第29話 GWイベント その① 様子見編
GWイベント初日。余裕を持ってログインしたはずのマホは初めての大規模イベントに緊張し、ギルドのイスに座って固まっていた。
「はは。マホちゃん、気持ちはわかるけどまだ1時間前だぞ?」
「は、はいっ!」
そんなマホに録画係として初日はずっと張り付くことになる紅蓮が声を掛ける。
「初日は俺にも何が起こるかわかんないんだから大丈夫……って言うのも変か」
紅蓮はやはり初心者への対応は慣れていないらしく、うまくマホの緊張を解せない。
「紅蓮ちゃーん、さすが早いねー。マホもおっすー」
そこにヘヴンリーがやってきた。
「ヘヴンリー! お、おはようございます!」
変わらずガチガチのまま挨拶を返す。
「ん? マホってば緊張してんのー? どーれ、お姉さんが解してしんぜよう」
「わぷっ!」
ヘヴンリーはマホを自分に向かせると、思いっきりマホの顔に抱きついた。
視界を覆う肌色にマホは慌ててもがく。
「どう? 落ち着いた?」
「落ち着くわけないじゃないですかー! ビックリしましたよ!」
反論するマホだが、しっかりと緊張は解れている。
「リアルじゃないんだからもっと大きめにしとけばよかったかなー?」
そう言いながら大きくも小さくもない程よい胸を揺らして見せる。
「おまっ、そういうの男の前でやんなって」
「いいじゃん。せっかく露出多い装備があるんだし、しっかり目に焼き付けておいたら?」
「何やってるの」
更に胸を寄せて見せようとするヘヴンリーにティエラがツッコミを入れつつ割り込んできた。
「紅蓮ちゃんが可愛い反応するからさぁ」
「可愛いってなんだよ!」
「あははっ」
そのやりとりにようやくマホも笑う。
「お、いい感じになってきたね」
「何? マホ、緊張でもしてたの? あ、おはよう」
思い出したかのように、そこで挨拶をするティエラ。
「おはようございます、ティエラ。こんな人がいっぱいなの初めてで……」
「大丈夫大丈夫。このゲームはデスペナもないから死んだらまた戻ってくればいいしね。気楽にやっていいよ」
ティエラもマホを励ましてくれる。
「デスペナってのは、他のゲームだとよくあるんだが、やられたら一定時間能力が下がったりすることをデスペナルティって言うのの略だ。このゲームにはそもそも下がるステータスとかないしな」
マホに先んじて紅蓮が説明を入れる。
「そうですね。時間もいっぱいありますし……頑張ります!」
「まぁ、なんにせよ初日は行動パターン見たりするのがメインだな。後衛にも当たる攻撃もあるだろうが、初見じゃ対応できなくて当然だから食らって覚えるくらいのつもりでいい」
「そうそう。だんだん突き詰めていくのが楽しいんだよねー」
「戦闘職やるようになって、あたしもその気持ちがようやくわかったよ」
三人はマホに楽しみ方の一つとして伝授してくれる。
「はいっ! 私も楽しめるようにやってみます!」
「おう、その意気だ。それじゃ、そろそろ移動するか。出現位置はダンジョン前だから歩いて行けばちょうどいい時間だろ」
このイベントではダンジョン前の他のモンスターが出現しないエリアが各四神とのバトルフィールドに指定されていた。
なのでプレイヤーは対四神にだけ集中することができる。
「いてらー。あーし達はここで待機してるから何かあったら呼んでねー」
「実況聞いてるからね」
『躍進』メンバーの出番はスタートからではないらしく、マホと紅蓮だけが席を立つ。
紅蓮は録画しつつパーティ通話で状況を伝える役目もあるようだ。
ティエラ達はそれを聞いて予め対朱雀のイメージを練っておくつもりらしい。
そしてマホ達二人は山ダンジョンの麓のエリアにやってきた。
既に前衛プレイヤーが大勢イベント開始を待ち構えている。
マホ達のいる街側には後衛プレイヤーもいるが明らかに人数が少ない。魔法を使いそうなプレイヤーは杖を装備しているが、強化前を含めてマホと同じ杖のプレイヤーはいない。
「そろそろ時間だ」
そう言って紅蓮が録画を始める。
そして正午ちょうど。
鶏冠から尾羽まで、そして両翼の羽根全てが燃え上がった巨大な鳥が羽ばたきながら降りてくる。
「デカっ!」
マホが叫ぶのも無理はなかった。その大きさはディアブロバットの比ではなく、着地した状態でさえ近接組の攻撃は胴体に届きそうもない。
実際、さっそく斬りかかったプレイヤーの攻撃は全て足に向けてだ。
「こりゃたぶん足は硬いな。如何に転かして上を殴るかが勝負になりそうだな」
「じゃあ、様子見に撃ってみますね」
マホはそう言って杖を構える。
「ああ。それなら頭、胴体、翼の順で狙ってみてくれ。おそらく大型モンスターと同じで狙えるはずだ」
そこに紅蓮が助言を足す。
「わかりました! 我が魔法よ 水の矢となり敵を貫け! ウォーターアロー!」
杖の先から放たれた水の矢が朱雀の頭に直撃し、弱点属性を突いたこともあり1200のダメージを与える。
「様子見で4桁かよ……。ん?」
紅蓮の驚きはもっともで、今攻撃している近接組もほとんどが様子見をしているが、どれも3桁程度のダメージしか出していない。
そして、その直後に朱雀が初めて攻撃行動に出た。
両翼を交互に振り回し、周囲の近接組を吹き飛ばす。
「ノックバック有りか。面倒だが、武器でも耐えられるみたいだな」
紅蓮は吹き飛ばされたのが全員ではなく、ガードできていた者がその場に踏み止まっているのを確認していた。
そしてその情報はパーティ通話でギルドに待機しているヘヴンリー達にも伝わる。
「マホちゃん、一旦ストップ。今のが反撃なのかを確認したい」
「はいっ!」
紅蓮の指示に従い、順に撃つ予定の魔法を止める。
そしてしばらくすると朱雀はまた同じ攻撃を繰り出してくる。
「通常攻撃みたいだな。マホちゃん、次撃っていいよ」
「わかりました!」
次は胴体へ水の矢を放つ。ダメージは同じだ。
「特に耐性の差はなし、と。お、今度は予備動作があるな。違う攻撃が来るぞ」
朱雀は頭を大きく反らし、タメに入った。
「口が燃えてます!」
集中して見ていたマホが気付く。
朱雀は炎を吐き出し、回転する。
その攻撃は足元を斬りつけるプレイヤーではなく、その周囲に待機する順番待ちのプレイヤーが狙いのようだ。
「ここまでは来ないな……っと、二回転目もあるのか」
ぐるっと回った朱雀は、更にもう一回転。次は下へ向けての火炎放射だ。
「近接みんなが狙いなんですね」
「ああ。だが、あれなら来るタイミングがわかれば躱せそう……いや、結構範囲広いな。あの炎にちょっとでも触れたらダメージを受けてる」
紅蓮が見ていたのは炎の判定だった。
「なら真下が安全?」
「残念ながらあの足にも蹴り判定があるな。よーく見てみて。あれだとど真ん中の何人か……10人くらいしか避けられてねぇな」
「ホントだ……蹴られて炎に当たっちゃってる人がいますね」
そのプレイヤーはもうHPバーが半分になっている。
「あれは炎の回避に専念した方がよさそうだ。ついでに待機組との交代のタイミングにもちょうどいい」
作戦を練りつつ戦況を見守る紅蓮。
そして朱雀はまた翼の振り回しを2回した後に口から火炎を吐き出して回転する。
その間にマホも翼に水の矢を放つ。こちらもダメージは変わらない。
「これがパターンだな。マホちゃん、様子見最後に足に撃ってくれ」
「はいっ!」
今度は960のダメージ。やはり足は他より攻撃耐性があるようだ。
紅蓮の指示でマホはしばらく胴体に集中して水の矢のみを放っていく。
そして、5回目の火炎放射が終わる。
「何か様子が変だな。新しい攻撃が来る!」
次の翼を振り回すタイミングで、朱雀がバサバサと翼をはためかせ始め、紅蓮の声と同時に飛び上がる。
そして頭を振り上げ溜める動作の後、巨大な火球を地面に向けて放ってきた。
「きゃっ!」
その火球は地面に当たると同時に爆発し、その場にいた全プレイヤーにダメージを与える。
その攻撃で前衛の2割程が戦闘不能となり離脱する。
後衛に至っては残ったのはマホと紅蓮だけだ。
「マホちゃん、よく耐えれたね」
前衛の装備である紅蓮はともかく、マホが生き残ったことに紅蓮が呆れたような声を出す。
魔法や遠距離向けの装備は防御補正が低いものが多いからだ。
「装備のおかげですね」
マホのその返しに、さすがの紅蓮も普通ではない装備をしていることに気付く。
しかしパーティ通話をしている今、それを聞くことはしなかった。
「アレが全体攻撃だな。通常のループ5回でアレが来る、と」
「なんかさっきより近付いてませんか?」
マホが違和感に気付く。
「よく気付いたな……。俺も言われるまでわからなかったのに」
「いえ、あの横の岩はもっと手前だったかなーって思っただけなんですけど……」
マホが言っているのはフィールド端の岩だ。
紅蓮はずっと朱雀と周囲のプレイヤーに気を付けて見ていたので気付かなかった。
「いや助かる。アレを撃ったら接近してくるってことだからな。となるとあんまりゆっくりしてるとここも安全じゃなくなるってことだ」
「じゃあ……次はアレ、試してみますね」
「わかった。撃たせなきゃいいはずだ。タイミング次第だが……まぁ、外したっていい。まだまだ何回でも試せるんだからな」
「はい!」
その後も朱雀は同じループを繰り返し、火球から5回目の火炎放射が終わる。
「よっしゃ、マホちゃん頼んだ!」
「いきます! 我が魔法 滝の如き水となりて その圧力で空へ上がらんとする敵を叩き落とせ! ウォータージャッジメント!」
『叩く』に『落ちる』を買い足し、ビッグホークの時よりも四つも補正ワードの増えた詠唱により、とんでもない規模の滝が発生し、飛び上がろうと羽ばたいた瞬間の朱雀を押し戻す。
「は?」
その演出は話を聞いていた紅蓮でさえ間の抜けた声を出してしまう程。
「うぇっ!?」
更にそのダメージは8500とマホ自身驚いてしまう。ダメージそのものもだが、その後の硬直の長さにもだ。
幸いなことに、その魔法は味方のプレイヤーには影響はないらしく、水が素通りしている。
ただ視界が悪くなるという欠点はあるが、それを補って余りある成果を出した。
そう、遂に朱雀を倒れさせることに成功したのだ。
ここぞとばかりに近接組が群がり斬りつけていく。
「おーおー、やっぱりな。倒れると大チャンスだ。てゆーかマホちゃん! 何今の!?」
近接組に攻撃を任せている今のうちに、と紅蓮が凄い顔でマホを問い詰める。
「私もビックリしましたよ! 確かにビッグホークの時より補正ワードが増えてますけど、あの時は今のより全然……」
しかしマホの方も想定以上すぎて理解できていない。
「マジか……。どれかのワードが影響したのかもな。ってか、マホちゃんの詠唱かっけぇなぁ……」
「そ、そうですか?」
「うん、あんな詠唱してるの初めて見た。いや水の矢の時点であれ? とは思ってたんだけども」
紅蓮も魔法を使わないわけではないが、使ったとしても短い詠唱の先制攻撃程度だ。
様子見と言いながらも詠唱を入れるマホに自分との違いを感じていたようだ。
「私、自分のことしか知らないから……変ですか?」
「いや、あんなダメージが出せるんだ。むしろガンガンやっちゃって。それにそろそろうちのクランの出番だ。あいつらも今の話聞いて期待してるだろうから度肝抜いてやってよ」
「ふふっ、わかりました!」
そう話しているうちに朱雀が起き上がるが、立ち位置は先程までと変わらないようだ。
「よし、アレ繰り返せれば朱雀を足止めできるし全体攻撃も撃たせずに済むな。さーて、次は俺達の力を見せる番だぜ!」
紅蓮がパーティ通話でそう呼び掛けると、向こうから『はいよー!』『待ってました!』と気合の入った声が次々と聞こえてきた。
そして今前線にいるプレイヤーの大半が少しずつ下がってくる。
「さっきのすげーな!」
「マジやべーの見たぜ!」
あの魔法を誰が撃ったのかはわからずとも後衛の誰かだろうと、そんな声をマホ達に向けて叫んで街に入っていく。
「よっしゃ、行くぞ!」
「「おおー!」」
そして入れ替わるように『躍進』のメンバーを含む第二陣が姿を現し、後衛組がそこに残り、近接組は気合いを入れて走って朱雀へと向かっていく。
「マホには負けないかんねー!」
そんな中には少し違ったノリの声。ヘヴンリーだ。
マホにパチンとウインクをして前線に向かっていった。
お読みいただきありがとうございます。
初日書き切ろうと思っていたんですが、既に長すぎたので止めました。
本当に度肝を抜くのは2日目だったりします。




