第39話 イベントの報酬
マホ達の──マホにとって初めての──クランハウスは、所謂豆腐型の直方体の建物で、中には大きめの四角い木のテーブルがあり、上座に一席、その両側に二席ずつ切り株風の椅子が設置されていて、マホが中に入った時には上座を残して男女が分かれて座っていた。
そして、その上座の正面向かい側の壁には多目的モニター型ウィンドウがあり、手書きで何かを描いたり動画を表示したりとその用途は自由だ。
「マホっちー! マホっちはここ!」
空いた上座にヘヴンリーがテーブルの端をポンポンと叩いて誘導すると、マホは少し照れながらその席に座る。
「それじゃ、マホちゃんから挨拶でも──」
「いや、さすがに無理っしょ。ってことで、イベントお疲れー!」
「「お疲れ様!」」
リョウヤを遮ってヘヴンリーが音頭を取り、全員がそれに乗る。
「いや悪い。ついな」
リョウヤは頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「無茶振りすぎだよ」
口元を押さえながらそう言って笑うティエラ。
「さて、と。改めて受け入れて頂きありがとうございます。僕のことはハーちゃんと呼んでください」
ハートはその呼び方がかなり気に入ったらしい。
「おお。マホっちも呼んでみなよ」
「わかった。よろしくハーちゃん」
マホにそう呼ばれて嬉しそうに頭を下げる。
「ほら、リョウヤも」
「俺もか? ハー……いや、勘弁してくれ。俺はハートと呼ぶことにする」
ティエラに振られて呼びかけるが、照れが勝ったようだ。
「あたしのこともティエりんでいいんだよ?」
「やめろって。俺のキャラじゃないだろ?」
なおもグイグイくるティエラにタジタジになる。
リョウヤはリョウヤでイメージする自分を多少演じているところがあるようだ。
「ふふっ。確かにリョウヤさんがそう言う風には見えないかな」
そのやりとりにマホも表情を緩ませる。
そしてそれはティエラの目論見通りだったらしい。嬉しそうにマホを見つめている。
「だろ? まぁ、打ち解けたってことにして、イベントの話に戻そうか」
「ん? あ、そっか。マホっちは報酬も初めてだしね」
リョウヤがそうまとめて話を変えると、ヘヴンリーもその意図に気付く。
「そういえば……どう受け取ればいいのか知らないや。あ、でもお金はもう持ってたような……?」
今回のイベントでは参加報酬に順位報酬、更にマホには街MVPの分もある。
そしてクランハウスを購入した際に所持金が増えていたことを思い出した。
「うん。報酬は結果が発表された次のログインの時に自動的に送られるの。だから一度ログアウトしたマホやあたしとヘヴンリーはもう手元にあるんだよ」
それにティエラが答え、説明する。
「アイテム見てみて。宝箱もあるからさ」
「えっ? 宝箱が?」
宝箱を所持するという新たな概念の登場に困惑しつつもアイテム欄を表示させる。
するとそこには報酬で得た銀の宝箱二つに銅の宝箱が二つ、そして白の宝箱が八つ並んでいる。
「ホントだ……。これを使えばワードが手に入るのかな?」
そう言いながらまずはホワイトから、と選択しようとする。
「ちょっと待ったぁー!」
「えっ?」
それをすんでのところでヘヴンリーが止める。
「マホ、よく考えて」
「えっ? えっ?」
考えてと言われてもなんのことかさっぱりわからない。
せっかくワードが手に入るのに何を考えればいいのかと頭を捻る。
「その白箱はいつ開けてもいい。ということは報酬のお金でノーマルを買ってからならレア以上が出る確率が上がるだろ?」
今にも頭から煙が出てきそうなマホを見かねてリョウヤがヒントを出す。
「あっ、なるほど!」
「ノーマルを買い揃えた後なら確実にレア以上になりますよ」
リョウヤの言葉をそのまま受け取ってしまったマホにハートが付け加える。
「リョウヤちん、マホっちはまだレアが一番多いなんて知らないと思うよ?」
意図的とはいえ言葉足らずなリョウヤにヘヴンリーが首を振る。
「そうなの?」
「ああ。いや、どこまで言っていいものかとな」
以前にも言っていたが、リョウヤは初心者であるマホへの情報提供の匙加減を苦慮していた。
「まぁ、リョウヤの気持ちもわかるよ。でも、こういうシステム的なところはどんどん教えていいと思う」
「うん。さすがにそういうのはわからなかった。というか聞いて困ることはないと思うし……でも、気を遣ってくれてありがとうございます!」
マホとしてもなんでもかんでも教わろうとは思っていないし、失敗から学ぶことがあるということも理解している。
ただこのゲームには初心者では試行錯誤してもわからない要素が多々存在していて、どれがそういう要素なのかの判断も難しい。
そしてそれがティエラの言うシステム周りの要素だった。
「わかった。ちなみにレアのワードは発売からまだ誰もコンプリートしていない程種類がある。だからダンジョンのものはともかく、イベントの白箱はノーマルを揃えるまで開けないのがセオリーになってるな」
それを受けてリョウヤも情報を開示する。
セオリーというが、常に最前線を行っていたリョウヤは宝箱を大量に開けてノーマルをコンプリートしたクチだ。
そしてそれ以降で今回初めてノーマルの出ない白箱を開ける。
「リョウヤちん、前回もトップでホワイトなんて貰ってないっしょ?」
ヘヴンリーがそのことをイジる。
「まぁな。というか今回、かなり報酬が大盤振る舞いだよ」
「なんていうか、マホの為のイベントだったよね」
これまでのイベントでの報酬はそこまで宝箱を配ったりはしていなかった。
それらとは大きく異なるGWイベントをマホの為だと言い切るティエラ。
「私の?」
「確かにそれは僕も感じました。ソロなので余計にそう思いましたが、今回、クランに参加していないプレイヤーをかなり優遇したイベントでしたね」
「クランは分散させて、各自が思いっきりやれる環境だったな。もちろん連携は必要だったが、それは街ごとだ。ソロプレイヤーに優しいイベントだったと言えるな」
「そんで報酬も参加するだけでホワイト5つでしょ? うん、初心者のマホっちを歓迎するイベントな気がしてきた」
ティエラの言葉を受けて、首を傾げるマホと、各々が感想を述べていくが、結論は同じところに辿り着いた。
「いやぁ、さすがに私の為は言い過ぎだよぅ」
あまりに持ち上げられすぎてマホが小さくなる。
「ま、プレイヤーの引き留めとしてはアリだったんじゃない?」
そんなマホの様子を見て、ヘヴンリーが違う可能性も挙げる。
「マホのおかげでプレイスタイルにも変化がありそうだし、大成功と言えるんじゃないかな?」
それでもティエラはマホを持ち上げたいようだ。
「もー! ティエりんってばやめてよー」
「ふふ、ごめんごめん。マホが可愛くてつい、ね」
ティエラがそう軽く謝って、マホが膨れたところで話が途切れる。
「で、なんの話してたっけ?」
「宝箱をいつ開けるかって話だ。まぁ、ブロンズ以上はすぐ開けても構わないだろう」
ヘヴンリーの確認にリョウヤが答え、さらに助言する。
「そうそう。で、ちなみにマホっち」
「ん? なに?」
「あーし達はノーマルはもう揃ってるから、パーティを組んで開ければマホっちもノーマルは出ないんだよねー。さ、どうするー?」
ヘヴンリーは誘惑するように問いかける。
「ううん。それは自分でノーマルを揃えてからにするよ」
そこはマホにも意地があった。というより、そこは自分で楽しむべき要素だと思った。
「ふふっ、良い返事」
ヘヴンリーだけでなく、ティエラやリョウヤも嬉しそうに微笑む。
ハートは「なるほど」と頷いている。
「ヘヴンリー、あたし達は久しぶりに違うワードを手に入れることになるよね」
「ティエりん、どっちかがウルレア引いても恨みっこなしだかんね!」
いつも一緒の二人は楽しそうにそう言う。
「僕はレアをたくさん持っていそうなリョウヤさんの恩恵を受けさせて頂いてもいいですか?」
「ふっ、構わない。欲しいワードの目星は付いてるのか? 一応俺が持っていないか確認しよう」
ハートはリョウヤとパーティを組んでから開けるつもりのようだ。リョウヤの手持ちに欲しいワードがないかを確認し始めた。
「よーし、じゃあブロンズ以上を開けてみよっと」
そう言ってマホも開封作業に入る。
以下はシルバー二つとブロンズ二つの結果。
槍 スーパーレア 起動 補正
裂 スーパーレア 補正
源 レア 補正
応 レア 補正
「すっご! 補正ばっかじゃん!」
「相変わらずの神ツモだな……」
「というかマホにハズレはないから……」
「これをどう詠唱するのか今から楽しみですね……!」
マホの開封結果に全員驚愕する。
物理メインのプレイヤーにとって補正ワードはアタリ、起動ワードがハズレになるのだが、ものの見事に補正ワードばかりだ。
そもそもマホには起動ワードですらハズレにならない。
むしろマホ的には起動ワードを引きたかったくらいである。
「起動ワードがあれば幅が広がると思ったんだけどなぁ」
「ざ、残念がってる……」
マホの呟きにヘヴンリーが更に驚愕している。
「ヘヴンリーは? どうだった?」
あっけらかんとマホはヘヴンリーの結果を問いかける。
「うーん、マホっちには敵わないなぁ」
「あたしも。スーパーは1だけ」
「勝った! スーパー2だよー! どっちも起動だったけどねー……」
「ふふん、あたしは補正だったよ」
張り合う二人を楽しそうに見つめていたのはハート。
「この瞬間はみなさん良い顔しますよね。一喜一憂。やはり僕は他者を見る方が好きなようです」
「そういうハートはどうだったんだ?」
自分のことはまるで出さないハートにリョウヤも興味を持った。
「おかげさまでブロンズ以上からは全てスーパーが出ましたよ。ホワイトはレアでしたが」
「なるほど。お前も楽しそうな顔をしているぞ?」
「そうですか? ふふ、まぁ、そうでなくて喜んで貰える動画はできませんからね」
リョウヤはハートも単に他者を見ているだけではないことに気付いた。
そもそもゲームの楽しみ方を知らずして凝った動画を作ることはできない。そういうことだ。
「さてと、いい時間だし、とりあえず今後の話もしておこうか」
一通りワードガチャとも言える宝箱の開封が終わり、リョウヤが提案する。
そろそろマホが落ちる21時が近付いていた。
「そだねー。あーし達はなるべく顔を出すつもりー」
「集まる曜日だけでも決めておく?」
ヘヴンリーが方針を出して、ティエラも意見を出す。
「それなら土曜日がいいかな。何かするとしたら日曜日だし」
「そうですね。僕も長く時間を取れるのは基本的に土日祝日です」
それを受けてマホとハートが希望を伝える。
「俺もそうだ。なら土曜……マホちゃんの夕食の後がいいか?」
「さんせー!」
「うん、いいと思う」
「決まりですね」
「あっ!」
話が決まりかけたところでマホが何かを思い出す。
「ん? どしたん?」
「今週末は無理かも。毎月第二週目は家族の用事が……」
それは両親の「デートの日」とその翌日の「家族の日」だ。最近ずっと自分がゲームをしていてすっかり忘れていた。
「オッケー、なら本格的に集まるのは来週からだねー」
「ごめんね。せっかくクラン作ったのに……」
すぐに受け入れてくれたヘヴンリーに申し訳なさが溢れ出る。
「気にしないで。リアルは最優先だよ、マホ」
「そういうこと。まぁ、一応来るから来れたらおいで」
「そもそも平日でも会いそうですしね。気にすることじゃないですよ」
他の三人もフォローを入れる。
「ありがとう。私もやることない日はここに来るよ!」
「オッケー! 用事とか聞きたいことあったらメッセ入れといて!」
「同じく。これからはクランの仲間。いつでも頼ってね」
「うん!」
今回のイベントからとは思えない程仲良くなれたことに会心の笑顔が出た。
「装備とかワードのことなら俺に任せてくれ。まぁ、これまで通りだな」
「はい! またお願いします」
リョウヤに対してだけはまだ完全には敬語が抜けない。
特に何かを頼む時やお礼を言う時は今後もしばらく抜けなかった。
「次にここで会えた時には例の動画、用意しておきます」
「楽しみにしてるね、ハーちゃん!」
ハートに対しては不思議な感覚があった。所謂草食系で無害というハートに、距離感がリョウヤや紅蓮よりも近くなっていたが、マホ自身はまだ自覚していない。
「えっと……ホントにみんなありがとう。また今度ね!」
そう言ってマホはログアウトしていった。
お読みいただきありがとうございます。
だいぶ長くてすみません。
これでもサブウェポンの話、削ってるんです。。。
その話は後で出そうと思います。




