お昼休み
「俺たち同じクラスだろ? つーか、カップルが別々の場所で飯食うなんて怪しまれるぜ?」
彼はそう言ってポテトチップスの袋を破った。カサカサという音が、私の静かなランチタイムを台無しにする。
「……わかりました。ですが、余計な話はしないでくださいね」
「へいへい。楓ちゃんは真面目だなあ」
「楓ちゃんって呼ぶなと言っているでしょう」
「じゃあ、楓?」
「……二宮さんと呼びなさい」
「堅いなあ。ま、いいや。あ、肉団子うまそう」
彼は私の弁当箱を覗き込み、箸で自分のポテトチップスを指した。
「交換しねえ? 俺の塩味と、お前の甘酢」
「は? 交換? 衛生的な問題がありますし、そんな……」
「一口でいいから。ほら、あーん」
彼は信じられない速さで私の弁当から肉団子を一つ摘み上げ、自分の口に入れた。
「何をするんですか!」
「んまっ。うま。甘くてうめえな。今度俺の家でも作ってくれよ」
「作るわけないでしょう! 他人の弁当を勝手に食べるなんて最低のマナー違反です!」
私はカッとなって声を荒げた。だが彼は少しも悪びれず、口の端に笑みを浮かべたままだ。
「他人じゃねえだろ。俺たちはカップルなんだから、間接キスとか気にする仲じゃないし」
「っ……!」
間接キス。その言葉の破壊力に私は息を呑んだ。かつての男としての私が「間接キス」などという言葉に過敏になる必要はないはずだと言う。
だけど、今の私の身体は違う。頬が熱い。心臓がトクトクと早鐘を打っている。
(なんで私が男に間接キスなんて意識しなきゃいけないんだ! 情けない!)
「……あなたは本当に、限度ってものを知りませんね」
私は視線を外して不貞腐れたようにタマゴ焼きを口に運んだ。甘い味が心の苦さとは全く合わない。
「まあまあ。ほら、お詫びにこれやるよ」
汐恩はポテトチップスを一枚、私の口元に差し出した。
「いりません」
「食えって。俺の手が汚れるだろ」
「自分で食べれます!」
私は彼の手からチップスを奪い取るようにして口に入れた。カリッとした塩味が舌に広がる。
「なんか、水分ほしくなった。お前の飲ませてよ」
「死んでも嫌です!」
昼休みの終わりのチャイムが鳴るまで私は彼の厚かましい要求と、それを一蹴する自分の言葉の応酬に終始した。
だが、不思議とその時間は苦痛ではなかった。むしろ、独りで食べる静かなランチよりも
何倍も時間が濃く流れたような気がした。




