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第30話 GWイベント その② 『躍進』の実力編

 ヘヴンリー達第二陣が向かった時、朱雀の行動は1回目のループの二番目の振り回しを出すところだった。


『まずは回転するっていうの見てから入るよー』


 紅蓮の元にはヘヴンリーからのそんな通話が届く。

 1ループを全て確認してから飛び込むつもりらしい。


「じゃあ、あたしはさっそく……行けっ!」


 それを待たずにティエラは攻撃を始めた。

 このゲームでは弓を使うのに矢は用意する必要がなく、弦を引く動作をすると自動的に装填される仕組みだ。

 その時に補正ワードを使用することで矢が変化するのだが、ティエラはそのままシンプルな矢を放つ。

 まだここは様子見らしい。


 とはいえティエラもトッププレイヤーの一人。使用する弓も一級品だ。

 遠く離れた朱雀に向かって放たれた矢は放物線を描くのではなく、一直線に飛んで行きその頭部へと突き刺さる。


「すごい! こんなに離れてるのに……!」


 想像していた弓矢の挙動とは全く違うことにマホは感動すら覚えていた。


「ふふ、さすがに動き回られると当てられないんだけど、この朱雀相手なら余裕だよ。この弓は距離でダメージが減衰しない特性があるんだー」


 その上攻撃補正も高い。補正ワードなしで4桁近いダメージを出している。

 褒めてくれるマホに気分を良くしながら次の矢を構えるティエラ。


 そして朱雀が回転火炎放射に入る。


『けっこー回転速いね。次、中から避けられるかやってみる。ってことであーし達も行くよー!』


 それを見届けるとヘヴンリー達『躍進』近接組が突っ込む。


『おりゃー!』


 紅蓮のパーティ通話を通してマホにもヘヴンリーが攻撃する声が聞こえてくる。

 あちらもまずは様子見で補正ワードは使わないようだ。


「あ、ほんとに「おりゃー」って言うんだ……!」


 マホが思い出していたのはチュートリアルでのチュリさんの言葉。

 よく使われる掛け声として挙げられていたものを初めて耳にして、こちらもある意味感動していた。


 そして最初の両翼振り回し。


『コレ避けんの無理だね。でもガードで十分かも。そんなに食らってないよー』


 これは後で作戦を立てるための紅蓮への報告だったのだが、それを聞いていたマホにはヘヴンリーが余裕で対応しているように伝わった。


 というか、マホは見惚れて動きが止まっていた。


「マホちゃん? 攻撃していいからな?」


「あっはい! そうでした!」


 それに気付いた紅蓮の声にハッとして詠唱を始める。


「へぇ……いいね」


 横で弓を構えながらそれを見ていたティエラは嬉しそうに微笑む。


 そうして2回目の回転火炎放射がくる。


『うはっ! はやっ! ごめーん、紅蓮ちゃん、これ無理ー!』


 外向きの一回転目の直後に外への回避を試みたヘヴンリーだったが、二回転目の火炎に被弾してしまった。


「ガードできるか?」


『ダメダメー。リョウヤちんみたいに盾があればわかんないけど──。あっ、向こうのパーティの盾もダメだってー!』


 パーティ通話をしていない方の組には盾持ちがいて、そちらも火炎のガードは無理だったようだ。


「なら入れ替えのタイミングにするしかないな。ダメージは?」


『待機時間で回復するくらい! 全然ヘーキ!』


 さすがにトッププレイヤーの装備ならかなり耐えられるようだ。

 ヘヴンリーからは力強い声が返ってくる。


 ただ最初から張り付いているソロプレイヤーや非協調クランらはそうもいかず、何度も戦闘不能による離脱と再突入を繰り返していた。


 そもそも時間で入れ替わる余裕のあるクランとそう言ったプレイヤーではかなり装備に差があり、張り付いていなければダメージが追いつかない為、紅蓮達もそういったプレイ自体を否定することはない。


 むしろ12時間という長丁場をこなそうという姿勢を嬉しく思ってすらいた。

 特に『躍進』のメンバーは張り合ってくる相手を歓迎する傾向にある。


 そして5回目のループが終わった後のマホの『ウォータージャッジメント』がヘヴンリーやティエラに火をつけた。


『うっは! なにこれ!』


 パーティ通話越しでもヘヴンリーの嬉々とした声が伝わる。


「すご! ねぇ、紅蓮。ちょっとだけ。思いっきりやっていい?」


 ティエラも予定の変更を紅蓮に懇願し出す。


「お前らなぁ……。どうせ次の交代からやるんだぞ?」


 そう言いつつも、紅蓮の表情は真逆だった。

 GOサインが口の先まで出かかっている。


『紅蓮ちゃん、一発だけ! ね!』


 ヘヴンリーのその言葉にとうとう止まっていたGOサインが飛び出した。


「わかったわかった。まだ戦ってない組もいるんだからな? 一発だけな」


 紅蓮が危惧しているのはダメージ量による攻撃パターンの変化。

 今回第三陣まで分けているが、そこが今のパターンを見ないまま渡すのは話し合った計画と異なってしまう。

 それが起こるのかも、起きるにしてもどの程度のダメージが必要なのかも未だ不明だ。

 現在は朱雀のHPバーは1/5も減っていないが、『躍進』のメンバーが本気を出せば一気に半分近くまで減ってしまうこともあり得、その半分というのがよくその変化の起こるラインなのが躊躇した理由だ。


『そうこなくちゃ! いっくよー! 超水刃剣ハイパーウォーターブレード!!』


「さすが紅蓮! 貫け! 超水直矢ハイパーストレートウォーターアロー!!」


 初期から組んで行動していたヘヴンリーとティエラは所持ワードもほとんど同じで、この『超』がウルトラレア、『水』も起動と補正を兼ねたスーパーレアであり、これらを所有していたことからクランリーダーの武蔵に対朱雀のメンバーとして選ばれたのだった。


 紅蓮の許可を得て、倒れている朱雀に向けて二人ほぼ同時に発動する。

 マホの詠唱との違いはその声の大きさだ。

 マホが言葉を紡ぐように詠唱するのに対して、二人は思いっきり叫んでいる。


 ちなみにヘヴンリーの『刃』と『剣』はほぼ同じ意味で『ブレード』と一纏めにしているが、二つをしっかり意識することでちゃんと威力も向上している。

 これに気付いているプレイヤーは少なく、ヘヴンリーもティエラ以外には話していない。というか二人で検証した成果だ。


「かっこいいー!」


 そんな二人の必殺技とも言える攻撃にマホも大興奮だ。

 ダメージもそれぞれ6000を超えていて、他のクランメンバーも近いダメージを叩き出す。


「ふう、余計な心配だったか。アレでもまだ3割も削ってねぇな。とはいえ本格的に攻撃すりゃ削り切れそうだ」


 はしゃぐマホのすぐ前で、紅蓮は冷静に朱雀のHPバーの減り具合を見ていた。

 そして今のダメージから最終的な撃退のイメージもできたようだ。


 そこからもう一度、5ループの攻防と『ウォータージャッジメント』後の総攻撃を行い、第二陣は撤収する。


「マホー! マホも一緒に休憩しよーよ!」


 下がってきたヘヴンリーがマホを誘う。


「そうだな。マホちゃん抜きの対応が出来ないかも見ておきたいし、ゆっくりしてきな」


「わかりました!」


「プチ女子会だね」


 そこにティエラもくっついてくる。

 二人はクランメンバーとお互いを労い合って別れる。元々二人のコンビで行動することが多く、いつものことのようだ。




 一方その頃、青龍を迎え撃つリョウヤや武蔵達クワトロの部隊はというと。


「かってぇなおい! みんな休みなし覚悟しろよ!?」


「他のクランのメンバーはここにいるより噴水にいる時間の方が長いんじゃないか?」


 あまりの硬さ、攻撃の苛烈さに、まともに戦えていたのは『躍進』のメンバーだけだった。


「あの尻尾ぶん回しがエグいな。盾なしだとノックバックとかやってらんねぇ」


「ノックバックどころか死んでるやつがほとんどだけどな」


 朱雀で両翼振り回しに当たる通常攻撃ですら死屍累々の大惨事だ。

 そして、そんな中盾もなく耐え切っている武蔵。


「とにかく死んでねぇ奴は全力で攻撃だ! 様子見なんてやってる場合じゃねぇ!」


「お前がアレやってる時点でみんな察してるよ」


 武蔵は青龍の物理攻撃を全て刀で捌いていた。

 いや、捌くというのも語弊がある。


 モンスターの物理攻撃には被弾の直前にこちらの攻撃が当たる瞬間があるというバグがあった。

 他ゲームでいう所謂パリィとも異なり、完全にこちらの攻撃のみが成立してしまうという元々想定されていなかったバグではあったが、物理メインのプレイヤーが多かったことから割と早い段階で発見され、運営は仕様として残すことを決めた。

 それはあまりにも短い一瞬のタイミングなので狙うことは不可能と判断されたからだ。

 更にそれ以降に実装されたモンスターにもキッチリそのタイミングが設定されていた。それはこの四神も例外ではない。


 そして、この武蔵はそのタイミングを極めてしまったプレイヤーだった。

 それはつまりモンスターの物理攻撃は武蔵には効かず、全て反撃可能というデタラメさだ。

 その強すぎる技術は様子見では使わず、全力を出すときにだけ、と縛りを設けていた。


 ただそんな武蔵が縛りを解除していても、青龍は硬すぎた。

 更には口から吹雪を吐き出すブレス。これは武蔵でも無効化できず、リョウヤとの連携でかろうじてダメージを軽減できていた。


「最初からクライマックスとか最高かよ!」


「ふっ、同感だ」


 しかしトップクランのツートップはそれでも笑っている。ヌルいヌルいと言われながらもこれだけの戦闘が楽しめるのだ。

 今日が終われば紅蓮の奴に自慢してやろう、そんなことまで考えていた。


「おい、リョウヤ! お前も出し惜しみすんな! アレやっちまえ!」


「そうだな。撃退できなきゃ楽しんでも自慢できん。行くぞ! 必殺! 全言葉剣(オールワードブレード)!!」


 ウルトラレア、ウルトラレア、レジェンドレア、スーパーレアと使い、片手剣が巨大な光の剣となり斬りつけるリョウヤ最高の攻撃が青龍に炸裂する。


 しかし──。


「かぁー! いつも5桁叩き出すお前のソレが8000止まりかよ! マジで武者震いが止まんねーぜ!」


 青龍の硬さを改めて確認することになってしまうが、武蔵のテンションは高まるばかりだった。

お読みいただきありがとうございます。


2つあるレジェンドレアの一つが出ました。

もう一つは……もうおわかりでしょうか?

出番はまだまだ先ですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 詠唱に審判が入ってないのは、なぜ? 魔法名に入っていたらいいの?
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