第76話 無限ダンジョンイベント攻略 その⑤ 何も無いフロア編
「なんやこれ!?」
マホ達に続いて後からやってきたスマイルも叫ぶ。
「う、浮いてる?」
「いや、普通に歩けるな。透明な床に立ってる気分だ」
辺りを見回してそう感じたレイに、リョウヤが実際に動いて見せる。
地下9階、そこは真っ黒な空間。星のない宇宙空間にいるかのような場所だった。
しかし暗いわけではなくお互いの姿はハッキリと見える。
ただ何も無い。
「もしかして……迷路?」
「そうかも。これじゃ手探りで総当たりするしかないわ。壁がないか確認してみましょ」
マホの予想にティエラが答え、その提案に全員が四方に分かれる。
「ありましたね」
「洞窟と同じ手触りやな」
まずマホと反対の方向に向かったスマイルとハートの二人から報告が来る。
スマイルは氷のフロアで壁を伝って歩いていたのでそれにすぐ気付いた。見えないが作りは洞窟のままらしい。
「こっちもあったよー」
「確かに岩壁みたいな手触りね」
スマイル達に対して横に進んだヘヴンリーとティエラの天地コンビからも同じ報告が飛ぶ。
「ありました!」
「壁っス!」
その反対に向かったアークとレイ兄妹も壁に当たったようだ。
「ってことは……」
「こっちが進行方向でいいみたいだな」
「じゃあみんな集まってー」
マホとリョウヤのいる方には壁がなく、他のメンバーの報告から本筋に続く道だとわかり、そちらへ呼び寄せる。
「それにしてもあーしら近接と遠距離いい感じだねー」
何気なく分かれたメンバーだったが、キッチリ前衛と後衛のペアに分かれている。
「確かに。いざというときにペアで連携できるといいかも。あたし達は慣れてるけど、みんなもやってみて」
ティエラとヘヴンリーはずっと一緒にプレイしているのでお互いのこともよくわかっている。
「そうだな。レイちゃんはどうだ? マホちゃんとがいいんじゃないか?」
リョウヤは初対面以来レイを呼び捨てにはしていない。周りに倣ってちゃん付けだ。
そして今は無意識に組んだだけなので、マホをペアの相手にと気を利かせた。
「は、はい。ありがとうございます!」
リョウヤの第一印象は微妙だったが、レイも徐々に打ち解け始めている。
「なら、自分のペアは兄貴よろしくっス!」
妹が自分を頼りきりだった以前から変わり始めていることに喜びを感じながらも、自分は自分で憧れの存在であるリョウヤと組めることに内心ガッツポーズしている。
「ああ。俺はどうしても盾での防御を優先するから手数は少なめになる。お前の援護、頼りにしてるぞ」
そうは言っても、その少ない手数の威力は凄まじいのだが。
「はいっス!」
それがわかっていても頼りにされれば嬉しいものだ。
「じゃあ、レーちゃんよろしくね。二人でドカンとやっちゃおう!」
マホもレイと組むことを歓迎する。
二人で何度かダンジョンへ入っているが、この二人のプレイは広範囲・高威力の殲滅型で、それはもう凄いものだった。
「はい!」
マホに受け入れられ、両手を力強く組んで喜びを表す。
「なぁ」
そこにスマイルがボソッと口を挟む。
「ん? スマぷーどうしたのー?」
「いや、どうしたもなにも、ウチの相方撮影係やん! どうやって連携すねん!」
スマイルはハートとペアを組むこと自体には不満はないらしい。
「大丈夫ですよ。僕もちゃんと口出ししますし」
「戦えやぁー!」
スマイル渾身のツッコミが響く。
「ぷっ、あははは」
つられてマホが吹き出す。
「ははは、いいコンビじゃん!」
「コンビて、ウチら漫才担当なん!?」
そう言いつつも満更でもなさそうだ。
「いや真面目な話、後ろで見て気付いたことを言ってくれるだけでも助かる。こういう初見だらけの場所ではな」
「つまり、指揮官と参謀ってこと」
真面目にリョウヤが答えると、ティエラは今回ハートが指揮官であることを踏まえてそう例えた。
「ほ、ほほう。参謀てなんか賢そうやん?」
「じゃースマぷー参謀! 指示をお願いします!」
楽しくなってきたマホはそのノリでスマイルに号令を任せた。
「よーし、ほな壁に気を付けながらあっちにゴーや!」
スマイルもノリノリで進行方向を指しながら号令をかける。
「おー!」
ヘヴンリーも乗った。
マホ達がいた方に壁がなかったとはいえ、正確にはまだ真っ直ぐ進んでいいのかはわからないので、また両側に二人ずつ分かれて壁を確認しながら進んでいく。
「ん? そういやモンスターおらんな」
これまでに犬型モンスターと遭遇したくらいには進んだが、それらしい姿もない。
「さすがにこの迷路で戦闘は無理っしょー」
「範囲は大体わかっていても、いざ戦うとなると見えない分忘れがちになるわね」
「そういう戦闘は考えにくいな」
今はそれぞれ両側の壁の位置に仲間がいるので把握できるが、戦闘となれば特に前衛は動くし、狙われれば後衛も回避せざるを得ない。
そうなると壁の位置が曖昧になる──それだけならまだしも最悪進行方向を見失ってしまうこともあり得る。
なのでリョウヤはこのゲームの運営の方針をメタ的に読んで否定した。
「迷路ダンジョンもわかりやすい固定の場所だけだったもんね」
マホもトライアングルの迷路ダンジョンには何度か入っていて、そういうものだと理解していた。
「ではボス部屋まで行くだけですかね。……おや?」
「ん? ハーちゃんどうしたんや?」
「このずっと先……見えますか?」
ハートはそう言って進んでいる方向、その奥を指差す。
「扉っス!」
「あー、アレね!」
目を凝らして見ると、奥の方に小さくボス部屋の扉だけがあるのがわかった。
「よー気付いたなー。さすがハーちゃんや。アレ目指して進めばええんやな」
「真っ直ぐ行けるのは今だけですがね」
おそらく今後同じフロアに行き着いた場合には、今とは違う本格的な迷路になっているだろうとハートだけでなくみんな感じていた。
「が、ガーゴイルもいませんね……」
「ホントだ。そのまま入れるのかな?」
見えているのは扉のみ。
ここまでは扉を守っているガーゴイルが二体いたが、このフロアにはそれすらいないらしい。
扉に辿り着きマホがそれを押すと、あっさりと中に入ることができた。
「お、洞窟に戻ったねー」
ボス部屋はさすがに壁も地面も見ることができる、これまでと同じ部屋だった。
「無のエレメントだって」
「無属性ってことか。なるほどそれは考えてなかった」
ボスは黒く透き通ったクリスタル。闇と違って向こう側が見えている。
「あたしも。言われてみれば属性にカウントするゲームもあるわね」
当然と言えば当然なのだが、ワードとしての「無」はこのゲームにおいて属性として扱われるわけではない。
ただイベントに合わせてそれっぽく出されただけだ。
「誰か「無」って持ってる?」
初めて目にしたマホがメンバーに確認する。
「いや、恐らく今回追加された新ワードだろう。「無限◯◯」と使っているやつはいたが、みんな持っていたのは「限」の方だった」
「マジ!? 新規追加で入手チャンスありとかさすが運営さん!」
リョウヤの言葉にヘヴンリーはテンションを上げるが、
「ヘヴンリー、この迷路……周回する?」
ティエラは冷静に釘を刺す。
ヘヴンリーは迷路ダンジョンですら苦手としている。
しかもモンスターがいないのでレアドロップに期待することもできない。
「そ、そうだったぁー!!」
それを思い出したヘヴンリーは頭を抱えて叫ぶ。
「攻略はみんながいるから! それに今後も手に入るかもしれないんだし!」
カケラに関しては今後も入手可能であると明言されている。
どのような形になるかは不明だが、今回手に入らなくても少しずつ貯めればいずれ手にする時は来るはずだ。
「そうだねー、ありがとマホっち。じゃ、進もっか」
励ましてくれるマホにお礼を言いつつサクッとボスを倒して「無のカケラ」を入手する。
そしてクラン『気まぐれ』は地下10階へと転移していく。
そのイベントチュートリアル最後と予想される地下10階では遂にモンスターが動き始めた……。
お読みいただきありがとうございます。
これでこのイベントに登場するフロアは全部……とは限りませんが、ここまでこのゲームの運営になったつもりで紹介させて頂きました。
ここの運営ならいきなり放り込んで「さぁやってみろ!」とはならないと思いますので。
※10/24 雷フロアの抜け修正に伴い階層数を修正。
もちろん出現確率は8種のフロア均等です。