第74話 無限ダンジョンイベント攻略 その③ 難易度変化編
地下2階は水属性のフロアだった。
出現するのはウォータードッグにウォーターマン、ウォーターバードと水というよりスライムがその形をしているようなモンスターだ。
種類は地下1階と同じこの三種で、ここも脇道なくガーゴイルのいるエリアに着き、青い目をした水のガーゴイルを倒すとボス部屋の扉が開く。
「なんてゆーか……手抜き?」
「でも前回のイベントから約一ヵ月で全属性分用意したんでしょ? それに種類を揃えてくれてる方がわかりやすくていいと思うわよ」
この二階層を見てヘヴンリーが呟くと、ティエラはメタ視点から評価する。
「せやな。グラフィックは手ぇ抜いとらんし、ごちゃごちゃしとるより見てすぐわかるんは助かるわ」
スマイルも好意的だ。
シリーズ装備も入手すると自動で装備が変更され、表示OFFでも見れるようにされていたように、運営の「ここを見て欲しい」感が伝わってくる。
青色クリスタルの水のエレメントを倒し、地下3階へ進むと、今度は風のフロア。
風をイメージしやすい淡い緑色が渦巻き、モンスターの形を成していた。
ここもやはりモンスターは三種と同じ色の目をしたガーゴイル。そして風のエレメントがボスだ。
そして地下4階。
ここは雷のフロア。電気のエフェクトをしたモンスターがいて、武器以外で触れると感電して一瞬動きが止まってしまう。
「うわ、コレ攻撃避けなきゃダメなんじゃない? リョウヤちん次は盾で押してみてよ」
「お、俺がか? ……俺しかいないか」
唯一の盾持ちであるリョウヤが恐る恐る盾でも感電しないことを確認して先へ進む。
次の地下5階は岩のフロアで、モンスターは岩というより、茶色の小さな立方体が集まった、レトロなゲームのドット絵のような姿だった。目や口の部分だけ色が違う程度で、ほとんど一色なのにはっきりと犬や鳥だとわかる。
「はぁー! どれも凝ってるー! 手抜きとか言ってすいませんでした!」
まだ全てを見たわけでもないが、それでもヘヴンリーは脱帽せずにはいられなかった。
「凄いねー。このブロック。ホントの鷹みたい」
翼を広げて佇むブロックバードを間近で見ながらマホも嘆息が漏れる。
「先に進むとこいつも動くんだろうな」
今は微動だにしないが、今は運営が披露しているだけなのだろうとみんな感じている。
「それじゃここは……レーちゃん! やっちゃってー!」
「はいっ!」
マホからの指名を受けてレイがブロックバードを倒す。
そしてドロップの確認。
「あっ! カケラっスよ!」
確認したアークが声を上げる。
そして全員に「岩のカケラ」が行き渡る。
「レアドロップでも出るってことかな。ロットいらないのは嬉しいね」
「そりゃーレアドロップが一つだけなら『躍進』とか全員分集まらないっしょ」
ティエラの言葉にヘヴンリーが突っ込む。
「ふふ、それもそうね」
「まぁ、ここの運営らしいやり方だな」
「せやね。レアドロップならそれ求めて周回することもないやろし」
「マホさんの運なら、とは思ってしまいますけどね」
「ハートさん……! そうですね!」
この数日でマホのプレイを目の当たりにしたレイは強くハートに同意する。
「もー……そんなことないって。ほら行くよー」
照れを誤魔化しながらマホが先導して進行を再開する。
「うわっ、地面凍ってる! 氷のフロアってことだねー」
ヘヴンリーが唐突に叫ぶ。
岩のエレメントを倒して進んだ6番目の階層は今までと様子が違っていた。
ここまでは普通の洞窟だったが、この地下5階はその洞窟の地面が氷に覆われている。
「滑るっス! 自分、ここで投げるの無理っスよー!」
アークは情けない声を出している。
それもそのはず、凍っているのは見た目だけでなく実際に氷の上に立っているように摩擦がほとんどない。
アークは歩くのは問題なさそうではあるが、得意の投擲はどう考えても不可能だ。
「兄さん……こう、スケートの要領で……!」
レイは漆黒のコートを靡かせスイスイと進む。
「わっ、レーちゃん待ってー──きゃっ!」
慌てて追いかけようとしたマホは滑って転ぶ。
「マホ、気をつけないと」
「そーゆーティエりんはどうなのさー?」
「あ、あたし? そ、そうね……慎重に歩けばなんとか……弓は射れるわよ?」
レイと同じく平気そうなヘヴンリーの煽りを受けてフラフラと歩くティエラは強がりながらもその先に見えたアイスドッグに弓を放ち命中させる。
「おおー。さすがやなー。ウチは壁に手を突かんと無理や……」
スマイルは端に寄って壁を手すり代わりに歩いている。
「急に難易度上がったな。氷がレアからだからか?」
リョウヤはこの変化の理由について考察し始める。
こちらは氷を意識せずにスタスタと歩いている。
「なるほど。その説はありそうですね」
そこにハートも加わる。
ハートの方はどうやら足音を消すサブウェポンの効果らしく、普段と同じ動きができていた。
「もし氷のフロアに当たったら、レーちゃんとヘヴンリーお願いね。私も魔法は撃てそうだけど、参加すると邪魔になりそう」
「マホ姉さん、任せて!」
「オッケー!」
マホは特に平気そうに進む二人に氷フロア攻略を託す。
そもそもマホはスケートの経験もなかった為、氷の上を歩くことすら未知の領域だった。
「俺も必要なら動こう。慣れておく必要はあるがバランスゲームは得意な方だ」
リョウヤが平然と歩いていたのは違う理由からだったらしい。
「何故か僕は影響ないみたいなので、最悪僕も出ますよ」
「いや、最悪て。ハーちゃんも普通に参加してええんやで?」
「いいえ、皆さんをしっかりと収めるのが僕の使命ですので」
一人離れたところからスマイルがツッコミを入れるが、ハートはどこ吹く風だ。
そして移動に四苦八苦しながらも地下6階をクリアする『気まぐれ』一行。
そのまま地下7階を進んでいくが、そこでヘヴンリーが違和感に気付く。
「あれー? なんもいないねー」
その場所はそれまで犬型のモンスターがいた辺りだが、この階では見当たらない。
「モンスターがいない階なのかな?」
「そんなラッキーゾーンみたいなん──って、マホっち!」
「わっ!」
後列でマホと並んでいたスマイルがマホの歩みを掴んで止める。
マホが慌てて視線を戻すと、この集団の真ん中辺りに何かがいた。
「シャドウドッグ!? いつの間に!?」
マホ達の声を聞いて振り返ったヘヴンリーがその正体を見る。
犬の形をした真っ黒な影が、真ん中を歩いていたティエラの影から現れたところだった。
「っ! レーザー光線!」
マホが咄嗟に杖を向けて唱えると、杖の先から光線が飛び出してシャドウドッグを貫く。
「ビクったー! 今ティエりんの影から出てたよ?」
「影……闇のフロアか」
「奇襲っスか。動いてたらヤバかったっスねー」
「さすがウルトラレアだけのワードだね」
「出現条件を知っておいた方がよさそうです」
「罠みたいに踏んだら、とか?」
「ありそうやなー。てかマホっちが言うんや、当たりやろ?」
「可能性は十分にありますね」
各々が考えを繋いでいくが、『気まぐれ』としての結論はマホの言った「出現ポイントを踏むと出てくる」で一致した。
「人型と鳥もいるんでしょうし、誰か正確に覚えてる? 安全な今のうちに踏んでみましょ」
「じゃ、じゃあわたしが……」
ティエラの提案にレイが恐る恐る手を挙げる。
そしてキッチリとこれまでモンスターがいたポイントを踏み抜き、マホの予想を的中させた。
「これ……どうせ後はランダムなんやろ? なるべく後半で引きたないなー」
「そもそも闇かどうかもランダムですしね」
今は位置がわかっているから狙って踏むことができたが、闇エリアとわからないうちにそこまで警戒できるかと言うと難しくなる。
「氷みたいにわかりやすいヒントあればなー」
「えっ? あるじゃないっスか」
ヘヴンリーが愚痴ると、さも当然のようにアークが答える。
「ど、どこに!?」
そう言われてもヘヴンリーにはわからない。
というかアーク以外誰もそれに気付いていなかった。
「上っス。上」
「上?」
天井を指差されたわけでもないのに思わず見上げてしまうマホ。
「あ、わかった。上ってそっちじゃなくて視界の上の方よ、マホ」
ティエラだけがアークのヒントで気付く。
「そうっス。さすがティエラ姉さん。「無限ダンジョン地下6階」って文字の色っス!」
「色? 最初から黒文字じゃなかったか?」
リョウヤはそう言われても記憶が曖昧だった。
「そういえば最初見た時は赤文字だった気がする!」
唯一確認していたマホはそれを思い出した。
「コレ変わってたん? 全然意識しとらんかったわ」
常に動く洞窟の中に集中していれば、視界端のことなど気付かないのも無理はない。
「毎回変わってたっスよ。てっきりみんな気付いてるもんだと……」
「それでも言ってよ兄さん……」
呆れたようにそうレイが言うと、申し訳なさそうに頭を掻くアークだった。
「まー、コレで闇じゃなかったらそこまで緊張しなくていいんだし、早めにわかってオッケーオッケー」
気を取り直した『気まぐれ』は更に地下8階へと進んでいった。
お読みいただきありがとうございます。
私の予告は外れます。(今更)
次回ですが、今日二回目のワクチン接種で今も割としんどいので明日はお休みするかもしれません。
体調がどうなるか次第です。
※10/24 雷フロアの抜けを追記しました。




