第28話 同性プレイヤーとの出会い
ダンジョンをクリアしたマホはギルドに報告にやってきた。話しかけるのはいつもの左端、タツさんだ。
「お疲れ様だな。実力を示したお前にはクラン設立、又は他のクランへの加入の権利が与えられる」
タツさんはその愛らしい見た目とは裏腹に声も話し方も渋い。
「とりあえずの目的達成だね。移動手段は取れなかったけど……あー思い出しただけで悔しいー」
「クランの説明を聞いていくか?」
目の前で悔しがるマホは無視して淡々と設定されたセリフを続ける。
「えっと……じゃあ、お願いします」
マホもそれは聞き逃せないと軽く頭を下げる。
「よし。まずクラン設立についてだが、これはあちこちにあるクランハウスを買えばいい。ただし、そこの大きさによって値段が違う。その代わり大きなクランハウスを買えばクランの人数も多くできる」
「なるほど」
「ま、初めは誰かのクランに入るのがいいんじゃないか? それか人数を集めてから金を出し合うかだな。それなら元も取りやすい」
「元を取る?」
「クランのメリットは毎月クラン毎の総ダメージランキングによって報酬が出ることだ。その金はその後の活動に役立つことだろう」
タツさんはマホの質問に答えるわけではなく、順番に説明していくだけだが、ここでもタイミングよくマホの疑問に答える形になった。
ちなみにリョウヤがイベント後に抜けると言ったのはこのランキングがあるからだ。ダメージを稼げるイベントは『躍進』として参加することで最後に貢献しようというわけだ。
「お金貰えるんだ」
「メニューから所属するクランの現時点のランキングと総ダメージはいつでも確認できるし、どこにも所属していなければ総合ランキングを見ることができる。入るクランの参考にするのもいいだろう」
「えっと……クランに入るにはどうしたら……?」
「それとクランへの加入は承認制だ。クランハウスから申し込みができ、申し込みがあればクランリーダーに通知が行く。つまり、入りたいクランのハウスまで行く必要があるということだ」
相変わらずマホの質問はタイミングがいい。マホの方も会話をしている感覚になっていた。
「わかりました!」
「各街の最大クランハウスは一つだけだが、それ以外のクランハウスは常に増築されている。設立したい街に空きがないなんてことはないから安心しろ」
ややメタっぽい説明を最後にタツさんは固まる。
「お、終わり?」
その問いには別の者が答えた。
「クランに関してはそこまでだな」
「あ、紅蓮さん……」
見栄を張ってダンジョンに向かったマホは気まずそうにその声の主の方を向いた。
「はは、その様子だと一回じゃ無理だったみたいだな」
「はい……はは」
感情を隠せないゲームの中ではモロに苦笑いが出る。
「でも、今の説明聞いてたってことはボスは倒してきたんだろ? それも十分すげぇからな?」
「ありがとうござ──」
「ちょっと、紅蓮ちゃん! その子がリョウヤが言ってた子でしょ?」
「あたし達も紹介してよー」
フォローしてくれる紅蓮に礼を言おうとしたとき、食い気味に二人の女性プレイヤーが絡んできた……というより、元々二人と話していた紅蓮がマホを構うのが面白い、そんな顔をしている。
「わかったわかった。マホちゃん、こっちの茶髪がティエラで金髪の方がヘヴンリー。どっちもうちのクランのメンバーで二人合わせて天地コンビって呼ばれてる」
「あたしがティエラ。スペイン語で地球って意味。よろしくね」
ティエラはポニーテールの茶髪で軽鎧を装備していて武器は弓を使うようだ。
「でもって、あーしがヘヴンリー。意味はわかるっしょ。よろしくー」
金髪のサラサラロングヘアーのヘヴンリーはマホの黒髪ストレートと髪型がよく似ている。こちらはビキニアーマーに大剣を背負っていた。
その露出の多さに同性のマホですら顔を赤くして視線を逸らす。
「マホです、よろしくお願いします。それで天地なんですね」
マホもヘヴンリーの意味はすぐにわかった。
「そ。あーしはゴリゴリの前衛が好きでね。後衛のティエラとは初期から組んでたんだ」
「へぇー。その剣すごいですね」
身体の装備からは目を逸らしつつ、身の丈程もある派手なデザインの大剣を褒める。
「ふふっ、ありがと」
それにヘヴンリーは満足したようだ。
「あたしは前のゲームで生産職を極めてたんだけど、そろそろ生産以外のことやってみようかな、って時にこのゲームが出て始めたの。まさか生産職が全くないゲームとは思わなかったけど今のあたしにはピッタリだったよ」
「このゲームは生産は工房任せだもんな。失敗もないしもう他のゲームに戻りたくねぇ」
「あはは、わかるー。ガチゲーマーにはヌルいかもだけど、社会人にはこれくらいがちょうどいいよねー」
「みんながそうだからちょっとインできなくてもそんな置いていかれることもないしね」
そんなことを言っているが二人も紅蓮やリョウヤと同じトップクラン『躍進』のメンバーだ。
「二人もすごいんですね」
軽く話している三人を見て逆にそれが紅蓮と同格なんだと思わせた。
「そう? マホちゃんもすごいって聞いてるよ」
「そうそう。ここのダンジョンもソロでクリアしちゃったんでしょ?」
「えっ? えっと……はい」
レアなワードや装備を持っていても、自分がすごいという自覚のないマホはこれだけ言われてやっと少しだけ気付く。
「あーし達二人で何回かやってやっとだったもんねー」
「何回あのオークに投げられたことか……」
「俺も最初は投げられたなぁ」
「わ、私も投げられましたよ!」
何か張り合うようにマホも手を挙げる。
「じゃーおそろいだ。あははっ」
そんなマホが可愛らしく、ヘヴンリーは笑う。
「確かに面白いなぁ。あたしもリョウヤについて行こうかな」
「え?」
「おいおい、その話はまだ……」
「おっと、ごめん」
「そ、それよりマホちゃん。アレ、どうだった?」
慌ててティエラを止めると、話を変えて誤魔化す紅蓮。
「えっ? あ、あの……」
マホは話の転換についていけず混乱する。
「アレって?」
「朱雀対策だよ。昨日ちょっと話した時に効果ありそうな魔法の話をしてたんだ」
ヘヴンリー達にもわかるように紅蓮が説明を入れる。それでマホもようやく何の話だったのかを理解する。
「どっちもいけそうです! あと、あっちは継続でした」
「なるほど……じゃあ、そっちは初日は使わないでもらってもいいか?」
「? 何かあるんですか?」
紅蓮の頼みの意味が分からず首を傾げながら尋ねる。
「継続ダメージは表示がないからどれだけ減ったのかが具体的にわからないからな。初日はできるだけダメージ表示のある攻撃の方が助かる」
「ええっと……それってどういう……?」
それでもよくわからず続けて問いかけた。
「最初はね、動画を撮るの。それで後でダメージ数を見て相手のHPを算出するんだよ」
「大型モンスター戦とかでもよく使う戦法なんだー」
そこにティエラとヘヴンリーが補足を入れる。
「だからダメージが見えた方がいいんですね! わかりました! ところで……大型モンスター?」
紅蓮の言ったことはわかったが、新たな言葉が出てくる。
「この後から出てくるんだが……言ってもいいか。普通よりでかくていつもの戦い方があんまり通じないモンスターだな。部位破壊の概念があって専用の戦い方をすることになる」
「朱雀も似たようなものだよね?」
「部位破壊はないかもー?」
紅蓮の説明にティエラとヘヴンリーも一言足してくる。
「なるほど……ありがとうございます」
「で、話は戻すけど、マホちゃんは動画撮ったことある?」
「いえ、ないです」
「とりあえず名前が晒されることはないから安心していい。動画では名前は非表示になるからな。ただ俺たちはクラン内でしか共有しないが、もしかしたら他のクランやプレイヤーは配信したり投稿したりするかもしれん」
「だから装備の表示を普段と逆にする人もいるよ。それだけでも特定されにくくなるから」
これもまたティエラが補足する。
「あっ、なるほど。私は後から装備を表示するつもりなので……今回はそのままにします」
「へぇ……マホちゃんの装備、楽しみー」
マホがそう言うと、ヘヴンリーが食いついた。
「リョウヤが言うくらいだもんね。普通の装備じゃなさそう」
ティエラも興味津々だ。
「ほら、そこまで。んで、今回俺が録画係だ。後方にいるから映りたくなかったら俺の後ろにいるといい」
「え? 紅蓮さんって格闘系でしたよね?」
紅蓮の武器はグローブ。拳が主な攻撃手段だ。
ちなみにこれは普段から手に装着されて表示されている。
背に何も表示されていなかったことから真っ先にマホは聞いていた。
「またジャンケンに負けたんだよぉー!!」
叫んでテーブルに拳を叩きつけながら突っ伏す。
「はは、またですか」
「ま、あーし達は元々指揮を任せたかったんだけどね」
「今回紅蓮は相性悪いし、逆に火に関しては詳しいから対応もすぐ取れると思うしね」
「信頼されてるんですね」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどよぉ」
「まーまー。あーしも連絡係なんだしさ」
「連絡係?」
また出てきた知らない言葉にすぐに確認を入れる。
「パーティって6人までなんだけど、今回参加する『躍進』のメンバーは10人なの。だから二つに分けた内の後衛パーティに前衛を一人入れて連絡係にすればパーティ通話で連携ができるでしょ?」
「でも、パーティメニュー出しっぱってやりにくいんだよねー」
パーティ通話を使用するにはパーティメニューを表示する必要がある。
連絡を受ける一人、ヘヴンリーはその状態のまま戦闘をすることになるわけだ。
「私は無理そう。ヘヴンリーさんはすごいですね」
それで戦うことを想像してみるが、その難易度の高さは言うまでもなく、マホは早々に諦めた。
「いやいやー。ていうか、ヘヴンリーでいいよ。“さん“はちょっとむず痒いわ……」
「あ、あたしも。ティエラでいいからね」
「! はい、わかりました。ヘヴンリー、ティエラ。じゃあ私のこともマホって呼んでください!」
呼び捨てで呼び合える友人のいないマホには二人との出会いは衝撃だった。
こんなにあっさりとそう言ってもらえたことに感動すらしていた。
「おっけー! よろしく、マホ」
「あたしもよろしくね、マホ」
両サイドから肩を組みながら二人が改めて挨拶してくる。
「じゃ、じゃあ、俺も……」
そこに紅蓮も便乗しようとするが……。
「紅蓮ちゃんはダーメ。ねぇティエラ」
「だよね。マホはあげないよ」
「あ、あの……ごめんなさい……」
フォローしようと思ったマホだったが、男性から下の名前を呼び捨てにされるということには抵抗があったようだ。
「泣いていいか……?」
誰からもフォローされない紅蓮だった。
そして、いよいよイベント当日を迎える──。
お読みいただきありがとうございます。
ようやくイベントが始まります。




