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第64話 初めてのエリアボス挑戦 前編

 リーダーのマホが祭壇の水晶玉に触れて操作をすると、その周囲に魔法陣が展開する。


「みんな、準備はいい?」


 改めてマホは全員に確認を入れる。


「ええ。皆さんの勇姿、バッチリ撮影させて頂きますよ」


「いや、戦わんのかーい!」


 堂々と戦闘不参加を表明するハートにしっかりとスマイルがツッコむ。


「僕はこの装備での経験がありますからね。せっかくなので初見の皆さんで楽しんでください。僕はそれを見て楽しみますから」


 これはハートなりの気遣いもあったらしいが、見る方に集中したいというのが本音だ。


「まー、このメンツならハーちゃん抜きでも大丈夫っしょ! カッコよく撮ってねー!」


 ハート以外の全員がGWイベントでMVPに名を連ねたプレイヤーだ。

 これだけ頼もしいメンバーとここに入るのはハートも初めてだし、ハートの性格を知るメンバーもむしろ「良い画」が撮れることに期待していた。


「ええ、任せてください」


 ハートがそう言ったところでマホは全員と顔を合わせて、それぞれが頷き返す。


「よーし、じゃあ行くよー! 突入!」



 一旦視界が暗転し再び明るくなると、周囲に何もない砂漠のバトルフィールドに舞台は移る。


「うわー、おっきいー」


「さすがにデッカいなぁ」


 初めて目にするマホとスマイルが思わず声を漏らす。


 六人の忍者の前には高さだけでもマホ達と変わらない巨大なサソリが長い尾を逆立て、その先にある毒針をこちらに向けている。


 そしてすぐにマホ達を認識し、「!」マークを頭上に出す。


 その瞬間、リョウヤ・ティエラ・ヘヴンリー・ハートの四人は左右バラバラに駆け出した。


「え?」


「な、なんや?」


 事前に何も聞かされていなかったマホとスマイルが焦る。


 それどころか目の前のサソリ、デススコーピオンの毒針の先が光り出した。


「あっ──」


 マホが気付いたときにはもう遅く、その針の先から毒々しい紫色の光線が放たれた。


「あー! アカンアカン!」


「げ、解毒薬解毒や──」


 直撃を受けたマホとスマイルが慌てて解毒薬を使用しようとメニューを操作するが間に合わず、また目の前が暗転する。




「あっ……」


「アレが初見殺しかいな……」


 そこはホームポイントの噴水前。

 マホにとって初めての戦闘不能。HPバーが残り1/10で赤く点滅している。


「ぷっ……」


「「あははは!」」


 二人顔を見合わせると、どちらからともなく吹き出し笑い出す。


「なんやアレ。絶対みんなわかっとって黙ってたやろ!」


 スマイルの胸にあったのは怒りではなく、「してやられた!」という敗北感。ただ、不思議と嫌ではなかった。

 それは「初見」という楽しみが奪われていなかったことを意味していた。


「くやしー! 今までやられずに来れてたのに!」


 それはマホの密かな自慢だった。


「これが初(おつ)て。それはそれですごいけどな」


「乙?」


「戦闘不能になるんを「乙る」とも言うんや。1乙、2乙ってな」


「へぇー」


 また新たなゲーム用語を知ったマホは嬉しそうにしている。


「しっかしなぁ。いつもはあのリボンが状態異常無効やから、毒にアイテム使うっちゅーこと体が忘れてもーてたわ」


 このゲームに慣れているスマイルが即乙したのはそういう理由だった。


「ふふっ。じゃあ、この装備でリハビリだー」


「せやな。思いつきのエリアボスやったけど、みんなで忍者プレイもたまにはアリやな」


 普段とは違う感覚で楽しめていることに改めて気付く。


「よし、戻ろー」


「また装備戻して行こか。なんや見られとるしな」


 忍者の格好をした瀕死の二人は通りかかるプレイヤーには奇異に映る。

 装備を普段のものに戻した二人はまた東の出口へと走る。



「お気に召すままに♪」


 街を出るとマホがホウキを喚び出す。


「おおー、マホっちはホウキかぁ」


 スマイルはそれをここで初めて目にする。


「スマぷーは?」


「ウチはこれや。「ほな、行くでー!」」


 スマイルが喚び出したのは絨毯。


「もしかしてこれって……魔法の絨毯?」


「せや! 魔女ってゆーたら、これかホウキやろ? マホっちと被らんでよかったわー。いや被っててもえーか……でもウチの個性が……ブツブツ……」


 マホと被らなかったことに安堵したと思ったら急になにやら呟き出す。


「どうしたの?」


「あ! いや! なんでもないねん! ほな、行こかー」


 二人とも飛行するタイプの移動手段で祭壇へと戻る。

 幸い今は準備待ちもいないようだ。


「装備替えて回復して……と。スマぷーオッケー?」


「ウチもオッケーや。再突入は……触れればええんか?」


 準備を確認し合い、スマイルが水晶玉に触れる。


「ああ、コレで入れそうやな。マホっちも触ってみー」


「うん!」


 マホも水晶玉に触れると、再突入の確認が出る。

 「はい」を選ぶとまた視界が暗転し、バトルフィールドへと舞い戻った。



「お。おかえりー」


「ただいまー……じゃないわ! あんなん避けれるかい!」


 ヘヴンリーの出迎えに、ノリツッコミで返す。

 やり取りとは裏腹に二人とも笑顔だ。


「だから初見殺しがあるって言ったのに」


「ごめんごめん」


 マホにはティエラが声を掛ける。

 こちらはティエラの「狙い通り」という顔に、嬉しそうなマホ。


「見ての通りまだ攻撃は始めてない。ここからがスタートだ!」


 リョウヤも声を掛けてくる。

 デススコーピオンのHPバーは全く変化していなかった。

 四人は回避に専念してマホ達を待っていたらしい。


「みんなお待たせ! それじゃあ、頑張ろー!」


 それを感じ取ったマホは自分に言い聞かせるように鼓舞する。


「おー! 即落ちリーダーかっこいー!」


「もー! ヘヴンリーってば!」


 楽しそうにからかってくるヘヴンリーに少し恥ずかしくなる。


「リョウヤとヘヴンリーが前、あたしとスマぷーが真ん中でマホは後ろね。さっきみたいに正面に立っちゃダメよ?」


 じゃれ合う二人にティエラが配置の指示を出す。


「わかった!」


「マホっちは物理皆無だしねー。ま、最初はてきとーに様子見でいこーか」


 忍者シリーズでの挑戦は初めてとはいえ、マホとスマイル以外は弱点や行動パターン、部位破壊箇所も把握している。

 それをまずは二人に見せるように動こうと決める。


「うっし、ウチもええとこ見せたるわー!」


 それを受けてスマイルにも気合いが入る。


「いいですねぇ。乙ったシーンもしっかり撮れてますよー」


 楽しそうにそれを眺めているハート。


「カットやカット! ええとこだらけにしたるわ!」


 振り向いてハートに文句を言うスマイルに、デススコーピオンが大きな鋏を振りかぶりながら接近する。


「スマぷー! 後ろ!」


 マホが声を掛けるがまたしても手遅れ。


「ぎゃー! なんでやねん!」


 ハサミに挟まれたスマイルが放り投げられる。

 とはいえダメージは然程受けていない。


「スマぷーさん、ナイスフラグ!」


 被弾したスマイルに親指を立てる。


「くっそー。今に見てろや……やったる、やったるでー!」


 改めて気合いを入れ直したスマイルはデススコーピオンへと向かっていった。

お読みいただきありがとうございます。


今回のテーマは「楽しむ」です。



あ、いつもそうでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の裏テーマは「ノーダメ」ですね!えぇ、分かりますとも!(終了)
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