↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

お昼休み


「俺たち同じクラスだろ? つーか、カップルが別々の場所で飯食うなんて怪しまれるぜ?」


 彼はそう言ってポテトチップスの袋を破った。カサカサという音が、私の静かなランチタイムを台無しにする。


「……わかりました。ですが、余計な話はしないでくださいね」


「へいへい。楓ちゃんは真面目だなあ」


「楓ちゃんって呼ぶなと言っているでしょう」


「じゃあ、楓?」


「……二宮さんと呼びなさい」


「堅いなあ。ま、いいや。あ、肉団子うまそう」


 彼は私の弁当箱を覗き込み、箸で自分のポテトチップスを指した。


「交換しねえ? 俺の塩味と、お前の甘酢」


「は? 交換? 衛生的な問題がありますし、そんな……」


「一口でいいから。ほら、あーん」


 彼は信じられない速さで私の弁当から肉団子を一つ摘み上げ、自分の口に入れた。


「何をするんですか!」


「んまっ。うま。甘くてうめえな。今度俺の家でも作ってくれよ」


「作るわけないでしょう! 他人の弁当を勝手に食べるなんて最低のマナー違反です!」


 私はカッとなって声を荒げた。だが彼は少しも悪びれず、口の端に笑みを浮かべたままだ。


「他人じゃねえだろ。俺たちはカップルなんだから、間接キスとか気にする仲じゃないし」


「っ……!」


 間接キス。その言葉の破壊力に私は息を呑んだ。かつての男としての私が「間接キス」などという言葉に過敏になる必要はないはずだと言う。


 だけど、今の私の身体は違う。頬が熱い。心臓がトクトクと早鐘を打っている。


(なんで私が男に間接キスなんて意識しなきゃいけないんだ! 情けない!)


「……あなたは本当に、限度ってものを知りませんね」


 私は視線を外して不貞腐れたようにタマゴ焼きを口に運んだ。甘い味が心の苦さとは全く合わない。


「まあまあ。ほら、お詫びにこれやるよ」


 汐恩はポテトチップスを一枚、私の口元に差し出した。


「いりません」


「食えって。俺の手が汚れるだろ」


「自分で食べれます!」


 私は彼の手からチップスを奪い取るようにして口に入れた。カリッとした塩味が舌に広がる。


「なんか、水分ほしくなった。お前の飲ませてよ」


「死んでも嫌です!」


 昼休みの終わりのチャイムが鳴るまで私は彼の厚かましい要求と、それを一蹴する自分の言葉の応酬に終始した。


 だが、不思議とその時間は苦痛ではなかった。むしろ、独りで食べる静かなランチよりも

何倍も時間が濃く流れたような気がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。