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第73話 無限ダンジョンイベント攻略 その② 地下1階編

 視界が変わると、マホ達は洞窟の中にいた。

 突入前は「無限ダンジョン未突入」だったアイコンが「無限ダンジョン地下1階」に変わっていた。

 念の為タッチしてみると、メンバー一覧の一番上にハートの名前があり、その左には「指揮官」のマークが付いていて、右には「地下1階攻略中」と表示されている。

 そして各メンバーの名前の右にも同様の表示があった。


「なるほどー。誰がどこにいるかわかるようになってるんだ」


「どれどれー」


 確認したマホの言葉を受けてヘヴンリーも試してみる。

 そちらは先頭がマホで次にハート、そこからヘヴンリーと同じマホからナンバーを振られているリョウヤとティエラが続き、その後にハートの下にあたるアークの名前があり、その下にスマイルとレイの順になっていた。

 それぞれ名前の右に現在地が表示されているのはマホと同じだ。


「おそらくクランハウスでも確認できるんだろう。なら誰かが先に入っていてもすぐにわかるな」


「というか今のマホの声が別で聞こえたわ。発信側がメニューを出せば声が届くみたい」


 普段はお互いがメニューを開いていないとできないパーティ通話がメニューを開いたメンバーからと一方的ではあるが可能らしい。


「便利やなー。普通のパーティかクラン限定でも実装してくれたらええのに」


「もしかしたらコレがお試しであとから追加されるのかもねー」


 ちなみにこれはまだ誰も見ていないパーティメニューにあるヘルプから知ることができる機能だった。



「よーし、みんな進んでみよーよ!」


 現状の確認が済んでマホが元気よく指揮する。


「おー! っス!」


 そこにアークが乗ってくる。


「まずは本筋だけみたいね。モンスターも出るのかな?」


 ティエラの言う通り、今は一本道の洞窟の行き止まりのような場所にいるので進む道は一つ。

 その道を歩き始めた『気まぐれ』。


「あっ、モンスター……です」


 静かだったレイもスイッチが入ったように臨戦態勢になる。


「フレイムドッグ?」


 マホがそのモンスターの名前を確認する。

 燃えている犬……というより犬の形をした炎がそこにいる。


「アレ……物理効くの?」


 ぱっと見は実体はないただの炎だ。

 大剣を構えたヘヴンリーも怪訝な顔をしている。


「動かないわね……あたしが射ってみる」


 ティエラはそう言って微動だにしないフレイムドッグに向けて矢を番うと、そのまま特にワードを発することもせず放つ。


「あっ! 刺さったっス!」


 実体がないように見えたが、しっかりと矢が刺さり、しかもそれだけでフレイムドッグは倒れる。


「弱っ!」


「まぁ、最初だしね」


 ヘヴンリーの反応にそう返しつつも、その一撃で倒せたのは意外だったらしく、ドヤ顔をし損なうティエラ。


「ドロップは……10Gか」


「しょぼっ!」


 リョウヤがドロップを確認すると、またヘヴンリーがリアクションを取る。


「まぁまぁ姐さん、最初だからっスよ」


 アークがそれを宥めると、


「わ、わかってるってー」


 ヘヴンリーは照れて返す。

 そのやりとりに周りからは笑い声が漏れる。



「さー、次行こー!」


「ゴーゴーや!」


 そして後衛のはずのマホが先陣を切って進み出すと、同じく後衛のスマイルもノリノリでついていく。



「おっ、今度はフレイムマン! 人型だねー」


「じゃあ、ヘヴンリーそのままよろしくー」


「オッケー!」


 マホに追いついて歩いていたヘヴンリーがそれに気付くと、マホの指揮に従ってそのまま斬りかかる。

 こちらもあっさりと倒せた。


「また10Gかぁ」


 今度はマホがドロップを確認するが、内容は同じだった。


「階層ごとに固定なのかもね。“無限“ダンジョンだし素材は出ないのかも」


 ティエラがそれを聞いて予想する。


「ならどんどん先に進んだ方がいいのかな? 脇道も見当たらないし」


「まぁ、まだ地下1階だ。10階を過ぎたら変わるのかもしれないな」


 気持ちが前のめりになるマホをリョウヤが宥める。


 そして本筋だけの道を進むと次は「フレイムバード」という鳥型の炎のモンスターと遭遇するが、こちらも前二体と同じであっさりと倒し10Gを得る。


「なんやモンスターの紹介みたいやな」


「実際そうだと思います。これまで全く攻撃をされてませんし」


 スマイルの率直な感想にレイも同意する。

 ここまで攻撃どころか動く素振りもない。


「っと、話はそこまでだ。広い部屋になるぞ」


 リョウヤが二人の前に手を出して遮り、注意を促すが、


「大丈夫だってリョウヤちん。さすがにこの雰囲気で強敵はないっしょ」


 ヘヴンリーはあっけらかんと先に進む。

 それを見てリョウヤも「それもそうか」と思い直す。

 そして道が広がりその空間へと繋がる。


「あれ? 石像?」


 マホが首を傾げる。


「火のガーゴイルだって。目だけは赤いねー」


 羽のある人型の石像……もといモンスターが二体、その後ろの高さ3メートル以上ある大きな扉を守るように鎮座していた。


「あの扉の向こうがボス部屋だね。あー君やるよ!」


 まだそのガーゴイルからは距離のある位置でティエラが弓を構えてそう言うと、


「やるっス!」


 アークも武器を構える。

 アークの武器は野球の硬球で、構えはピッチャーのセットポジションそのものだ。

 野球のユニフォームやグローブが防具として売られているのならボールが武器として売られているのは道理だった。


 ティエラが弦を引くのに合わせて足を上げ、ピッチングフォームそのままに右のガーゴイル目掛けて投じる。

 ティエラの矢が左のガーゴイルに突き刺されば、アークの球は右のガーゴイルを粉砕する。


「すごーい! あー君って野球やってたの!?」


 マホはテレビで見た野球選手そのもののフォームに感動し声を上げる。


「マホ姉さん、兄さんは高校時代ピッチャーをやっていました。最後の夏で怪我を押して投げたのもあって今は……」


「ここでこうやって思いっきり投げてるっス!」


 レイの態度に「野球」はNGなのかと思ってしまったマホだったが、アークは既に乗り越えて前を向いていた。

 腕をグルングルン回して健在ぶりをアピールしている。


「もー! レーちゃんビックリさせないで!」


「ふふふ、ごめんなさい。兄さんは野球バカなんです。落ち込んだのももう投げられないとわかって数日だけでしたから」


「ここだと狙ったところに投げられるっスからね! めちゃくちゃ気持ちいいっスよ!」


 ゲーム内ならコントロールは不要とあって思いっきり投げても狙ったところに行くのが快感なんだそうだ。


「相変わらずあーしらにはわかんない感覚だよねー」


「そう? あたしは結構わかるけどね」


「ティエラは弓だしな。そうは言っても俺もよくわからんが」


 目の前の敵に向かって剣を振るうヘヴンリーとリョウヤにはイマイチ伝わらないが、狙撃タイプの武器を使っているティエラにはわかるらしい。


「ふふ、さっそく良い画をありがとうございます」


 静かに後ろから撮影しているだけのはずのハートはハートで楽しそうだ。



「おっ、扉が開いたよ! みんな行こっ!」


 ガーゴイルを倒すと、後ろの扉がゴゴゴッと音を立てて開いていく。


 マホに続いて全員で中に駆け込む。

 そしてマホが中に入った直後、


「10……9……8……」


 淡々としたダンジョンマスターの声でカウントダウンが始まる。


「な、なんや?」


 中には背の低い石の祭壇らしきものがあり、その上に綺麗にカットされた透明なクリスタルが浮いている。

 それ以外には何もなく、謎のカウントダウンと相まって全員キョロキョロと部屋の中を見回す。


「3……2……1……」


 0になるタイミングで扉がまた音を立てて閉じていく。

 そしてガコンという完全に閉じた音と共にクリスタルが赤く輝き出す。


「火のエレメント……こいつが……!」


「ボス!」


 クリスタルの上に名前が表示され、リョウヤに続いてマホもそれを見て武器を構える──が。


「あり? 緑のHPバー……ってことはノンアクティブ?」


 名前と共に表示されたHPバーは緑色だ。

 それに気付いたヘヴンリーが一旦警戒を解く。


「ボスでノンアクって初めてね」


「攻撃したらいきなりカウンターとか……やらんよな?」


「スマぷーさん、フラグありがとうございます」


「ちょっ! ハーちゃんやめてーな!」


「ふふっ」


 ボスを目の前にしてはしゃぐハートとスマイルを見てレイの表情が緩む。

 それを温かい目で見つめるアーク。



「じゃーとりあえずあーしから……いい?」


「様子見でな」


「ヘヴンリーやっちゃってー!」


 何はともあれボスであることに変わりなく、攻撃しないと始まらないのでヘヴンリーが一番槍に名乗り出る。


「いきなり倒せそうな気もするけど……っ!」


 大剣を横薙ぎに一閃すると、パキンとクリスタルが割れ、ヘヴンリーの予感通りにここでもあっさりと倒せてしまった。


「やっぱりね。地下10階までは簡単に抜けられるんじゃないかな。そこからが本当の攻略なんでしょ」


 ティエラはここまでの流れからこれを予想していた。


「とにかく火のカケラ1個目ゲット! 何個くらいいるんだろうね……って、うわ」


 ドロップをマホが確認すると、祭壇にまた水晶玉が現れる。


「あービックリした。あ、ボスを倒すとこれで先に進むか戻るか選べるみたい」


 水晶玉に触れるとその選択肢が表示された。


「ちょっと待ってマホ。試してみたいことが……」


 そう言ってティエラも触れる。


「どうしたんだ?」


「うん。ここならあたしも選べるみたいだから……例えばあたしだけ落ちるっていう時は個別に選べばいいわね」


「なるほどー。さっすがティエりん! あーしそんなこと思いつかなかったよー」


 ヘヴンリーの賞賛に今度はキッチリとドヤ顔を決めて見せるティエラ。


「マホ姉さんが先に選んだらどうなるんですかね?」


「今のうちに色々試せばええんちゃう?」


「そだね。じゃあ……あ、ティエりんが先に選んだらどうなるかも見ていい?」


 マホはスマイルの案に乗ってレイの疑問を確認しようとしたところで違う疑問が浮かび、ティエラに提案する。


「そうね。やってみるわ」


 ティエラも同意して次の階へ進むことを選択する。

 すると、ティエラの姿だけが消える。


「なるほど、指揮官以外は完全に個別か。マホちゃん達指揮官の場合がハウスと同じかどうかも確認しよう」


「てゆーか階段もないのに地下なんだねー」


「新規エリアですからね。ボス戦の後に階段を出すギミックを作るのが面ど……大変なんでしょう」


 ハートのそれは運営が聞いたら胸を貫かれる程の鋭い指摘だった。


「水晶玉も使い回しやもんな」


「え、えっと……行くね?」


 大人達の生々しい会話にマホはそれだけ言って次の階を選択した。

 そしてマホとリョウヤ、ヘヴンリーの姿が消える。


「なるほど。これはハウスと同じですね。となるとフリーのプレイヤーは全員選ばないといけないんですか。人数の多いクランは大変でしょうね」


 実際これは人数差を埋めるハンデの一つだった。

 多いクランは集まったのを確認しながら進まないといけない。無視して進もうにもボス部屋突入には10秒の時間制限があるからだ。


 ハートの呟きは残った3人が聞いていたが、スマイルだけは理解できていなかった。


 そして残りの4人も地下2階へと転移していった。

お読みいただきありがとうございます。


当然ながら動かないのは最初だけです。

次回は一気に地下10階まで進む予定。

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