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神って間抜けで無能なだけでなく、なんていうか幼い子供みたい。そう、目の前に見えるものだけを素直に信じる子供みたいだと、アンカーは内心呆れ始めていた。
アンカーはもう生きていたくない。
これから今までの生と同じ様に義理の母と妹と、血が繋がっているのに自分を愛さない父に虐げられ続け生きるのは真っ平だったからだ。
それなのに、神は生きろと言う。
幸せになって欲しいと、言う。
だけどたった五歳の子供は大人に逆らうなんて出来ない、無力な子供であるアンカーはまた以前と同じく従属の腕輪をつけられ本当の姿と魔力と立場を奪われてしまう、そして最後は首を落とされる。
恨みを持ったまままたアンカーは命を落とす、だが神は何度でもアンカーを過去に戻し、次こそは幸せな人生をとふざけたことを祈るのだ。
「無能は何をやっても失敗するの。その理由が分かる?」
『無能、私のことか』
「お前、なんて無礼なことを!」
アンカーの遠慮のない発言に、神は苦笑している様な気配を纏わせながら問いかけ、神の使いは怒りのあまり大声を上げるけれど、アンカーは神の使いを無視して光を指差す。
なぜか神はアンカーの暴言を許している、それどころかアンカーが乱暴な言葉を使いながら自分を睨むのを嬉しそうにしているようにさえ見えるのだ。
「そうよ、あんた。神のくせに無能で馬鹿なあんたのことよ」
『君を救えなかった私を恨んでいるのだな』
「あんたみたいな無能を恨んでも仕方がないわ。呆れているだけよ、記憶があったら何? それで幸せになれる? 五歳の子供がたった一人の味方すらいないところでどうやって? 今のあんたに以前の記憶があるなら分かるでしょ、抵抗しても私は腕輪を嵌められて魔力も何もかも奪われる」
親に守られず、他の誰も助けない環境で子供が健やかに育つのは、神の奇跡よりあり得ない。
幼子が一人で生きられるなら、市井の貧民だって苦労したりしない。とアンカーは神を睨みつける。
「それに、従属の腕輪が無くても、私のまま生きられるとしても、私はきっと幸せな一生は送れない」
『なぜだ、アンカー』
「私はこの世界が憎い、この国が憎い、この国の人々が憎い。誰も信用出来ない、以前の生で、私に関わったすべての人間は私を甚振った、苦しめた。見た目が義妹だったとしても、私は苦しめられ続けた。今のこの世界が、私を甚振っていた世界の前だとしても、私には甚振られた記憶があるの。誰に何をされたか覚えているの」
アンカーを甚振っていた、その筆頭は兄のスカイだった。
不義の子だ、自分と妹を不幸にした義母と父の間に生まれた子だと、義妹の顔をしたアンカーを憎み、ことあるごとに嫌がらせをした。
義妹がアンカーに嫌がらせをされたと嘘を吐き、自分のものを妬んで盗もうとしたとまた嘘を吐く、それを信じてアンカーを罵ったのだ。
スカイは自分の妹を守るためといいながら、本当は『愛し子の妹の我儘は許さなくてはいけない苛立ち』の鬱憤晴らしをしたいだけだった。
「私はね、お母様以外信用出来る人はいないの」
『アンカー、でも』
「お母様はまだ生きている?」
『辛うじて、解毒されないのだからもうすぐ命は尽きるだろう』
淡々とした口調で、神が告げる言葉にアンカーは散らばっていた水差しの破片を掴み神に投げつける。
「何をする!」
「毒! お母様は今までずっと毒で亡くなっていたの?」
『そうだ。アンカーにも同じ毒が使われていたようたが、お前は愛し子で回復力が強かったから助かった』
アンカーがなぜ怒っているのか、神は理解できず、ただ事実だけを告げる。
「それは父達がやったことなのね?」
『そのようだな、今屋敷の中にいる者達が命が尽きるのを待っているようだ、お前の父親が母親の体内にあるのと同じ毒を持っている。弱い毒だ、繰り返し飲ませることで体が弱る』
アンカーが怒りのこもった目で神を睨むのを、ただ受け入れる神は、それでも神の力で全てを見通している。
それにも苛立ち、アンカーは神への恨みを強くする。
「ねえ、本当に私を生かして、幸せな一生を過ごさせたいの? そのためなら何でもする?」
『お前が、生涯自死しないと誓うならアンカーの望みを叶えると約束する』
アンカーを生かすために、神は力を使うと約束した。
簡単に、そう答える神にまた呆れながらアンカーは考えを巡らせる。
「私の幸せには、父と義母と義妹の存在は不要なの。そしてお母様が今亡くなったらその瞬間私は不幸になる。いい? 幸せになれないんじゃなく、不幸になるのよ」
『ならば母親を生かせばいいのか? 解毒し健康にし本来生きるはずだった年齢まで生かせばいいのか』
何でもない事の様に聞いてくる神を、アンカーは心の底から呆れて「出来るの」と聞くしか出来なかった。




