第41話 マホは大型モンスターを倒していた 後編
「おー、そこで部位破壊かぁー。先に尻尾行けたのはおっきいねー!」
マホの話を聞いていたヘヴンリーが口を挟んだ。
「あの毒は本当に厄介だもんね。それと風だけど、もうわかったんじゃない? 半分減ったってことは変わったでしょ?」
話が途切れたのでティエラも続く。自分が戦った時のことを思い出しながら聞いていたようだ。
「うん。尻尾が動かなくなったからかと思ってたんだけど、そっか、半分減ったからだったんだね」
その変化の条件について、部位破壊と同時というタイミングのせいで認識が誤っていたことにティエラの言葉で気付く。
「毒を吐く蛇の頭が残ってると悲惨なことになるからな。今ならわかるだろう?」
「もしそうなってたらと思うとゾッとする……」
リョウヤの言う事を想像してしまい身震いさせるマホ。
「その後をどう攻略したのか聞かせてください」
情景を想像し胸を躍らせるハートに促されて話はマホの戦闘に戻る──。
HPが半分を切ったキマイラは背中からドラゴンの翼が生えてきた。
「え? まさか飛ぶの?」
マホはその翼を見て、これまで戦った翼持ちのモンスター達を連想した。
そして飛翔された場合に備えて朱雀に使った「ウォータージャッジメント」の詠唱を頭の中にイメージする。
しかしその翼の用途は飛翔ではなかった。
バサバサと羽ばたかせるキマイラにその警戒を強めるが、杖を構えて詠唱しようとしたマホをその羽ばたきによって起こされた竜巻が襲う。
「うえっ!? 風!?」
マホを中心として風が巻き上がり、周囲の小さな石や岩がそれに巻き込まれてマホにぶつかっていく。
食らうダメージは一つ一つはかろうじてマホのHPを削る程度だったが、その数が多い。
みるみるうちに先程の蹴りと同程度減っていった。
この攻撃はどれだけ防御補正を上げてもダメージが0にならないという特性を持っていて──おかげでマホの防御補正も上昇したが──その分ダメージはどこまでも入る。
「動くと余計に食らうし……どうしよう……」
対処に迷っていると、キマイラは更なる攻撃を繰り出してくる。
その竜巻に向かって火炎を吐いてきたのだ。
相乗効果で火炎は火柱となりマホを包む。HPは更に1/10程削られた上に継続ダメージらしく、減り続けている。
対するマホの方は火炎に囲まれキマイラを見失う。反撃したくとも相手が見えなくては魔法を撃つこともできない。
「とにかくここから離れよう!」
追加のダメージを受ける覚悟を決めて走り抜ける。
「うわー、かなり減っちゃった。でも風ってもしかして他の魔法に影響ある感じ?」
竜巻は竜巻で厄介だが、それに加えられた火炎を強化していたようだった。
マホは見ることはなかったが、尻尾の蛇が残っていた場合、毒が風で撒き散らされるパターンもある。
そして火柱から抜け出て改めてキマイラを見ると、行動パターンの一つとして吐いていた火炎を常に吐き続けていた。
これは尻尾の部位破壊をした場合の行動変化だった。
マホが抜け出たことで火柱は消えたが、吐き出され続ける火炎が翼から起こされる風によってキマイラの周囲を覆っていて、マホからは翼と獅子の頭しか見えない。
「う……氷が撃てない……。先にあの翼をなんとかしないと!」
ダメージ量的に胴体への氷魔法を使いたいところだったが、これまた見えなくては狙えない。
なので攻守に厄介な風を起こす翼を狙うことにした。
「闇だけでいけるかな……。闇の魔槍よ 我に応え敵を裂け! ダークジャベリン・ジャッジメント!」
極太の漆黒の槍が放たれキマイラの片翼を吹き飛ばして12000のダメージを与えると、残った翼も尻尾のように萎びて動かなくなる。
キマイラの残りHPは2割程だ。
「よし! これで──」
トドメに向けて更なる詠唱に入ろうとするが、硬直が長い。
そこへキマイラが火炎を吐きながら突進してくる。
火炎と蹴りのダメージでマホのHPも半分を切った。ダンジョンではないので自然回復があるのだが、ここまでの回復分を軽く超えるダメージが入っていた。
「あっ、もう戻らないんだ……」
これまでは魔法陣から出た後は元の位置に戻っていたが、今はもうそのパターンの攻撃チャンスはないらしい。
マホを蹴った後も走り続け、弧を描く軌道を経て再びマホに向かってくる。
「正面からじゃ炎で見えない!」
迫ってくるキマイラを狙うことができなかったので、次の突進はなんとか躱し、通り過ぎた後の後ろ姿を狙う。
「我が敵の動きの源を断ち 氷の魔牢で闇に閉ざせ! アイスジェイル・ジャッジメント!」
巨体のキマイラを更に巨大な氷が覆う。そして一気に闇に染まり、10000のダメージを与える。
「やった!?」
キマイラのHPバーはなくなったかに見えた。
しかし──。マホはそのセリフがフラグだなど知りもしない。
バキッと音を立てて氷が砕ける。キマイラの前方にあたる部分が火炎によって溶かされ飛び出してきたのだった。
「わわっ!」
マホの硬直中に再び突進を受け、更にHPが削られる。
「と、トドメ! 闇の魔力よ 爆ぜろ! ダークフレア!」
最後は始めた頃よく使った魔法。
その当時よりも範囲も威力も上がった爆発でキマイラは倒れた。
そしてキマイラの姿が消え、出現した魔法陣の中心に水滴のような形状の中に獅子の(キマイラの)顔が描かれた青い金属のエンブレムが現れた。
それを手に取ると、右下に「マホはキーアイテム「アクアの紋章」を手に入れた」と表示が出る。
「キーアイテム……何に使うんだろ。またイベントが起こるのかな?」
そう思って少し待ってみるが、結局何も起こらなかった──。
「それは次の街に入るのに最初だけ必要なアイテムで、その後は交換用アイテムになるよ。何と交換できるかはお楽しみ、だね」
話が終わったところでティエラが説明してくれる。
「へー。なんだろ。楽しみにしとくね」
マホはそれを聞いて目が輝く。
「もしかして部位破壊増えるとドロップ率上がるとかある?」
「どうだろうな。大抵尻尾だけで終わるからな。というか最悪尻尾に届かず仕舞いなんてこともあった」
ヘヴンリーはもしかしたらリョウヤなら、と期待を込めて聞いてみたが、リョウヤも知らなかった。
「うわー、あるあるだけどホント最悪だよね。たぶん最低尻尾は破壊しないと出ないっしょ?」
「どうでしょうね。僕が聞いた限りではドロップしたのは全て尻尾を部位破壊した時だけみたいですけど」
「出ないことが多すぎてわからん。だが、確かに部位破壊せずに、っていうのは聞いたことがない気がするな」
これまたヘヴンリーの確認に対して予想しか返ってこない。
本来ならそれくらい入手に苦労するアイテムなのだ。
「それにしてもマホの装備って……変」
「いや、ティエりん変って。でもまぁ確かに……変かなぁ」
聞いた被弾数だけでもティエラ達が当時何回戦闘不能になったかわからない程だ。
朱雀戦同様に、街からも近くすぐに戦線復帰することができるので何度やられても問題はないのだが。
「ふふ、もうすぐ見せられると思うよ。ダンジョンさえ一発クリアできれば……!」
マホは移動手段の入手と同時に装備表示も解禁しようと考えていた。
「なら明日はみんなでダンジョンに行きませんか? 実は僕もまだ移動手段は持っていなくて」
マホの言葉を受けてハートがそう提案する。
「おっ、いいねー」
「うん、いいよ」
「決まりだな」
既に移動手段を持つ三人も同意して、明日の予定が決まった。
「みんなと一緒なら余裕だね!」
「と言っても、マホちゃん達がオークに投げ飛ばされたら意味ないからね?」
「ええ、気を付けて行きますよ」
リョウヤの警告にハートはそう答えるが──。
「ハーちゃん、寄生装備はダメだよ」
ティエラが釘を刺してくる。
「えっ?」
マホは何のことかわからずティエラを見る。
「ハーちゃんはクワトロにも行ってるっしょ? ハーちゃんと一緒のクランになって動画を見返してたらさー、クワトロっぽい場所のが混じってたんだよねー」
「そんなのあったか? まぁ、キマイラのことも知っていたし、紋章のことも……な。トライアングルには行ってるだろうとは思った」
リョウヤもハートの動画をこの10日でいくつか見たようだが、ヘヴンリーが言う動画には気付かなかった。
それでも言動からある程度ハートの実力は見抜いていた。
「まぁ、一瞬だけだよ。映ってたのは」
それは極一部分だけだったようだが、元々ハートの動画を気に入っていたヘヴンリーには見つけられたらしい。
「はは、もちろん。ちゃんとやります。ガチ装備だと動画撮らせてもらえないことがあるんですよ」
そしてハートの方も特に隠す気はないらしい。
「え? そう?」
ヘヴンリーは意外そうに聞き返す。
「クワトロはまた別の理由ですけど、ツインの方だと嫌味に取られるみたいで」
「ああなるほど。クワトロは単にパーティの人数上限だな?」
普段からあえてシリーズ装備を見せつけているリョウヤには心当たりがあったらしい。そして、クワトロで撮影を拒否される理由はすぐにわかった。
「確かに。ちゃんとした後衛じゃないとハブられがちだもんね」
遠距離武器の弓を主武器とするティエラはクワトロの方には理解ができた。
中途半端な後衛を入れるくらいならクワトロ来たての前衛を入れる方がマシだと言われるレベルなのだ。
「ええ。クワトロにいても素振りをする人しか撮れませんからね。なのでイベントの少し前にトライアングルで撮影してこちらに来たところだったんですよ」
パーティに入らなければ他プレイヤーの戦う姿は撮れても相手のモンスターは見ることができない。
それで臨場感のある動画を撮りたいハートは、野良パーティに寛容な手前の街へと移動してきたのだった。
「へぇー。ハーちゃんみたいな人って他にもいるのかな?」
「動画を撮る方はいますが僕みたいな人は聞きませんねぇ」
話を聞いて興味が湧いたマホだったが、ハートはかなり特殊な部類のようだ。
「でもハーちゃんのプレイスタイルって『気まぐれ』っぽい感じだよね」
「あっ、確かにー! あーし達にピッタリのメンバーだったってことだねー!」
ティエラやヘヴンリーはそれを好意的に捉えた。
「クワトロまで行けるのなら移動手段も取れただろうにな」
「それが、自分のことには全然興味がなくて……はは。それにここ、面倒でしょう?」
「なるほどな」
ハートの実力で移動手段を得ていないことに疑問を持ったリョウヤだったが、ハートの答えがストンと嵌り、すんなりと納得する。
「じゃあ、ティエりんやヘヴンリーの翼を見て欲しくなったんだ?」
むしろそれは聞いたマホの方なのだが。
「それもあります。ただ、これでマホさんも入手するとなると僕だけが持っていないことになってしまいますし、何かで不都合があるといけませんから」
ハートには合理的な理由もあったようだ。
だが、そのみんなに合わせようという理由に、他のメンバーとの絆は深まるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
なんとか後編で収まりました。
そして残業をネタにしてたら自分が残業に追われるという……遅い時間の更新ですみません。




