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怒髪冠を衝け!  作者: 村松康弘
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 凄子は佐々木に、

「午後4時に、できるだけ目立たない格好で来い」

 と言うと、一昨日寄ったS中学近くのコンビニの場所を教える。佐々木は仕方なしといった感じで、へえ…と力なく答えた。凄子は少しイラつき、

 「今日のピンサロ代だって、どうせ昨日渡した銭だろうが!」

 と怒鳴る。佐々木はあわてて、

 「わかってます、わかってます、ちゃんと行きますよ」

 と弁解した。

 凄子は電話を切ると、リストから分類した『比較的若い男』たちの顔写真を抜き出すと、写真の裏にリスト上の名前を書いて、すぐにわかるようにした。棚から適当な封筒を見つけるとそれに入れて、近くのコンビニへ行く。コピー機の上に写真を並べるとすべての写真は、A4の紙3枚に収まった。それを2部ずつコピーを取る。


 ――午後3時55分、ボロ自転車でS中学近くのコンビニに到着した凄子は、あたりを眺める。(佐々木はまだ来てねえようだな)と、ぐるりと周囲を見回すと、店内の右側のガラスの向こうに、佐々木のハゲ頭が見えた。そこは確かアダルト雑誌コーナーのはずだ。(あのジジイはまったく…)と自転車を下りて店内に入っていった。

 佐々木が手に取って真剣に眺めているのは、案の定エロ本だった。『熟女クラブ』などと書かれた高級そうな本だ。

 凄子は呆れ顔で佐々木の肩を叩くと、弾かれたように振り向く。そしてニヤニヤと笑い、

 「これは、姐さん」

 と頭を下げた。てっぺんが妙にツヤツヤしている。凄子は無言でアゴをしゃくると、缶コーヒーを2本とセブンスターを2箱買って、黙ってついてくる佐々木と一緒に外の喫煙場に向かう。コーヒーを差し出すと佐々木は、どうもと言って受け取り、凄子の右手のタバコを眺めた。

 「てめえは物乞いかよ」

 凄子は言いながら1本を佐々木に差し出した。火を点けてやると、今日の仕事の説明をはじめる。

 

 「あそこに見えてる中学の娘っ子がストーカー被害を受けててな、警察に相談したらしいんだが、具体的な被害は今んとこねえから真剣に扱ってくれねえらしい。そんである人物を介して、親子であたしのとこに相談に来てな、なんとかそのストーカー犯を見つけて今後つきまとわねえようにしてもらいてえって頼まれたわけさ」

 と言うと、佐々木は興味津々な顔に変わり、鼻をふくらませていた。

 凄子はその顔に気づき、いくらか心配になって、

 「おいお前、中学生の娘っ子と聞いて、なんか変な気起こしてんじゃねえだろうな?」

 と聞いた。すると佐々木は顔の前で手を振り、

 「とんでもねえ、あたしゃそんな子供にゃ興味ねえですよ。…あたしが本当に好きなのは熟女ですよ」

 と、さっき眺めていた本を思い出しているような表情をした。

 「熟女?あたしみてえなのか?」

 すると佐々木は激しく手を振ると、

 「それこそとんでもねえ!誰が姐さんみてえな、まともじゃねえ女…あっ!」

 と、つい口を滑らせた。凄子は途端に顔つきを変えると、

 「まともじゃねえだと…?」

 と、佐々木のアゴをつかみ上げた。佐々木は身体を持ち上げながら、

 「すんません、すんません」

 と良く聞き取れない口調で謝る。

 凄子は思い直して手を放す。

 「てめえの女の趣味を聞いてる時間なんてねえんだ」

 と言うと、封筒から地図を出した。この前、東郷涼子に教わってたどったマンションまでの道筋が書いてあるものだ。それを佐々木に渡すと、

 「ストーカーは、背が高くて若い男の可能性が高い。…これから学校の下校時間になるから、この道を何度か往来してみてもらいてえんだ」

 と言った。そして、午前中にコピーしておいた顔写真の紙も手渡す。地図から写真に目を移した佐々木は、こいつは?と聞いてくる。凄子は、

 「ある情報屋に頼んで作ってもらった『変質者・性犯罪者リスト』だよ、これはそのリストの中の、若えヤツだけピックアップしてある」

 と言うと、佐々木は、へえーと感心したように呟いた。

 「まあ、この中に犯人がいるかわからねえが、もしいたとしたら解決は早くなる」

 と凄子は言った。

 「それから、これも犯人かどうかは定かじゃねえが、『お香』のような匂いをさせているかもしれねえ」

 と言うと、佐々木は、お香ねえと言いながら写真の紙を畳んで、ポロシャツの胸ポケットに突っこんだ。

 「とにかく地道にやってみるしかねえからさ、お前は目を皿のようにして、ハゲ頭にアンテナをおっ立てて歩いてみてくれよ」

 と佐々木にセブンスターを1箱渡す。受け取った佐々木は使命感を感じたのか、いくらか胸を張り、

 「あたしの空き巣狙いのプロとしての、目と鼻を生かしてみせますわ」

 と誇らしげな顔をした。遠くで学校のチャイムが聞こえてくる。

 「じゃあ、なにかあったら連絡頼むぞ」

 と言うと、佐々木は背筋を伸ばした姿勢で県道を横断していった。凄子はボロにまたがると、市街地方向へこぎ出す、『お香』を扱っている店を探すためだ。


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