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「すべての者が不幸になればいいって思ったわ。だけどそれが何」
アンカーは神に向かい、恐れなど知らないとばかりに叫び声を上げる。
アンカーの最後の願い。愛し子が願うだけでどんな細やかな願いでも思いが強ければ叶うなら、他の願いだってとうの昔に叶っていて良いはずだ。とアンカーは内心神を嘘吐きだと罵る。
アンカーは毎晩気絶する様に眠りにつく時、このまま目を覚まさずにいられますようにと願っていた。
他の人を呪ったり、酷い目にあえばいいと願うことは無かった。
ただ、自分の爪の先ほどの小さな幸せだけを願っていただけだ。
母のところに自分も行きたいと。
お腹いっぱい食べられなくてもいい。気分が悪くなる程の寝不足が続いても、歯の根が合わなくなるほど寒い場所で冬を過ごすことになってもかまわない。
大きな幸せどころかほんのささやかな心の安らぎすらもう諦めるから、早く母のところに行きたい、ただそれだけを願っていた。
でも無常にも朝が来て、アンカーは水すら簡単には与えれることなく、当然食事なんて一欠片のパンすら、まともなものは貰えずにアンカーは働かされ続けた。
神なんていない、願っても願ってもどうせアンカーのことを神は見ていない。
不義の子は神に見捨てられた存在なのだと言われ続け、アンカーは素直にそれを信じた。
母が亡くなるまでは家庭教師がいたがそれ以後は自力で勉強させられただけなのに、計算を間違えたと蹴られ、礼儀作法が出来ていないと鞭打たれた。少ない食事で酷使され続けながら、アンカーは自分が神に見捨てられた存在なら仕方がないと諦めて、ただ母親の元に行ける日を待ち続けた。
「私の幸いは死ぬことだけだった。だけど死んでもすぐに生き返っていた。苦しい日々を生きて、死ぬ間際に以前の記憶を思い出して絶望して、また首を落とされるの。死ぬのは幸せだけど、また生き返るのなら全てを呪ってやるって、恨みはどんどん強くなったわ」
神に言われて、首を落とされる寸前の記憶をアンカーは思い出し、吐き捨てる様に神に言う。
処刑される寸前に以前のことを思い出しても何も出来はしないのに、自分の苦しい人生はたった一度では無かったと知り更に絶望してしまうのに、無能な神はアンカーの記憶を死ぬ寸前に思い出させるのだ。
今でも恨みは消えない。とアンカーは神の使いを睨みつける。
神なんて消えてしまえばいい、愛し子だと言いながら、それを間違える無能なんて、愛し子を自ら苦しめる無能なんて消えてなくなってしまえばいい。
アンカーの恨みのこもった目で睨みつけられた神の使いは、アンカーのその恨みの強さに耐えきれず膝をついた。
「何度も生まれ変わって、それを知らずに生きてまた辛い思いをして、それが何なの? それが神の優しさならそんなもの私はいらない」
『アンカー、お前が死ぬ間際世の中の全てを恨んで呪っていた。その力が私の力を奪い記憶を奪ったのだ』
「力と記憶を奪う?」
『そうだ。アンカーが死ぬ度に世界はそこで滅んだ。私も含め全てが消えた』
「どういうこと?」
訳が分からないと、アンカーは床にうずくまる神の使いと、目の前にいるらしい神を交互に見る。
『神である私を殺すことは出来ない。なのにアンカーに私は消されたのだ。私は一番最初の時、消える寸前にアンカーのやり直しを願った。アンカーが幸せに生涯を終えられたならやり直しはそこで終わる。でも恨みを持って死んだならまたやり直しが出来るようにと』
「なんでそんな……」
馬鹿じゃないのか、心の中で罵ってそれでも足りずにアンカーは神に向かいツバを吐く。
「それじゃ何度やり直したって同じ結果だったじゃないの。無駄なことを」
『そうだな、私もアンカーが死ぬ間際に以前を思い出すまで最初と同じ誤解をし続けていた。アンカーはその度に恨みを強くして神である私の存在を今のように否定した。繰り返すたびアンカーの恨みは強くなり、私の力は繰り返しを止められないままだった。アンカーの魂が過去に戻り私たちも同じく戻りアンカーが再び死ぬまで同じ生を生き続ける。そしてアンカーの死とともに私たちもまた過去に戻る、それがずっとずっと繰り返されているのだ』
それは呪いだと、アンカーは呟いた。
神は自分の手で愛し子を終わりのない呪いに落としたのだと、理解したくないのに理解してしまった。
「ねえ、どうして今回は違うの? 私もあんたも記憶があるのは何故?」
『この繰り返しを終わりにしたくて、アンカーが死ぬ寸前に記憶を持ってアンカーと私が過去に戻るようにした。私の力が及ばずにどちらか片方しかなかったとしても、片方だけでも記憶があれば同じ間違いはしないだろうと』
神の言葉にアンカーは大げさにため息を吐くと、頭を掻き毟る。
「私が記憶を持っていたらこうなるって分からなかったの、あんたどれだけ間抜けなの!」
『想像もしなかった。アンカー君は『幸せになりたかった』そう言って毎回死ぬんだ。だから私を含め全てを無くすことを覚悟すれば終わらせることもできたかもしれないけれど、アンカーに幸せになって欲しくて、その結果アンカーを無駄に苦しめ続けてしまった』
あまりの理由に呆れながら、アンカーは深く息を吐き乱れすぎた髪を手櫛で整え口元を袖で拭った。




