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第70話 妹

「あれ? レイってどっかで聞いたよーな……?」


 ヘヴンリーはそう言って人差し指を顎に当てて頭を捻る。

 他のメンバーも腕を組んだり上を見上げたりと、その聞き覚えのある名前を思い出そうとウンウン唸る。


「そりゃそっスよ。レイは前のイベントで始まりの街のMVPっスから」


 そんなメンバー達の様子などつゆ知らず、先頭を歩くアークが事もなげに答えを告げる。


「ああーー!! って、アレあー君の妹だったのー!?」


 全員の驚きを代弁するようにヘヴンリーが叫ぶ。

 点と点が繋がったと思ったら別の予想もしていなかった点とも繋がっていたのだ。その驚きは声を上げていないメンバーも同じだった。


「あのイベントの後は忙しくて自分はログインできてなかったんスが、久しぶりにインしてみたら姐さん達はいなくなってるわ、動画見せてもらったら妹っぽいプレイヤーが映ってるわで結構衝撃だったっス」


 アークはリョウヤ達が正式に脱退した場にはいなかった。

 そして妹のことに気付いたのもイベント後しばらくしてからだったようだ。

 軽く言っているが、その時のアークの驚きは先程のヘヴンリー達の比ではなかった。


「あ、あははー……ずっとオフラインだったから言うの忘れてた」


 申し訳なさそうに頭を掻くヘヴンリー。


「いいっス! 姐さんならまたどこかで会えると思ってたっスから。リョウヤの兄貴からも話は聞いてるっス!」


「リョウヤちんから? いつの間に?」


「空いてる日はクワトロにな」


 リョウヤは照れ隠しで詳細を言わなかったが、あの場にいなかった『躍進』のメンバーに挨拶して回っていたのだ。

 もう『躍進』のクランハウスに入れないリョウヤは相手がログインしているのを確認し、連絡を取ってから律儀に会いに行っていた。

 マホがクラン結成後に何度か連絡をした時に会えなかったのはそういう理由だった。

 そしてその時にアークとも会っていた。



「あっ、あそこっス!」


 クランハウスエリアの奥の一角、特に人通りのない場所に彼女はいた。


 今はクラン対抗型のイベントが告知された直後ということもあり、エリア内には加入申請にやってくるプレイヤーも多く、その人目を避けるアークなりの配慮だったようだが、完全に置き去りにされた風に足を抱いて座り込んでいた。

 そしてその背から大きくはみ出た巨大な槍がその縮こまり様を際立たせている。

 ちなみにその槍は青龍偃月刀といって、柄が長く刃の部分にリョウヤ達がイベントで戦った青龍の横顔が描かれており、峰の方もそれに似た形をしている。正式には青龍偃月刀は大刀なのだが、このゲームでは槍に分類される。



「お待たせ!」


 さすがに妹には「〜っス」とは付けないようだ。


「兄さん……そ、その人達が……?」


 恐る恐る顔を上げて、先頭のアークにだけ聞こえる小さな声で問いかける。

 その後ろにいるマホ達が兄が探しに向かったクランのメンバーだとすぐに理解したらしい。


「ああ。入れてくれるってさ。でも、ちゃんと挨拶しないとな。ほら、立って」


「う、うん……」


 アークの差し出した手を取って立ち上がる。

 そこでようやく全身の装備がわかる。

 前の開いた膝下まである漆黒のレザーチェスターコートの内側には黒を基調とした直線的な白いラインの入ったパンツタイプの軍服、そして黒い革手袋。

 厨二感満載のこの装備は軍服シリーズというツインで手に入るシリーズ装備だった。


「わぁ、カッコいい……!」


 マホはそれを見て思わず一歩近付く。


「いいな、あれ……」


 続いてリョウヤも目を奪われて呟く。

 マホの魔導師シリーズ同様にダンジョン初見であることが条件に含まれるこの装備はリョウヤも初めて目にしたようだ。


 その反応に後退りかけたレイの背中をアークがポンと押すと、ハッとしたようにレイも一歩を踏み出す。


「あ、あの……! わたし…………うぅ……」


 それでも中々言葉を出すのは難しいようだ。


「みんな、ちょっとだけ離れてもらっていい? アークさんも。レイさんと二人で話したいな」


 その様子に普段の自分を重ねたマホは後ろにいるメンバーとアークに声を掛けて遠ざける。

 メンバーもそれぞれマホの真剣な瞳に何か考えがあると感じ、すぐに従ってその場を離れた。



「え、えっと……」


 マホと二人きりになったレイは緊張と戸惑いで何を言っていいのかわからなくなっている。


「緊張……しますよね。私もゲームの外だとそうだから……わかります。だから……私も…………ははっ、何言うか忘れちゃった!」


 マホも親近感を感じていたとはいえ初対面。かなり緊張していた。

 言葉が飛んでしまったのを笑って誤魔化したのだが、それに釣られるようにレイの表情が僅かに緩む。


「あの! わたし! 玲奈(れいな)って言います! あっ! あわわ……じゃなくてレイです!」


 マホのおかげで言葉を発する勇気を得たまではよかったが、勢い余って本名を名乗ってしまう。


「私はマホ! 本名もマホだよ」


 それを自分も本名だと告げることでフォローする。

 誤魔化した時の口調でレイに変化があったので、言葉遣いも柔らかくした。


「あうう……ごめんなさい……」


「大丈夫! みんなはいないから。ね?」


「うん……ありがとう」


 これ実は実年齢20歳のレイを14歳のマホが励ますという、かなり特異な状況だ。

 こんな年齢の逆転が起こるのもゲームならではと言えなくもない。


「私もみんながこうやって後押ししてくれたおかげで……だから、みんなで一緒に遊ぼう!」


 そう言ってマホは右手を差し出す。


「よろしくお願いします! マホ姉さん!」


 出されたその手を両手でしっかりと握るレイ。

 その態度はまさしくアークの妹だった。


「ふぇ!?」


 思いもしない展開に焦るマホだったが、右手を掴むその手はもう離さないと言わんばかりに力強かった。




 しばらくすると、離れていたメンバーが戻ってくる。


「ということで……はい!」


 マホの右手を握ったままのレイを前に出す。


「レイです! よろしくお願いします!」


 さすがに他のメンバーと共に緊張も戻ってしまっていて、半ばヤケクソ気味だったが、しっかりと挨拶をする。

 そしてすぐにマホの隣に逃げ込む。


「ヘヴンリーだよー。よろしくー! って、マホっち何したの?」


「うーん、よくわかんない」


 自分でも理解していないマホは空いた手で頬をポリポリと掻く。


「ふふ、よろしくレイ。あたしはティエラ。ティエりんって呼んでいいよ」


「ティエりんはね、弓を使うの。カッコいいよー」


「は、はい。わたしはこの槍です……ティエりん……さん」


 マホが簡単にティエラを紹介するが、いきなりの愛称はハードルが高すぎたようだ。それでもマホに倣ってさん付けだが呼ぶことに成功した。


「先にハーちゃんがよかったかな? ハーちゃんもみんなさん付けで呼んでるから慣れるまでは気にしなくて大丈夫」


「ハートです。よろしくお願いします、レイさん。いつでもハーちゃんと呼んでくださいね」


「は、ハーちゃん……さん……。あ……ハートさん」


 “ちゃん“と“さん“が混ざるのが気になったらしくわざわざ言い直す。


「ふふっ。次はリョウヤさん。始めた頃からお世話になってるんだー」


「リョウヤだ。よろしくな。レイ……でいいか?」


「は、はい、ど、ど、どぞ……」


 ティエラからの呼び捨ては特に気にならなかったようだが、男性であるリョウヤからだと反応してしまう。


「リョウヤちん、怖がらせちゃダメだよー?」


「怖がらせ──っ! す、すまない……」


 マホの時以上に気を遣ってしまってリョウヤの素が出る。


「んー、なら呼び方も考えよっかー。全員紹介し終わったしねー」


「ちょおおーい! ウチ! ウチも!」


 ()()()()忘れられそうになってスマイルがツッコむ。


「あっ、ごめんスマぷー! レイさん、もう一人!」


 マホの方は素で忘れていた。慌てて紹介に戻る。


「ふふっ」


 ここで初めてレイが笑う。


「マホっちまで……。オホン。スマイルや。ウチのことはみんなスマぷーって呼んでるでー」


 実はオイシイと思いつつショックを受けたフリをしてから自己紹介するスマイル。


「わかりました。スマぷー」


 スマイルに対してだけは緊張が解れたらしく、すんなりと愛称で呼べた。

 このやり取りだけでスマイルのポジションも理解したあたり、アーク同様頭の回転は速いようだ。


「うはっ!」


 隠すつもりだったスマイルも嬉しさが出る。



「じゃー今度こそ……なんて呼ぼっか。あー君はあー君だし……レーにゃんとか?」


 ヘヴンリーの発想力に一同ガックリと膝が折れる。


「ヘヴンリー、この格好で“にゃん“はないと思うわよ?」


 “ティエりん“を受け入れたティエラでもさすがに無理があると感じたようだ。

 しかも聞いたわけでもないのに本名にニアミスしている。


「あ、あの……ふ、普通で……」


 一瞬レイも本名がバレたのかと焦る。


「マホっち、何かないー? マホっちが付けた愛称なら喜んでくれそうじゃん?」


 まだマホにしがみついている姿を見て、ヘヴンリーはマホに託す。


「私!? えっと……うーん……シンプルにレーちゃん! じゃ……ダメ?」


「いいんじゃない? あー君とレーちゃんの兄妹。ピッタリね。あ、あたしもここからはあー君にするよ」


 ティエラはこれまではアークと呼んでいたが、クラン加入を機に『気まぐれ』流で呼ぶことを決める。


「うん、ありがとうマホ姉さん!」


 レイも気に入ったようだ。


「「マホ姉さん!?」」


 しかし、その呼び名に二人以外は目を見開く。


「あはは……なんかそういうことになっちゃった」


 そのあまりの反応にマホも苦笑いしか出てこない。


「はぁー。まぁええわ。あー君にレーちゃん、改めてよろしくなー。そんで先にクランハウス引っ越そーや。色々話も聞きたいしなー」


「そうだな。ここにもそのうち人が来そうだ」


「うん。行こう」


「8人ハウスはさっき探しておいたっス!」


 離れた間に空きハウスを探してくれていた。

 またアークの先導でそのハウスへと移動し、そこでアークとレイの二人も正式にクラン『気まぐれ』の一員となった。

お読みいただきありがとうございます。


マホも短期間で成長しました。

現実でもこうできれば良いんですが。。。


リョウヤ以外のクランメンバーはとある元ネタが共通点なのですが、わかる方ならアークとレイがセットだと気付いたかも?

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