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認めざるおえない



 夜。自室のベッドの上で私は天井を眺めていた。


 何度目かの寝返り。枕の冷たさが頬に伝わる。

 眠むれない。昨日の放課後から胸の奥にある塊がどうしても溶けない。


 私は起き上がり机の上のノートを開いた。先日、図書室で書いたあの「結論」が目に入る。


『私は一ノ瀬汐恩のことが好きではない』


 その文字を私はじっと見つめて…そしてペンを手に取った。


 一文字ずつ丁寧にその上に線を引いた。引き消した。黒い線の下から文字が透けて見える。


 消したつもりでも、やはり残っている。


「……好きだ」


 声に出してみた。自分の部屋で誰も聞いていない。小さな、小さな声。


「私は、一ノ瀬汐恩のことが、好きだ」


 二度目は少し大きく言った。言った瞬間、心臓がドクリと跳ねた。同時に身体中の力が抜けていくような感覚に襲われた。


 まるで、長い間抱え続けていた重い荷物をようやく地面に置いた時のような。


(認めた。認めてしまった)


 かつて男だった私が男に恋をした。


 それはかつての自分が最も忌み嫌っていたはずの結末だ。TS転生ものの物語で主人公が男に惚れる展開を見るたび、「ありえない」「ご都合主義だ」と鼻で笑っていた。


 中身は男なのだから、男に惚れるなんてあり得ない。そう思っていた。


 だけど…現実は違った。


 私の心臓は彼の笑顔を見ると跳ねる。彼が他の女子と話していると胸が軋む。彼に触れられると世界が止まる。


(私は、男としての記憶を持ったまま、女として彼に恋をした)


 そこにあるのは私が一人の男に惹かれた純粋な恋だ。中身が男だろうが女だろうが、今の私の心が「彼を好きだ」と叫んでいる。


 それを否定することは今の自分を否定することと同じだ。


(認めるしかない。そして、認めた以上、次は考えなければならない。私がどうしたいのかを…)






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