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第27話 ツインの山ダンジョン攻略 その③ 落下編

 山を登ること更に一時間。リョウヤの言っていた通り、移動そのもので疲労することはなく順調に進み、中腹を越えていた。


 そして最初の広い場所で初めてオークと会敵する。

 身長もマホの倍近く、横は更に大きな豚人間がマホの上半身くらいの刃の付いた斧を持って歩いていた。

 その大きさの為かそこにいるのは一体のみだ。


「おっと、ここから敵が変わるんだった。それにしてもでっかいなぁ」


 それはリョウヤから案内してもらった時に聞いていた情報だった。

 道中に敵の出ないここは出現するモンスターがランダムではなく、下半分はゴブリン、上半分がオークと種類は固定で上位種が出るかがランダムとなっている。

 でかいと聞いていてもそのオークの巨体に思わず見上げてしまう。


「近寄らせない方がいいよね」


 入り口で捕まるなと聞いていたのを思い出して、いきなり杖を構えて魔法を詠唱する。


「我が敵を斬り裂け! ウォーターカッター!」


 細く噴射された水がオークに対してナナメに走る。

 そして500のダメージを与えるが、オークはまだ生きている。


「げっ、思ったより効いてない! HPも高いし!」


 似たような詠唱でファイアなら600を超える。初めてのウォーターカッターだったが、倒せないと困ると思ってスーパーレアの『斬』を使って詠唱したのに僅かにHPが残ってしまった。

 これはこれまで相対したモンスターがほとんど火が弱点だったのと、ウォーターカッターが厳密には「斬る」ものではないせいだった。


「ブヒィー!」


 そして硬直したマホにオークが斧を振りかぶって迫る。

 あの攻撃を受けるとマズイと直感が告げている。


「わ! 動け動け! よしっ、ファイア!」


 焦りつつも硬直が解けると同時に慣れたファイアを放った。残りHPからそれが一番確実だと思ったからだ。

 その予想通りにオークは倒れる。


「危なかったー。なんで倒せなかったんだろ?」


 残ったHP的にマホの想定ではあの詠唱で倒せるはずだった。

 原因が分からず首を傾げる。


「でも離れててよかった。遠くからならオークも平気だね」



 ──油断。


 目の前にモンスターがいなくなったことでマホは完全に気を抜いていた。

 少し前にゴブリンリーダーが山道から現れたこと、自分がやってきた山道の前に立っていることを忘れてしまっていた。


 背後にズンという足音を聞いて振り返った時には遅かった。


「えっ?」


 現れた新たなオークが片手でマホの体をガシッと掴む。


「きゃっ!」


 オークは掴んだマホをそのまま持ち上げた。


「うわー! 離して! 降ろして!」


 ジタバタと足掻くがその手はビクともしない。

 そしてオークはくるりと山とは反対側に体を向け、マホを持ったまま振りかぶる。


「ま、まさか! ちょ、ちょっと待──」

「ブヒィー!!」


 マホの言葉など聞かず、オークはマホを放り投げた。


「きゃーーー!!」


 叫びながら落下し、山肌にぶつかるとHPが削れる。


「ぎゃっ!」


 なおもバウンドして下へと転がっていく。

 マホが一回転するごとに更にダメージが入る。

 グルグル回転する視界に耐えられずマホは目を閉じた。



 そして、しばらく転がり落ちてようやく止まった。


「酷い目に遭ったようだな」


 その声に目を開けると、歪んだ視界に入り口で会った鎧のNPCが映る。


「ここは……入り口? 私生きてるの?」


 どうやら目が回ってしまっているらしく上手く起き上がれず、視界も歪んだままだ。

 そんな状況ながらなんとか自分が戦闘不能にはなっていないこと──というより本気で死んだかと思ったようでゲームであることを思い出した──と現在位置を把握した。


「あー! ダンジョンから出ちゃった!!」


 ゲーム内だと思い出して真っ先に気にしたのはそこだった。

 楽しみにしていた移動手段の入手に失敗したことが何よりショックだったらしい。


 実はここのシリーズ装備の入手条件にも初見でかつそれと同じものが含まれており、マホはその権利も同時に失っていたが、さすがにそれは知りうる術がない。


「何にしても登り直しだね」


 再挑戦するにはボスを倒してリセットしなくてはならない。まだ時間もあることからマホはもう一度登ることにする。


「でも、ちょっと休憩。HPも減っちゃったしね」


 視界もまだ回復していない。

 ダンジョンの外ならHPの自然回復もあるのでそれを待つことにした。

 ちなみに転がり落ちたダメージでかなり防御補正が上がっているのだが、マホはまだ気付いていない。


 10分程休憩して、マホは再び山ダンジョンを登り始めた。

 二度目はさすがに速度重視で試したりはせずに進んで約2時間、ようやく山頂が見えてきた。

 山頂は道中モンスターと戦った場所より広いバトルフィールドとなっている。


「これがボス部屋ってことかな? 今16時くらいだから……ここは試させてもらおっと」


 まだ時間も余裕があることを確認したマホがそこに足を踏み入れると、バサバサと大きな鷹のモンスターが降りてくる。


「ビッグホーク……ちょうど鳥のモンスターだね」


 朱雀と同種のモンスターであることがわかり、マホはニヤリと笑った。

 そしてビッグホークはマホを認め飛び上がる。


「こうなるんだよね。これをなんとかしないと武器の人が戦いにくいって言ってたし……」


 ビッグホークは上空を2回旋回した後、マホ目掛けて急降下してくる。そして足の先の鋭い爪がキラリと光る。


「おっと。真っ直ぐなら当たらないよ!」


 間合いを取る為に走って避けようとしたのが功を奏する。

 翼を使って軌道修正してきたのだ。


「わわっ。危なっ」


 辛うじて追尾範囲から逃れたマホは空振って上空に舞い戻ったビッグホークに杖を向ける。


「我が敵を斬り刻め!」


 杖の棘がビッグホークを囲み、斬りつけていく。


「これじゃ落ちないか……」


 翼を斬られてもビッグホークの飛行は止まらない。そのまま旋回の態勢に入る。


「あれは走って避けて、っと」


 同じように追尾範囲外に避けると、今度は杖を持ち替えて構える。


「滝の如き水よ その圧力で我が敵を叩き落とせ! ウォータージャッジメント!」


 手持ちのワードとイメージを固める言葉で詠唱したその魔法は、大量の水となってビッグホークに降り注ぐ。

 補正ワードが二つしかなかったのでウルトラレアの『審判』を使ってもダメージは600程だったが、狙い通りビッグホークを地面に落とすことに成功する。


「よしっ! これなら『叩く』と『落ちる』も買ってよかったかな」


 対朱雀でも使えそうな広範囲になった魔法に、買わなかったワードのことを思い出す。



 そして──。


「うん、もう一つの方もいけるね。動きを止めるのにも使えそう。後はアレの後そのまま攻撃できるかどうか……それはやってみるしかないかな」


 しばらく戦闘を続けた後、試しておきたかった二つ目の魔法でトドメを刺し、その効果に満足する。


 そしてビッグホークのドロップ品、鷹の爪を手に入れると、銀の宝箱が出現する。


「お、これってスーパーレアから出るんだよね!」


 初回限定とはいえ、スーパーレア以上が手に入る貴重な機会だ。ここで初めてスーパーレアを入手するプレイヤーがほとんどであるがマホにはそんな実感はない。

 ただ初めて見る銀箱(シルバー)に興奮しているだけだ。


 ちなみにこの山ダンジョンには白箱(ホワイト)が一つあり、今回のマホは『空』というノーマルの補正ワードを入手していた。


 そして宝箱を開けると……。


「ま?」


 やや強めの輝き演出付きで『魔』の文字が表示されていた。


「魔! 私の名前!」


 自分の魔法(マホ)の一文字を手に入れたことにテンションがマックスまで上がる。

 そしてそのテンションのままメニューを開こうとするが……。


「入り口に戻るー? ばびゅっと飛ばしてあげるよー!」


 ダンジョンマスターのその声にマホの行動はキャンセルされる。


「もうっ! 戻る! 戻るから早く!」


 開きかけたメニューが閉じられたことに憤慨しつつ戻ることを選択する。

 自分の名前の一部のワードを手に入れた興奮で、この後に何かあるかもしれないという思考は全く起きなかった。


 そして戻ったダンジョンの入り口ですぐにメニューを開き、手に入れたワードがスーパーレアの補正ワードであることを知るのだった。

お読みいただきありがとうございます。


トドメに使った魔法については朱雀戦で。

マホなら絶対『魔』を使うので実際は少し違うものになりますが。

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