第40話 マホは大型モンスターを倒していた 前編
クランを結成した翌週の土曜日の夜、マホ達は予定通りクランハウスに集まっていた。
「意外とプレイ時間被らないもんだねー。さすがにあーしも平日は残業あるしさー」
ヘヴンリーがまずボヤく。
結成してからの10日間、マホとは会って話す程度なら何度かあったが、一緒にプレイするところまではなかなか時間が合わなかった。
平日でもマホと時間が合うのは以前から会っているリョウヤくらいだが、そのリョウヤも毎回ツインにいるわけではなく、頻繁にクワトロの方へ出かけているようだ。
「そうね。あたしとヘヴンリーが被るのはいつものことなんだけど……」
だから二人は出会い、共にプレイしてきた。
「せっかくクランを作ったんだ、明日は何かしたいな」
リョウヤは「何か希望はないか」とメンバーに視線を送る。
「はいはーい! 大型モンスターとかどう? マホっちまだっしょ?」
「そういえばグレードDの昇格クエストもそれだったわね。マホもそろそろRP溜まったんじゃない?」
ヘヴンリーが勢いよく挙手して提案すると、ティエラもそれに乗るように状況を確認してくる。
「えっと……実は……もうグレードDに上がっちゃった」
「はい? まさかソロであのキマイラを倒したと?」
マホが申し訳なさそうにそう言うと、ハートが凄い勢いで振り向いた。
「は、はい。なんとか……」
「ね、ねぇ、リョウヤちん。さすがのリョウヤちんでもアレをソロでやってないよね?」
ヘヴンリーが恐る恐るリョウヤに尋ねる。
「もちろんだ。ここに来た段階じゃただワードを多く持っていただけだったしな。当然パーティで、ドロップキーアイテムを狙って出現アイテムと交互に相当マラソンしたぞ」
「だよね。あたしとヘヴンリーもそう。野良パーティ組んで……キーアイテム二人分揃うのに一ヶ月はかかった」
ほとんど初期に実装されたこの街にいた頃のリョウヤ達は攻略組とはいえそこまで他プレイヤーとの差はなかったらしい。
それに当時のティエラとヘヴンリーはまだ『躍進』加入前のようだ。
「キーアイテムって、このアクアの紋章だよね?」
そう言ってマホはアイテム欄を表示させる。
これは周りの反応からちょっとした自慢のつもりだった。
「「「「は!?」」」」
マホの想定を超えて全員が絶句する。
「え? ちょ、ちょっと……!」
あまりの反応に焦るマホ。
「ま、ま、ま、マホっち? 何やってんのー!!」
「え、えっと……ごめん?」
初めてヘヴンリーに怒鳴られて、困惑しつつ謝る。
「悪いわけじゃないよ。そうじゃなくて、何をどうやったのか詳しく教えてくれる?」
ティエラは優しく聞いているが、怒鳴ったヘヴンリーに何も言わない。ティエラ自身も気持ちは同じでヘヴンリーが叫ばなければ自分が叫んでいたところだった。
「ええっと、実は先週──」
それからマホは先週何をしていたのかを語り出した。
それは一週間前の金曜日。
「ただいまー」
マホが食事の為にセンブレからログアウトすると、母親がいつもより少し遅めに帰宅してきた。
「おかえりー。今日は遅かったね」
マホが出迎えると、玄関では大きく膨れ上がった買い物袋を二つも持った母親が靴を揃えているところだった。
その姿はマホがセンブレの中でのアバターにしているレディースビジネススーツだ。
「ちょっと残業でねー。それに土日の分まで買い物してたから遅くなっちゃったわ。これ一つ持ってくれる?」
そう言ってマホに買い物袋を一つ手渡す。
「あれ? 明日は私が料理する日だよ?」
両親の「デートの日」は買い物もマホの担当だ。
なのに母親は土日両方の分の食材を買ってきていた。
「あ! すっかり忘れてたわ! ごめんね、買い物したかった?」
マホもそうだったように母親もその日のことを忘れていたらしい。
「ううん。ならコレ使って作るよ。何にするつもりだったの?」
「明日はパスタが食べたいかなーってお父さんと話してたのよ。お父さんもすっかり忘れてたみたい」
「はは。私もこないだまで忘れてたもん。じゃー明日はパスタだねー」
そう言って笑い合う母子。
「ふふ、そうだわ。買い物いらない分、明日はマホもお昼はゲームしたら? マホのことだから宿題はもう済んでるでしょ?」
「あ、そっか。じゃあそうする!」
当然今日ログインする前に全て済ませていたマホはその母親の提案に乗ることにした。
そして、その日のデイリークエストの報告の時に、昇格クエストが受注可能になっていることを知った。
更にその内容を確認すると、対象の大型モンスター、キマイラを出現させるアイテムもこの平日にプレイした際に入手していたことがわかった。
そうして土曜日もログインしたマホだったが、何も一人で挑もうと最初から考えていたわけではなかった。
「うーん、リョウヤさんしかいないかぁ」
フレンドリストを開くが、ログインしていたのはリョウヤだけだった。
そのリョウヤもコールしてみるが、クワトロでダンジョンに入ったところだったらしく、詳しく話すことなく同行を断念した。
後から聞いたところ、他の三人はマホが来れないとわかってリアルの予定を入れていたらしい。
それでマホは物は試しとソロでキマイラに挑むことにして、召喚場所となっていたツイン北の荒野へと向かった。
しばらく進むと、綺麗に正方形に整地され、なにやら複雑な魔法陣が地面に描かれている場所に着く。
「えっと、ここにリザードマンから出た札を置いて……少し離れる……と」
ギルドで受注した際に受けた説明通りにやってみると、マホが整地された場所から出ると同時に魔法陣が輝き出す。
「うわっ、あれがキマイラ……! ホントに大型なんだ……!」
現れたのは四つ脚の山羊の体に、獅子の頭を持ったモンスター。更には尻尾の代わりに蛇の頭が生え、逆立つように獅子の頭よりも上方からマホを睨んでいる。
その体は朱雀よりもやや小さいが、以前戦ったディアブロバットよりもかなり大きく、マホは完全に見上げる格好になる。
「そういえば大型モンスターって、部位破壊があるとかって言ってたよね。あの蛇の尻尾がそうなのかな?」
聞いた話を思い出しながら杖を構える。
「まずは様子見から……!」
続いて朱雀との戦いを思い出す。
あの時は相手の動きを確認しつつ有効な攻撃を見極めていった。
先制にとファイアを放とうとするが、それよりもキマイラが一瞬速く獅子の口から火炎を吐いてくる。
「おっとと」
虚を突かれた形になり、完全に回避しきれず被弾してしまうが、辛うじて視界を炎で閉ざされることは避けられた。
「今度は私の──わっ!」
自分の番と再び杖を構えたところに、蛇の方から紫の液体が放たれる。
今度はギリギリ回避に成功するが、若干動揺してしまう。
「今のは……毒? ならアレは危険だね」
色の雰囲気からそう予想して、最優先で回避することを決める。
ちなみにこれは本来パーティなら別々のターゲットに向かう攻撃なのだが、ソロで挑んだマホには両方が飛んできた。
「えっと……火には水だよね。新しいのも使って──ウォーターランス!」
火を放ってきた頭部に向かって水の槍を狙う。スーパーレアのワードを使用したのと、頭部は水が弱点だったことで1200のダメージが出た。
そして硬直中のマホに飛び込んで来たキマイラの前足での蹴りが直撃する。
しかしそれは高い防御補正に助けられた。先程の炎と合わせてもまだ1/10程度のダメージで済んでいる。
「よし、次は……尻尾にウォーターランス!」
魔法陣から出る攻撃の後は一度魔法陣の中に戻るらしく、身を翻し尻を向けたキマイラの尻尾に向けて水の槍を放つ。
しかし、今度は400のダメージに止まる。
「あれっ? 弱点が違うのかな?」
朱雀は足以外どの部位でもダメージは変わらなかったが、キマイラはそれとは異なるらしい。
そしてまた火炎を吐き、毒液を飛ばした後突撃してくる。
「これが「ループ」だね。尻尾は水属性? えっと確か弱点は……」
毒とは確定していないが、厄介なことには変わらず、部位破壊というものも試してみたいと思い、尻尾の蛇に狙いを定めて弱点を探る。
「そうだ、雷! サンダー!」
以前空のないダンジョンでは発動しなかった魔法を試してみた。
一瞬だけ雷雲が表示され、そこから雷が狙った尻尾に落ちる。
それはノーマルのワード一つだったにも関わらず、先程よりも多い600のダメージを与えた。
「なるほど……属性が違うってこともあるんだね。じゃあ胴体は? サンダー!」
疑問に思ったら試さずにはいられない。
同じように今度は胴体に雷が落ちるが120しか通らなかった。
「うわぁ、あそこも属性違うんだ……。あ、でも……念の為頭にも……サンダー!」
3パターンしかないキマイラの攻撃を躱しつつ、魔法を試していく。
獅子の頭に当たった雷は300のダメージを与える。
これで3箇所の属性が異なることがわかった。
「あとは胴体に……ウォーターランス!」
試していないパターンがあったと思いあたってもう一つ試す。
今度は尻尾より多い600ダメージだ。
「ええと……雷が効かないから……岩? 岩って弱点……知らないや」
胴体の属性は予想できたが弱点がわからない。
「試したことないのは……氷? アイシクルランス!」
それでもマホは試してみる。すると、巨大な氷柱の槍が刺さり、正解を当てたようで2000のダメージが表示される。
頭と尻尾にも試すが、それぞれ400、1000ダメージだった。
これまでのダメージの合計は6620だが、キマイラのHPバーは1/10と少し削れた程度だ。
そしてここでマホに疑問が浮かぶ。
「あれ? 風は?」
マホが所有している属性は、ノーマルのものが火水雷岩風の五つ。レアに氷があってウルトラレアの闇で合計七つだ。
マホの知る限りでは闇は特殊で、それ以外には相性があるようなのだが、風だけが何故か独立していた。
「風の魔法風の魔法……うーん……うわっと」
そしてマホはこれまで他の属性の魔法は思い付いていたのだが、風で攻撃するというのがピンと来ず、それだけが後回しになっていた。
それをこの場で考えようとするが、さすがにキマイラが許してくれそうにない。
「氷が効いたし後で聞いてみよう」
結果、風魔法はまた後回しとなった。
「まずは尻尾からだね! 空に闇を齎す雷雲よ 我が敵に魔槍の雷を落とせ! サンダージャベリン・ジャッジメント!」
先程までよりも長く雷雲が表示され、周囲が暗くなる演出の後、尻尾どころかキマイラを覆う程の雷の槍が突き刺さった。
その魔法では尻尾に12000、胴体に2400、頭部に6000と個別にダメージが入り、キマイラのHPは半分を切って、尻尾の蛇が萎れるように動かなくなった。
お読みいただきありがとうございます。
後編に続きます。
後編で済むはずです。きっと。
ちなみにダメージはちゃんと計算している時としていない時があります。
変だなと思ったら計算してないんだな、と思って気にせずノリで読んでください。




