新学期
「あ~だり~。今日から新学期かよ~。」
僕、安納茂の隣を歩きながらそう呟くのは、高校のクラスメイトの霧島理花。また懲りずに夜更かしをしていたのだろう。セーラー服は少ししわがあり、片手にはマーマレイドを塗ったトースト。典型的な寝坊が見て取れた。夏休みが明け、僕たちは久しぶりに制服姿で登校していた。
「茂はよく余裕で起きれるよな~?制服とか窮屈だし、もうちょっと伸縮性があるやつにできなかったのかよ?」
今度は学校指定の制服への文句が始まった。
「スカートが妙に短くてひらひらするの気になるし、リボン私の性に合わないのに。」
「でも一応校則だし、服装がちゃんとしていないとだらしなく見えるんじゃないのかな?」
やれやれと思いながらも、僕は返事をする。それを聞いた理花はため息をついた。
「そんなこと言うの、お前か堅物委員長くらいだよ。」
委員長の福安晶奈さんの悪口をさりげなく言う理花。形が崩れたニーソックスを仕方なそうに直していた。
「はぁ~。終業式の日が懐かしい。あの瞬間は学校から解放されたあってなって制服も鞄も投げ捨てたからなあ。」
「そういえばそんなことあったね。」
夏休み前日を思い出しながら理花はため息をまたつく。ただあの日は僕にとっても忘れがたい日だった。
「だからってねえ理花。先生にまっすぐ帰りなさいと言われた矢先僕ん家に上がり込むことはないだろう?それに飽きたらずさりげなくその日は泊まるとか言い出して本当に泊まって・・・おかげで夏休みの宿題やるの遅れたじゃないか。」
「うるさい奴だなあ。あの日は初日前からゲームしたり漫画貸し合ったりして楽しかっただろ?」
「それはそうだけど、君がゲームクリアできないからって机に当たったり壁にぶつかりながら寝転がっておかし食べたり、漫画読むから次の日片付け大変だったよ全く・・・・」
「片付けに関しては私も渋々手伝ってやったろ?」
えっへんと言いたげに言いきる理花。元はと言えば君のせいなんだけどねと言いたかったが、そう言ったら喧嘩になるのは分かりきった事。朝から疲れたくないし、黙っておこう。
「いやあでも、夏祭り楽しかったなあ。」
理花はなんの脈絡もなく夏祭りの話を始めた。
「たこ焼きもうまかったし、焼きそばやわたあめなんかも祭りで食べると格別だったよなあ。」
「ああ、そういえばそんな事あったね。」
新学期に向けて気持ちを切り替えていたので、僕は夏祭りの事を遅れて思い出した。
「それに浴衣も似合ってただろ?それだけにこの制服が、個人的にいまいちだ。」
理花は制服を直しながらまた愚痴をこぼした。
「茂はどう思う?」
「え?」
いきなり聞かれて僕は返答に困った。正直な話、理花は浴衣も今の制服も似合っている。どっちが似合うとは言えない。でも答えるなら・・・
「・・・浴衣姿だとあの日だけの特別感があって捨てきだったけど、制服姿はいつもの理花って感じがして良いよ。」
僕なり言葉を理花に伝えた。すると彼女は何とも言えない顔を向けてきた。
「・・・・新学期になっても語力が変わらないよな。お前。」
「いやまあ・・はは。」
何とも言えない空気になり、僕はただ愛想笑いをするしかなかった。
「それにしても晶奈の奴もうざかったなあ。ああいう楽しんだもん勝ちな空気でも宿題宿題って。自分だってちゃっかり浴衣に着替えてるくせにな。」
理花は思い出したように福安さんの話をまたする。・・・・それは早く取り組まなかった自分が原因じゃないか・・・
「まあでも、夏休みの宿題は全部終わらせてるからな!晶奈の奴も文句は言えまい!」
自信満々に胸を張って理花は話す。結局最終日ギリギリまで終わらなくて途中から僕のを書き写してたでしょ?と言いたいが、ケンカになりかねないので、そこは黙っておくことにした。
「ああっ!!」
そんな事を考えていると、突然理花が大声を出した。
「プリントがない!ワークもノートも!」
鞄を漁りながら理花は慌てている。どうやら肝心な宿題を全部忘れてきたみたいだった。
「何ぼさっとしてるんだ茂!急いで取りに帰るぞ!」
「え?は?ちょっと!?」
僕が話を聞いていると、理花は僕の手を引っ張って引き返し始めた。
「ちょっと理花!何で僕まで戻るのさ!?」
「一人で怒られるなんてごめんだ!こうなったらお前も遅刻だからな!」
無茶苦茶な理由で理花は僕を道連れにする気満々だった。新学期も相変わらず彼女の自由奔放ぶりに振り回されるのかと思うと頭を抱える一方で、いつもの日常に戻ったという安心感を覚える自分もいた。




