第65話 初めてのエリアボス挑戦 中編
デススコーピオンに相対し、撮影に専念しているハートを除いて最後尾に位置するマホから見て左前方にティエラ、そして右にはスマイルがいたのだが更に右の方へ投げ飛ばされてしまったところだ。
加えてスマイルに向けて移動したデススコーピオンの後を追って左にヘヴンリー、右にリョウヤが位置取っている。
右のハサミでスマイルを襲ったデススコーピオンは続けて左のハサミでティエラを狙う。
「ふふ、それは当たらないよ」
余裕を持って左後方に避けるとそのまま走って距離を取るティエラ。
それに合わせてヘヴンリーとリョウヤは時計回りにデススコーピオンの周りを移動する。
これはデススコーピオンに対して後ろのメンバーと一直線に並ばないように隊列を維持するためだ。
「マホ!」
そしてティエラが走りながら叫ぶ。
左のハサミでティエラを狙ったデススコーピオンはその勢いのまま尻尾をマホ目掛けて振り回してきていた。
「わっ!」
初めて見る連続攻撃に虚を突かれたマホだったが、冷静に右手のサブウェポンで受け止める。
当然ながら左手のインビジブルナイフには刀身がないので防御すらできない。
そしてその対応は正解だった。
マホが受け止めた位置は尻尾の尾先より内側。これを後方に避けようとしていたら尾先の先端にある毒針によって毒を食らうことになっていた。
「あんまり食らってない?」
防御が成功したのもあるが、最近の被ダメージからすれば軽微なものだった。先程のスマイルが受けた攻撃もそうだ。
マホの忍者シリーズは後から3人が入手したことでダメージ7割カットな状況ではあるがそれにしても、である。
「この戦闘は長丁場になりますから。チリも積もりますよ」
後ろからハートが答える。
「チリって……ふふっ」
エリアボスの攻撃をチリと言い切ったこともそうだが、長丁場と聞いてマホも緊張をやや緩めた。
GWイベントで朱雀と戦ったことで、長時間の集中は疲労を溜めると学んだからだ。
そしてその攻撃で約一回転したデススコーピオンとリョウヤが向き合う形になる。
「ほーら、こっちこっちー!」
そこへヘヴンリーが挑発しつつ尻尾の付け根辺りにカニ包丁を突き立てる。
ワードは使用していないものの、基礎攻撃力が高いのと、例の効果により2000近いダメージが出ている。
しかしデススコーピオンのHPバーは削れているのが全くわからないほど変化がない。
そしてデススコーピオンは後ろの細い脚をシャカシャカと動かしてヘヴンリーの方へ向きを変えようと動く。
「あれ? 遅い……」
ハサミの振りの勢いで尻尾を振ってきた時とは打って変わって、単純な軸調整の動きはかなり緩慢だ。
それに気付いたマホはインビジブルナイフの存在しない刀身をデススコーピオンへと向ける。
「まずはコレ。燃え上がれ! 忍法・火遁の術!」
このナイフを手に入れてからこの日まで、マホはしっかりと予行演習をしてきた。
補正ワード無効とあっても詠唱には意味があることもそれでわかった。
そしてマホが忍法を唱えると、インビジブルナイフの柄にある宝玉が赤く輝き、それと同じ色でマホが本来望んだ直線的な刀身が現れ、その先端に魔法陣が展開される。
いつもは様子見の火球だが、今回はマホの発動に合わせてデススコーピオンを中心に炎が巻き上がる。
こちらも基礎補正が高いので、デススコーピオン全体を覆うほどの規模だ。
そして胴体、両ハサミ、尻尾の尾先にそれぞれ3500のダメージが表示される。
それだけのダメージを与えてようやくHPバーが変動したのが認識できた。
そしてその攻撃によりデススコーピオンの敵意がマホへと向く。
「おっと、そうはいかん! はぁっ!」
そこにリョウヤが大声を発しながら太刀を振るう。
「うっは、さすが「豪声なリョウヤ」や。凄い声やなー」
その声の大きさに、スマイルは以前リョウヤが掲示板で名乗っていた名前の由来を理解した。
クランに加入した日に一緒に大型モンスターと戦った時は緩い空気だったのもあってここまでの声を聞くことはなかった。
リョウヤもワードはまだ様子見ということで使っていないが、それでも生半可な攻撃ではヘイトを奪い切れないとわかっているからこその声だった。
そしてデススコーピオンがまたリョウヤの方へ向きを変えようとシャカシャカ動くのを見てピンと来たスマイルは走り出した。
「あれっ? スマぷー?」
マホはまだわからない。そこはやはり経験の差だ。
「あれでいいの」
そんなマホにティエラが声を掛ける。
「よっしゃ! ここやな!」
スマイルがイメージした位置に着いて円月輪を構える。
そこはデススコーピオンを挟んでティエラと真逆の位置。近距離のヘヴンリーとリョウヤの位置関係と合わせて十字に囲む形になった。
「マホさんは4人と重ならないように自由に動いてください。それとこれの意味は見ていればわかります」
また後ろからハートがヒントを出す。
それでこの陣形の、少なくとも先程のリョウヤの行動の意味を一つ理解する。
「私が硬直してても攻撃が来ないって……そういうことかぁ」
いつもは派手なダメージを出した直後は硬直中に攻撃を受けていた。それが今回はない。
所謂ヘイト管理というところまではわからなくとも、それだけはわかった。
「よーし。ほな、狙い撃つでぇー!」
スマイルがリョウヤに向いたデススコーピオンの脚の付け根に円月輪を放つ。
「はー! やるぅ! 今度はあーし! 超……って、補正重ねちゃダメだった。突きっ!」
スマイルに向きかけたところにヘヴンリーのカニ包丁が突き刺さる。
「ヘヴンリー……語彙力ない……」
デススコーピオンがゆっくりと回転している間にティエラがツッコむ。
「じゃーティエりんもやってみれば!?」
普段は決めているワードを使えばいいし、それ以外でも手持ちのワードから選べばいいのだが、重ねられないとなると逆に手持ちのワードは使えない。
だが使えないワードとしてイメージしてしまうと逆に頭から離れなくなって他の言葉が浮かばない。
その難しさを体験させてやろうとヘヴンリーも言い返す。
「えっ? そうね……あれ? ハイ……あ、ダメね。ショット!」
ヘヴンリーにツッコんだはずの手持ち最高レアリティの『超』を無意識に使おうとしてしまい、その後に続く言葉が見つからず焦って結局ノーマルワード『射』を使いながら、右腕に装着した小さなボウガンを発射してしまった。
「ほらー、けっこームズいっしょ?」
「うん、ごめん。思ったより難易度高かったわ」
体感して理解したティエラは素直に認める。
「ふっ、縛りプレイか? しばらくは俺もやってみるか。……斬る! 難しいなこれは」
リョウヤですら咄嗟には出てこなかったらしい。
「でっしょー? でも面白いねコレ」
「うん。もうちょっと続けてみようかな」
それを見た二人は新たな遊び方を見つけてテンションを上げる。
「えぇ……まさか大喜利なんか? オモロいこと言ったら勝ちなんか!? サソリ『大』回転や!」
その流れを何故か勘違いしたスマイルが続いて円月輪を放る。
「ははっ、みんな楽しそう。えっと、攻撃した人を向かせて隙を作るってことかな?」
その様子をハートに言われた通り観察していたマホはなんとなく意味を理解する。
「ええ。そしてその隙こそマホさんが魔法を撃つチャンスというわけです。ただもちろん攻撃が完全に止まるわけではありませんのでそこはよく見極めてください」
「なるほど……わかった!」
マホが答えに辿り着いたのを聞いてハートも解説する。
更に観察していると、回転しながらも時々正面に来た相手に右のハサミで攻撃をしている。
しかし、次の左の攻撃はターゲットが離れている為に間隔ができてしまって容易に回避にできていた。
それにそれに続く尻尾もやってくる時と来ない時があり、後者は動きが止まり隙だらけになる。
それに気付いたスマイルがその隙を突こうとするが、偶に見誤って尻尾を受けてしまっている。
「左の後は私が狙うところだね。この距離なら尻尾も届かないし」
マホも狙うべきタイミングを見定める。
まずはヘイト回しによる回転中。そして右と左のハサミによる攻撃の直後。
「みんな、思いっきりいくよ!」
その2点に絞ったマホが様子見終了の合図を送る。
「お、マホっちが遂に本気? 何するか楽しみー」
「見ものだね」
ヘヴンリーもティエラもマホが何をする気なのかは知らない。
ただ絶対にとんでもないことをやってくれると、期待を通り越して確信していた。
お読みいただきありがとうございます。
最後まで書き切るつもりでしたが、仕事が終わるのが遅れて無理でした。眠い。。。
次回忍法撃ちまくりのマホにご期待ください。
どうでもいいことですが「豪勢な料理」が名前の由来だったりします。




