9話 決闘状
いよいよ、聖夜決戦となる12月25日の夕方。
雪がちらつく寒い夜だった。
街のイルミネーションが赤く輝き、クリスマスの喧騒が遠くから聞こえてくる中、朱莉は緋奈子のアパートの少し手前で息を潜めていた。
朱莉「さて、ここが緋奈子さんの家の前だね……
ヤツは、必ず来るはず。しばらく待っていよう」
心臓の音が自分でも聞こえるほど大きかった。
朱莉はポケットの中で拳を握りしめ、静かに夜の気配に耳を澄ませた。
10分ほどが経った頃、足音が近づいてきた。
DV野郎が、酒の臭いを漂わせながら、ふらふらと現れた。
DV野郎「おい! お前は誰だ?」
朱莉「あたしは、緋奈子さんの友人の朱莉だよ」
DV野郎「で、なんでお前がここにいるんだ?」
朱莉はゆっくりと封筒を取り出し、DV野郎に差し出した。
朱莉「あんたに渡すものがあるからだよ。ただの手紙じゃないから、中身をよく見なさい!」
DV野郎は怪訝な顔をしながら封筒を受け取り、乱暴に開けた。
DV野郎「なっ……なんだと!?決闘状だと……?」
彼の顔が一瞬で歪んだ。
決闘状など、想像すらしていなかったのだろう。
困惑と嘲笑が混じった表情で、DV野郎は朱莉を睨みつけた。
DV野郎「か弱いあいつが、俺と戦うってのか?女が男に勝てる訳ないだろ!バカだな」
朱莉は心の中で冷たく笑った。
(私の元彼を思い出す……あの時みたいにボコボッコにしたい衝動に駆られるけど、ここはグッと我慢。
今度は緋奈子さんが、あんたを徹底的にぶっ飛ばす番だからね)
DV野郎「お前はどう思う?」
朱莉「確かに、一般的に女性の方が弱いかな……」
(鍛えた女子は、例外だけどね!)
朱莉は笑顔を保ちながら、内心で強く思った。
DV野郎「だよな! 勝負にならん。でも、今日もスロットで負けたんだよな……。
あいつ、貧乏神だから殴るとスッキリするかも」
DV野郎「よし、案内しろ!」
朱莉「分かった。会場までご案内します」
DV野郎「おぅ。早くしろよ! 今日はイライラしてんだよ!
しかし、クリスマスの夜にストレス発散させてくれるなんて、ある意味プレゼントだな」
朱莉は笑顔でその場を取り繕いながら、心の中で冷たい言葉を吐いた。
(あんたがやっつけられるんだよ。ボコボコになっちまえ。緋奈子さんは、本当に強くなったんだから……
あんたが一番嫌いな赤いシャツと赤い靴で、徹底的に叩きのめしてやる)
二人は夜の街を歩き始めた。
雪が静かに降り積もり、街灯が赤く輝く道。
朱莉の胸には、緋奈子への絶対的な信頼と、明日の決戦への期待が熱く燃えていた。
DV野郎はまだ何も知らない。
自分がこれから、赤い情熱を纏った女性に、完膚なきまでにぶっ飛ばされる運命だということを。
朱莉は小さく、けれど確かに微笑んだ。
朱莉(さあ、始まるよ……聖夜決戦)
赤い靴の音が、静かな夜に響いていた。
クリスマスの夜は、もうすぐ本当の意味で「特別な夜」になる。




