第71話 始まりの街のGWイベント
レイのターンです。
全員で新たなクランハウスの中に入る。
この街のクランハウスは人数によってサイズが変わるだけで見た目は同じ砂岩の建物だ。
中の方も違いはテーブルのサイズと椅子の配置くらいで、四方向に二脚ずつで全員が真ん中を向いて座れるようになっていた。
マホの左隣にレイが座り、その正面にはスマイルとハート、右にティエラとヘヴンリー、そして左にレイから続く形でアークとリョウヤが座る。
「まずは……ようこそ『気まぐれ』へ!」
マホが立ち上がって両手を開いて新加入の二人を歓迎する。
「よろしくっス!」
「よ、よろしくお願いします!」
アークとレイの二人も立ち上がって頭を下げる。
それをメンバー全員がパチパチと手を叩いて受け入れる。
それが済むとまた座り直し、マホは気になっていたことを切り出す。
「ねぇ、レーちゃんは始まりの街でMVPを獲ったんでしょ? その時の話が聞きたいな」
マホはここまで自分が参加したツイン、スマイルのトライアングル、リョウヤからクワトロの話は聞いていたが、始まりの街でGWイベントに参加したプレイヤーと会うのは初めてだった。
「あ、それあーしも聞きたい! レーちゃんはクワトロまで進んでるんっしょ? なんで始まりの街を選んだのかな?」
ヘヴンリーも興味津々で食いつく。ただ、一瞬レイがビクッとしたのを見て、口調を和らげる。
それでレイも少し安心したように口を開いた。
「わ、わたしは「雷」のスーパーレアと別のウルトラレアのワードを持っていて……それで相性がいいかなって……」
若干尻すぼみになりながらもヘヴンリーの質問に答えるレイ。
始まりの街に出たのは水属性の玄武。それで所持ワードからそこを選んだらしい。
「なるほどな。俺もクワトロの方の攻略に集中していて氷が効かなかったあたりの話しか聞いていない。イベント後すぐに脱退してしまったしな。その辺はどんな感じだったんだ?」
リョウヤもイベント後に『躍進』メンバーと会っていたと言ってもイベントの詳細を聞いてはいなかったらしい。
「はい……。始まりの街の玄武は巨大な亀で、ゆっくりと街に向かって歩いてきていて、絶対に止まらないように設定されていたみたいです。足を凍らせても、雷を当てても、スピードも落ちないしそうだったとしか思えません」
戦闘のことを思い出しながら話すレイは饒舌だ。
苦手なのは人との会話だけのようで、それを意識せず解説していく表情は別人のように見えた。
「はー、そんな設定あったんか。終わる時間になったらどうなるん? 白虎の方は落とし穴の効果が切れたらおらんくなったけど」
「朱雀も飛んでいってたねー」
「青龍もだな」
「そ、そうなんですか? 玄武は一定のダメージを与えると無敵状態になって、終了時間になると甲羅に籠って止まってました。消えたりとかはなかったです……」
自分のところだけが違うとわかって自信なさげに答える。
玄武は撃退ではなかったらしいが、ダメージが足りなかった時にどうなっていたかは不明だ。
「へぇ。じゃあ、次の開始はそこからだったんだ?」
マホの方はむしろ違う状況に興味が沸いたらしく、少しテンションが上がっている。
「はい姉さん。開始時間になるとまた頭と足を出して歩き出しました。歩くといっても一歩一歩に衝撃波が出る踏みつけでしたけど」
マホにはやはり態度が変わる。余程心酔してしまったらしい。
「うっは、面倒くさそー。ダメージあるんだよね?」
思わずいつも通りの反応をしてしまうヘヴンリーだが、問いかける際には優しい口調を意識する。
「はい。歩くスピードがゆっくりなので頻度は多くないんですけど、それでも当たり続けると無視できないダメージ量になってました。それに左右一歩ずつ歩くごとに攻撃もしてきますし……」
その気遣いもあってレイも少しずつ受け答えに慣れてくる。
そして話し出すと饒舌になるのは意識が記憶の玄武に向くからだろうか。
「どんな攻撃パターンだったの?」
促すようにティエラも優しく問いかける。
「まず頭を上げてから口から前方扇状に水を噴射してきます。次は甲羅から放射状に噴射してきました。それを交互に繰り返すんですが……」
「それだけじゃなかった、ということですね?」
なんとなく察したハートが口を挟む。
そしてそれが当たりだとレイも頷く。
「どちらも厄介……というか後者が特に……かなり広範囲で前衛は全く躱せませんでした。ただダメージが踏みつけの衝撃波と然程変わらなかったのが救いでしたね」
「ガードもできないのか?」
盾を使うリョウヤとしてはそこが気になったようだ。
同じようなイベントが今後ないとも限らないので聞いておきたいと思ったらしい。
「口からの噴射はそちらの方が威力がある代わりに盾でならガードができましたが、甲羅からのは盾でも……。そして、口からの方は前方に一定の人数がいないと甲羅の方に切り替えてくるんです」
「それが「それだけじゃない」ってことなんだ?」
「避けたりは出来なかったの?」
マホに続いてティエラも気になって聞いてくる。
「色々試しはしたんですけど、頭を上げてから避けようと移動しても切り替えてきますし、切り替わらないタイミングだと回避が間に合わなくて、どちらを受けるかで統一できなかったのがわたし達の失敗だったと思います」
始まりの街、オリジンの順位は3位、3位、4位、4位と最終日はトータルの結果のみで不明とはいえ結局最下位だった。
その理由は攻略法の不統一にあった。それも非協力的だったからではなく、イベント期間中に結論が出なかったからだ。
「そういえば、玄武は強力な全体攻撃とかはなかったの?」
マホ達が戦った朱雀にはエリア全体にダメージが及ぶ火球があった。
白虎は完封されて不明だが、青龍にも前方ブレスがある。
朱雀はマホが撃ち落とすことで、青龍は街に逃げ込むことで全体の被ダメージを減らすことができていた。
「いえ……攻撃はそれだけでした。ただどれも回避が難しく、被弾覚悟で戦っていました」
オリジンでは逆に強力な攻撃がなく、弱めだが回避しづらい攻撃が続いていたらしい。
「それは……なんというかハズレを引いたみたいね。あたしみたいな移動手段なら飛んで衝撃波くらいは回避できそうだけど」
ティエラの予想通り、飛んでいれば衝撃波は回避できた。
もし仮に飛べる今のマホやティエラ、スマイルが始まりの街で参加していたら結果は違っていただろう。
「飛んで……そうかジャンプして回避できてたのかも……思いつかなかった……」
それを聞いたレイはブツブツと一人呟いている。
「ね、玄武が厄介だったのはわかったけど、レーちゃんはどうやってMVPを獲ったの? プレイヤー側の攻撃ってどんな感じ?」
レイはとにかく玄武のことだけを語ってくれたが、自分のことは話そうとしない。
「あっ、あのっ……わたしのこの武器の特性で……その……」
自分のことになると途端にしどろもどろになるレイ。
意識が人に向くとダメらしい。
「あーわかった。せやな……玄武にはどーゆー攻撃が効いて、どんなんがダメやったん?」
それに気付いたスマイルが聞き方を変える。
「えっと……まず甲羅は斬撃系がほぼ無効でした。打撃系なら物理でも魔法でも通って、単純な雷の魔法が一番効いてましたね。頭や足はなんでもアリです」
すると今度はハキハキと返ってくる。
聞いた相手がスマイルだったのも良かったのかもしれない。
「じゃあ、その槍の特性って?」
ティエラも槍にだけ向けて質問する。
「補正ワードでダメージ倍率が上がるほど間合いが伸びるんです。な、なのでわたしは……前足と後ろ足が同時に攻撃できて……時々頭にも…………」
槍の話はよかったが、どうダメージを与えたかについてはなんとか聞き取れるくらいまで声が小さくなる。
それによると、槍には高威力かつ広範囲に攻撃できる特性があるらしい。それで複数箇所同時に攻撃できてダメージを稼いだようだ。
「なるほどな。初めて見るが……何かのイベントで手に入れたのか?」
「あ……えっと、はい」
リョウヤでもその武器、青龍偃月刀は初めて見たらしい。
「その防具ってもしかしてシリーズ装備だったりするの?」
装備の話になったところで、マホも気になっていた……というかカッコよくて欲しいと思っていた、レイの防具について触れる。
「さすが姉さんです。これは軍服シリーズといって、あの……もう手に入らないものです」
シリーズ装備は入手時にその条件が明かされる。
だからレイも今からは他の誰も入手できないことがわかっていた。
「えっ? そうなの……?」
それはもう酷く落ち込むマホ。
「ご、ごめんなさい姉さん。これはツインのダンジョン初挑戦でしか……」
その様子に慌てて条件を口走る。といっても、明かして問題はないが。
「ならマホっちのそれとおんなじじゃん。お揃いだよ、お揃い」
そう言って慰めるヘヴンリー。
「そっか、お揃いかぁ。そう言われると悪くない……っていうか、それの効果って? 私のはダメージを受けるごとに防御補正と魔法攻撃補正が上がるの」
お揃いという言葉で少しだけ元気を取り戻したマホは自分の魔導師シリーズの効果を明かしつつ、レイの軍服シリーズの効果を尋ねる。
「姉さんの装備もシリーズ装備だったんですね! 嬉しいです! わたしの方はダメージを与えるごとに防御補正と武器攻撃補正が上がります。後者は1%ですけど」
システムミスのあったマホの魔導師シリーズと違い、軍服シリーズは1%がちゃんと反映されていた。
魔導師シリーズがこれに合わせず表記の修正だけだったのは、魔法メインのプレイヤーが少なかったというのが一番の理由だ。
「なるほどなー、マホっちの物理版みたいなもんかー」
「それもほぼ無限なんじゃないか……?」
リョウヤの予想は当たっている。
そしてこれより後に実装された忍者シリーズの入手難易度がやや下げられ、防御補正に固定の上限が付いたのは全く入手されない魔導師シリーズと軍服シリーズが原因だ。
そして用意したはずの確定入手法にも気付かれなかったことで、更に後の騎士シリーズは……多少人から入手法が伝わる仕様となった。
「で、でも……伸ばすのは結構面倒で……わざと弱い武器で何度も攻撃して稼いでやっとそこそこになったくらいで……」
マホがやったように雑魚敵に攻撃させるような自動上げも出来ず、ある程度攻撃を耐えてくれる相手に手加減をせざるを得ず、そういう相手だと被ダメージも嵩む。
「あーそっか。ダメージを与えるごとって、やってれば伸びるけど、一気には増えないもんねー」
ヘヴンリーもそのことを理解してうんうんと頷く。
「でもカッコいいなぁ。羨ましい……」
もう入手不可とわかっても諦め切れないマホ。
「ね、姉さんの装備もカッコいい……よ?」
さすがのレイもマホの雰囲気から年下であると感じたようで口調が少し変化するが、「姉さん」呼びを改める気はないらしい。
ちなみに「姐さん」呼びしているアークとヘヴンリーは実は同い年だ。
そういうところも兄妹だった。
「ふふ、ありがとう」
褒められたら悪い気はしないのがマホだ。
「で、装備といえばあー君はなんでそんな格好なの?」
ふと思い出したようにティエラがアークに振る。
今の海賊のような装備はティエラも初めて見たらしい。
「これから下っ端になるんで、それらしい装備と思ってっス!」
もはや誰も理解できない発想だった。
「いやいや普段の装備にしなよー。それともそれも何か効果あんの?」
「あっ! 見た目しか考えてなかったっス……」
その答えに聞いたヘヴンリーも呆れるしかない。
それを見てアークはそそくさと装備を切り替える。
今度は野球のユニフォームだ。
帽子には「VW」、胸には「Voice&Word」の文字が虹色に輝く。
左手にはグローブが嵌められているが、この装備は魔法が使えなくなる代わりに投擲武器の威力を上げる効果がある。
「おおー!」
マホもその奇抜さに思わず声を上げる。
「そーそー、これこれ。グローブをバットに替えるとユニフォームの効果でダメージ上がるんだよねー」
懐かしむようにヘヴンリーが喜ぶ。
「そっス! 投げる方が好きなんであんまり使わないっスけど」
つまり現状ユニフォームは見た目だけだ。
一応帽子の方に声量による攻撃補正の上昇効果はあるが。
「へー! そんなん初めて見たわー。クワトロで手に入るん?」
「はいっス! まぁ、防具屋で普通に作れるっスが」
ヘヴンリーのビキニアーマーもそうだが、店売りでも有用かつ見た目がアレな装備が手に入るのがこのゲームだ。
「二人のこともこれでわかったかな。それじゃあ作戦会議再開しよう!」
マホが改めて仕切り直そうとするが、
「マホさん、そろそろ……」
「あっ!」
ハートに言われて、もう夕飯の時間になろうとしていることに気付く。
「一旦解散して続きは夜ですね」
「えっと、ごめん。みんなそれでいい?」
「もちろん。あーしもゴハン食べてこよっと」
「ふふ、話してたらあっという間だったわね」
「だな。俺も行ってくる」
マホは謝るが、夕食をとるのはみんな同じだ。
「兄さん、今日はわたしが」
「おう、任せた!」
「え? 一緒に住んでんの?」
ヘヴンリーはよからぬことを妄想してしまう。
「実家っス! うちは両親共働きで平日休みなんス。だから夕飯は二人のどっちかが作ってるんス」
「へぇ。あー君が料理なんて意外」
「うんうん。なーんだ、そっか。じゃーみんな後でねー」
期待外れと言わんばかりにヘヴンリーはログアウトしていった。
「何を言ってるのかしら。またね」
勘付きつつもそ知らぬ風を装ってティエラも消える。
「せっかくオチつけるつもりで黙っとったんに……ほななー」
一人静かだったスマイルは悔しそうに落ちる。
「ふっ、別に順番に落ちなくてもいいだろう?」
「ふふ、そうですね。では」
リョウヤがそう言うと、ようやくレイもリョウヤに対して笑みが溢れる。
アークの期待通り、少しずつ慣れていけそうだと感じられた一幕だった。
そこからは残った全員揃ってログアウトしていった。
お読みいただきありがとうございます。
昨日休んだのでその分長めです。
早く仲良くなってレーにゃんと呼ばせたい。
これでGWイベントの全容は出揃いました。
次のイベントが始まる前に入れたかったんです。




