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第34話 GWイベント その⑥ 作戦確立編

 朱雀と相対するダンジョン前のエリアを覆う大量の水が発生し、朱雀を中心として少しずつ集束していく。


「な、なんじゃこりゃあー!!」


 マホの魔法に最初に声を出したのは紅蓮。

 最後尾に位置する彼がようやく水の中から解放されて目にしたのは巨大な水球──というより水の壁だった。

 半球状に広がるその水は、朱雀がダンジョン寄りに立っていたこともあり、ダンジョンの中腹近くまで到達していた。


『とんでもないわね……。朱雀が見えなくなった』


 次の声の主はティエラ。高度を上げて全容を確認している。

 中心にいる朱雀に向かって圧力がかかり、暗闇がだんだんと広がっていき、とうとう朱雀の全身を飲み込んだ。

 そしてそこで初めて16500というダメージが表示される。


『ちょっと! どうなってんのか全然わかんないんだけどー!?』


 そのあまりの規模に朱雀近くにいるヘヴンリーには何も知覚することができない。

 事前にマホから聞いて想像したものを遥かに上回っていたようだ。

 それもそのはず、マホもビッグホークに放った時の詠唱を少し変えただけでここまでのものになるとは思っていなかった。


「うわ……全然動けないや……。ヘヴンリー、ティエラ! そのまま中心にいるはずなんだけど、攻撃できる?」


 その魔法を放ったマホ自身には与えたダメージの大きさからこれまでになく長い硬直が反動として現れていた。

 そしてマホが試したかったのはここ。姿の見えない相手に攻撃ができるのかどうか。

 自分は動けず、見えない相手には魔法を撃つことができないが、今回はレイド戦。物理攻撃をすることができる味方が沢山いる。

 この魔法がトドメになったビッグホーク戦とは違う。


『まずはあたしが試してみるよ』


 ティエラはそう言って水の中に再び突入して弓を構える。

 弓ならば大雑把でも闇の中心を狙えば当たるし、ティエラ程のプレイヤーなら適正距離の高度は間違えない。


 そしてティエラの放った水の矢は闇に飛び込むと、朱雀を捉えしっかりとダメージが表示される。

 これでマホの魔法の水と干渉しないことも確認できた。


「いいぞティエラ! ヘヴンリーはどうだ? やれるか!?」


 そのダメージを目視した紅蓮がヘヴンリーに振る。

 もちろんその間も水球は集束し続け、朱雀に継続ダメージを与えている。


『剣を振るのは無理! けどあーしなら!』


 ヘヴンリーは切っ先を闇の中心に向けて叫びながら突っ込む。

 他のプレイヤーは足の位置が分からず攻撃できていないが、翼を展開したヘヴンリーの跳躍力なら胴体に届く。


 こちらも攻撃は成功しダメージが表示される。


「よっしゃ! 他のやつは今は手探りでやってくれ! 次はタイミングを合わせて位置を覚えろ!」


『それしかないよね! 伝えるよー!』


 紅蓮の指示をヘヴンリーが周囲のギルドメンバーやプレイヤー達に伝え、文字通り闇雲な総攻撃が始まる。

 そして表示されるダメージを目指して集まることで次第に捉える者が増えていき、暗闇の中に沢山の数字だけが表示されるというなんともシュールな絵面が生まれた。



「我が敵を闇ごと斬り刻め!」


 その間硬直の解けたマホも杖の遠距離攻撃を使って援護していたのだが、これに意外な効果が出てきた。


『おお! これなら朱雀の形わかるー!』


 マホの杖の棘は朱雀の周囲から一斉に斬りつけ、その一つ一つにダメージ判定があることから、ダメージの表示が朧げながら朱雀の輪郭を浮き彫りにした。

 それが胴体を大雑把に攻撃するしかなかったヘヴンリーには攻撃の道標となる。


『あたしも完璧な位置取りができるよ!』


 同じくティエラも見えた場所に撃ち込めることでダメージが安定し出す。



 そうして闇と外側の水が重なったところで水球が消える。


「すげー稼いだな……」


 ようやく見えた朱雀の姿とHPバーを見て紅蓮が呟く。

 第一陣の攻撃も入っていたとはいえ、既に2割以上削っていた。

 しかも朱雀の行動は完全に止まっていて、ここからようやく1回目の両翼振り回し攻撃が始まる。


『これ、まだ最初のやつだよね?』


 とはいえ確認したわけではないので、行動するはずだった分がスキップされている可能性もある。

 そのことをティエラは気にして確認……というより警戒をするよう促した。


「そうだな……明日以降の為に確認しておくか。マホちゃん、次火球のモーションが来るまで今のストップだ」


「はいっ!」


「んで、さすがに俺らのターンが長すぎる。その火球までで第三陣と交代しよう。前のやつらにそう伝えてくれ。俺は第三陣に伝えてくる」


『りょーかい! 確かにアレは反則だよねー。あ、いい意味でね』


 紅蓮の提案をヘヴンリーが受け入れつつ、マホの魔法を称えようとして褒め方を間違えたと気付いてフォローを付け加える。


「ティエラとマホちゃんは朱雀の動きを確認しつつ攻撃を続けてくれ」


『任せて。数え間違えたりしない!』


 ティエラの返事を受けると、紅蓮はすぐに連絡係として来ている第三陣のプレイヤー達の元へ走る。



 そしてやはり5回のループの後、朱雀は火球の為に飛び上がるモーションに入った。

 ここでマホの魔法が朱雀の行動を止めていたと確定する。


 その飛翔も確認の為昨日よりも一瞬遅らせたマホの「ウォータージャッジメント」により撃ち落とされ、第二陣一度目の戦闘最後の総攻撃が始まった。




 一方その頃、初日は戦線が崩壊し最下位となったリョウヤや武蔵達が青龍と戦うクワトロの攻防は──。


「ブレスが来るぞ! 全員退避!」


 リョウヤの合図で後衛全員が街の中に逃げ込んでいく。

 そしてリョウヤ含む盾持ちが盾を構え、残った『躍進』のメンバーがその後ろに避難する。


 この日のクワトロではリョウヤと武蔵の提案で前日とはまるで違う作戦が取られていた。


 青龍の攻撃に耐えうる『躍進』の10人以外の全員が街の目の前に位置取る後衛となりひたすら魔法を放っては、青龍の広範囲攻撃のたびに安全な街の中に逃げ込むという、ある意味これしかないという作戦。


 周囲を焼く朱雀の回転火炎放射と違って、青龍の吹雪ブレスは前方の一番奥まで届くもので、前日はそれの来ない後方をメインに位置取って戦っていたのだが、一番弱い尻尾の攻撃ですらそれを崩されていた。

 更には朱雀と同様のエリア全体攻撃もあり、後方を取るのは得策ではないと判断された。


 そして火力自体は『躍進』だけで──と言っても昨日戦闘が終わったのは24時前ギリギリだったのだが──撃退できることはわかっていたので、他プレイヤーにはその底上げを任せる。


 これは昨日は『躍進』以外ほとんどがすぐに戦闘不能になってしまい、前線ではまるでダメージが出せていなかったこと、そして今朝紅蓮が齎したマホの詠唱を見たことで武蔵とリョウヤが提案した。


 急拵えで、マホのように相性の良い組み合わせを検証したりする暇もなかったのだが、そこはクワトロまで到達したプレイヤーである。手持ちのワードは多い。

 つまりはレア度の高いワードによるゴリ押しだったが、それ自体は普段から使っているワードがそうなのですんなりと選ぶことができていた。



 最下位からの巻き返しには如何にダメージを受けずに撃退するか。『躍進』にとっても他のクランにとってもこの作戦は苦肉の策ではあったのだが、他に選択肢はなかった。

 そしてそれは思いの外功を奏していた。


「明日はリョウヤの合図なしでいけそうだな。みんなの反応が早くなってきた」


「まぁ、ここまで来てる連中だ。腕はある。アイツの攻撃が規格外なだけだ」


 二人もこの作戦に手応えを感じていた。そして申し訳なさと同時に感謝もしていた。

 本来なら『躍進』だけが前線で戦うなど受け入れがたいことだっただろう。

 だがそれよりも昨日足手纏いになった結果、最下位だったという事実が彼らを奮起させていた。


 実際、昨日よりも指示を出すという行動が必要になったことでリョウヤのダメージのペースは若干落ちていたが、それを補える以上の魔法ダメージを出してくれていた。

 これが明日からリョウヤが自身の攻撃と防御に専念できれば……と武蔵は目算するのだった。

お読みいただきありがとうございます。


上位プレイヤーの多いクワトロの方が団結してますね。


次回で2日目が終わる予定です。

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