第72話 無限ダンジョンイベント攻略 その① イベント開始編
イベント開始当日、12時前にクランハウスに集まった『気まぐれ』一行。
「よかったの? 家族の約束、毎月決めてたんでしょ?」
心配そうにマホに確認を入れるティエラ。
本来ならマホは参加できない日だ。
クランリーダーであるマホが決める指揮官はイベント開始後にしか設定できないので、他のメンバーもマホの参加できる月曜から開始することで納得していたはずだった。
「うん。どうせなら一位とってこい! って」
右拳を握って突き出しながら答えるマホ。
これは実際に父親から言われた時と同じ仕草だ。
「はー、ゲームに理解ある親ってええなぁ」
スマイルは親から「ゲームなんかやっとらんで勉強せんかい!」と言われて育ったクチだ。
社会人になりそこから解放されて以降、好きなだけプレイするようになった。
特にこのゲームは仕事やらの色んなストレスの発散にピタッとハマった。
「理解あるというか……実際やってるんだよね。本当は今日がそのゲームで両親に思いっきり遊んでもらう日で、代わりに次の日を家族で過ごすんだけど、今回は両親にも日曜日にゲームしてもらうことにしたよ」
それでマホは土日からイベントに参加できるし、両親も近年ではなかった二日続けてのプレイができる、夜霧一家にとってはWin-Winの結論となった。
そもそもの話、夜霧家にはわざわざ「家族の日」を作らなければならない程親子の交流が少ないわけではない。
むしろマホがゲームを始めてからは会話が増えたくらいだ。
何よりマホが勉強以外の何かをしたいと言い出したことの方が喜ばしく思われていた。
「ん?」
「リョウヤちん、どしたの?」
「ああいや、なんでもない」
リョウヤが何かに気付いたような素振りを見せるが、確信には至っていないらしく、話は流れて終わる。
「そろそろですね。では予定通り指揮官は僕に任せてもらい……ナンバーは僕が一人、マホさんがフルで振り分けるということで」
「うっス! 深夜はお任せっス!」
「あー君がおるんやったらウチはフリーで参加できる方がええからな」
当初は深夜も参加できそうなスマイルがハートの下でナンバーを持つ予定だったが、それでは平日夕方から参加できるときにハートがいないと入れなくなる。
そこに夜の方が都合がつくアークが加わったことでスマイルはナンバーを持たず、どちらにも参加できる形になった。
「人数揃わない日は行けるとこ周回してていいからねー」
「わ、わたしも出来る限り来ます!」
レイが大学生でこの中では一番自由に時間がとれることがわかり、こちらもナンバーなしでフリーに参加する。
可能な日は夕方からフルで入れるらしいが、そこはマホ達全員に反対された。
今回の合言葉は「無理せず楽しむ」だ。リアルに影響が出るのは誰も望んでいない。
運営も「ストレス解消ゲーム」と謳っているだけあってそこを重視しており、よくあるこの手のゲームのイベントでは24時間常時開催だが、このゲームではいつもどこかに区切りがある。
「はは。ちゃんと食事と休憩もとってね」
『気まぐれ』ではマホのプレイ時間が基準になる。
マホの平日は食事をとってから18時スタートで21時まで。
ヘヴンリー達続行組もそこまで一緒にやった後は一旦休憩を入れてから深夜組と合流し、続行組が抜けるタイミングで深夜組が休憩してまた再開するという風に動くことに決まった。
もちろん都合に合わせて合流しないこともあるし、早めに入ることもある。
そして土日は昼からの開始で集中プレイすることになるが、場合によっては休憩を入れる。そこは中の難易度次第で臨機応変にすることにしている。
「はい、マホ姉さん」
出会ってからこの日までの間にマホとレイは何度か一緒にダンジョンに入った。
それからレイはより一層マホを敬愛するようになっていた。
「指揮官は代えられないけど、ナンバーは当て直しがきくみたいだからあとは実際やってみて変えた方がいいところは改善していきましょ」
一通り確認したところでティエラも現状ではこれが最善だと判断する。
「そうだな。無限ダンジョン、どの程度のものか楽しみだ」
「せやな! ほんなら今日はどこまでやれるか、やな」
「さすがにそんな大規模なダンジョンじゃないと思いますが……良い画を期待します」
「ふふ、バシッといいとこ見せられたらいいなー」
「序盤じゃそこまで戦うこともないでしょ」
「だんだん難しくなるんだよね!」
「ワクワクするっス!」
「兄さん……わたしもドキドキしてる」
今、『気まぐれ』のモチベーションは最高潮だ。
そして12時。
「イベント開始するよー!」
ダンジョン関連イベントということで、ダンジョンマスターの声がクランハウスに響き渡る。
「来た来たー!」
ヘヴンリーがテンション高く声を上げる。
「今回はみんながパーティになるからねー。じゃーまずはリーダーはパーティメニューから指揮官を選んでねー」
ダンジョンマスターがそう言うと、普段パーティを組むとメンバーが表示される位置に「無限ダンジョン未突入」とアイコンが出る。
そこをタッチするとパーティメニューであるメンバー一覧と「指揮官を選んでください」という文字が表示される。
マホはハートを選び、「『ハート』を指揮官に任命しますか?」という確認に「はい」を選択する。
「次はナンバーだよー。説明を見てない人はヘルプをよく読んでね。振り分けたらウィンドウを閉じて。そしたら指揮官の人も同じように振り分けてー」
よく見るとウィンドウの右上にヘルプボタンが増えている。
内容を確認済みのマホは1にリョウヤ、2にヘヴンリー、3にティエラを選択してウィンドウを閉じる。
「次は僕ですね。あー君さんお願いします」
「オッス!」
そう言いながらハートはアークだけを選びウィンドウを閉じた。
「いよいよ無限ダンジョン突入だよー」
ダンジョンマスターの声に合わせるように、クランハウスのテーブルの上に、エリアボスのところに転移した時と同じ水晶玉が現れる。
「おおっ!」
マホも興奮して声が出た。
「リーダーと指揮官がそれに触れて突入階層を選ぶとハウス内にいるナンバーを持つ人は一緒に飛ぶからね。ナンバーがない人は指揮権を持った人が中にいれば水晶玉に触れてその人のところに飛べるよ」
「なるほど、ナンバーがあると強制か。まぁ基本的に問題はないか。ログアウトする時は注意だな」
リョウヤはその説明をすぐに理解する。
「あそっか。見送るつもりが連れてかれちゃうんだ」
「後はマホがいる時はあたし達だけで入れないってことだね」
「とにかくログアウトが先っちゅーことやな」
「あーなるほど。わかった!」
スマイルが要約してやっとマホも理解する。
「マホ姉さん、先に行って待っていてください」
「うん。レーちゃんとスマぷーは誰か指揮権がある人が入ってないとダメってことだね」
これは事前にわかっていたことだが、話が進んでようやく実感して理解できた。
「次回からはボスを倒した次の階層から始めることができるからねー。ただし! 地下11階から! そこまで進まないとまた最初からやり直しだから気をつけてね!」
「おっと、これは新情報ですね」
「縛り……というよりチュートリアルみたいなものかな。それに下に進んでいくダンジョンみたいだね」
ここで出た階層選択の条件と、それが地下ということでティエラが予想を口にする。
「多層階ダンジョンといえば地下っスよ!」
アークの思考はシンプルだった。そして、地下に進むタイプだと予想していたらしい。
「まー、ボス倒せばいいんならボス部屋に階段があるんだろーね」
「ま、やってみればわかるやろ」
「うん! 行ってみよー!」
マホが水晶玉に触れる。選択肢はまず一択で地下1階だ。
それを選ぶとマホと共にナンバーを振り当てたリョウヤ、ヘヴンリー、ティエラが消える。
「では僕も」
ハートも続き、共にアークが消える。
「ウチらも行くでー」
「はいっ!」
スマイルとレイはそれぞれ水晶玉に触れて、出てきた指揮官の選択肢からマホを選ぶと二人も消え、騒がしかったクランハウスは水晶玉を残して静寂に包まれた。
お読みいただきありがとうございます。
この始まる時のワクワク感……伝わるでしょうか。
ある程度感覚を掴んでからの作業感まで伝わらないように頑張ります。




