマホとアーク、スマイルとティエラのペアだ。
「ふーっ、まだなんとかなるな」
「前衛が当てれたらいいんだけどねー」
「当たる気がしないです」
前衛組はそう言うが、ここが僅かに『気まぐれ』が有利な点だ。
対ガーゴイルの戦闘時間はこちらの方が短く済んでいる。
『躍進』では、一体を同じように前衛で跳躍させてから少ない遠距離組がなんとか倒し、もう一体は武蔵が得意のカウンターで仕留めるのがパターンだが、どちらも火力が足りず数回繰り返す必要があった。
「ここまで来たら気にしてもしゃーない。むしろみんなのおかげで仕留められとんのや。胸張っていこー!」
「さすが参謀スマぷーさんです。みんなを持ち上げるのが上手いですね」
「ふふっ、確かに。スマぷーいてよかったー。気持ちよく進めるもんね」
「ありがとうございます、スマぷー」
「や、やめーや。照れるやんけ。ほ、ほなボス行くでー!」
持ち上げておいて持ち上げられると本気で照れて誤魔化しきれないスマイル。
「よーし、ボスには全力だよ」
地下100階では明らかにオーバーキルだったので、地下101階では地下99階のボスを倒した時と同程度まで抜いてみたら思いっきり反撃を受けた。それもこちらのHPを半分以上削られる反撃だ。
しかもそれで与えられたダメージもHPの半分程と地下101階からは雑魚もボスも別次元だった。
以降ボスには手抜き一切なし、マホやスマイルも完全詠唱付きで魔法を放った。
使用する魔法は連続攻撃系が有効ということもわかっている。
マホは水の槍、スマイルは水の弾を多数出現させてボスの火のエレメントを攻撃し、それに合わせて物理組も動く。
このパターンだと、完全にタイミングを合わせなくても魔法が全て当たるまで反撃が来ないというのも大きかった。
それぞれが厳選した手持ちワードを叫びながら攻撃を放つと、火のエレメントは倒れる。
「これで倒せなくなったら詰みだよねー。絶対即死級の反撃来るっしょ」
「確かにな。だが、明日までなんだ。なんとか進み続けたいところだな」
「ヘヴンリーさんだけができる裏技がありますが……やりますか?」
「あーし?」
ドロップを確認しつつボヤくヘヴンリーにハートが一つ提案する。
「……あーねー。あんましやりたくないかなー」
「でも、それやれば、ってときに一回だけやるのはどう?」
その提案を聞いたヘヴンリーはやや否定的だったが、マホが追加で案を出した。
「そうね、やるとしたら……明日『躍進』との差が1層だったら最後の1層分だけ、かな」
「うん、それならいーよ。勝てるなら勝ちたいしねー」
マホの案も含めてティエラが纏めると、ヘヴンリーもそれを受け入れる。
「よー覚えとったなー。ソレで勝てたら指揮官ハーちゃんの作戦勝ちってことでええんやない?」
「スマぷーはそれでいい?」
スマイルは前回イベントではハメ技というやり方をしてしまったことに引け目を感じていた。
「それがなー、今ゆーたみたいにハーちゃんに感心したんや。おかげで前のんも自分で納得できたかもしれんわ」
前回のやり方を含めてこれも作戦の内、とスマイルは考えられるようになったようだ。
「ふふ、スマぷーさんが前進できたのならよかったです」
「もしかして……ワザと──いや、どっちでもええわ。ありがとなハーちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
残っていたわだかまりの消えたスマイルが、今までで一番の笑顔をハートに向けると、嬉しそうにハートも受け取った。
「よっし、ラストスパート、行くよ! なんとか今日あと2フロアは進もう!」
地下100階を超えてからはひとフロアにかかる時間も3時間程と、平日はマホがいる内に1層、居残り組と深夜組が一緒の時間にもう1層進むのがやっとだった。
今日もここまで3時間オーバーと、休憩を考えるとマホがプレイできる時間内にそこまで進むのは厳しくなってきた。
「いや待った。2フロア進むのを逆算して一旦休憩しよう。ここまできたら進める階層もわかってるし、ここから次に行くとマホちゃんも食事に抜けられないだろ? ちゃんと伝えてきた方がいい」
「ん。そうだね。休憩しなくても遅れそうだし行っておいで」
逸るマホを冷静に大人達が諌める。
「わかった。みんなちゃんと時間見ててすごいなぁ」
「そんなことないさ。先に進みたい気持ちがないわけじゃないからな」
とにかく目の前のことに精一杯になるのは勝ちたい気持ちの表れでもあるのでみんなマホの気持ちも理解している。
「そーそー。大人になるとやたら残り時間計算ばっかり得意になって嫌になるよ」
「ははっ。わかるわー。定時までにアレやってコレやってってなー」
「みんな同じなんスねー」
「もうっ、兄さんまで! マホ姉さん困ってますよ!」
「あはは、大丈夫だよレーちゃん。それじゃあハウスに戻って休憩だね。30分後にまた集合で!」
「オッケー!」
こうして緊張感の中にもユルさを忘れない『気まぐれ』一行はそれぞれの休憩に入り、再開後はマホともう1層、マホが抜けて1層をなんとかクリアし、最終日は地下118階から始まることになった。
お読みいただきありがとうございます。
次回ようやくイベント最終日です。
それまで書き終えたら次の前に例の書き直しに入ろうかと思っています。




