10話 会場まで〜男は強いという幻想〜
雪が静かに降り続くクリスマスの夜。
朱莉はDV野郎を連れて、夜の街を歩いていた。
目的地は、緋奈子と毎日練習を重ねてきた、いつものボクシングジム。
今日は特別に貸切にしてもらっていた。
朱莉の胸は高鳴っていた。
横を歩くDV野郎は、酒の臭いを漂わせながら不機嫌そうに煙草をふかしている。
(私の元彼と同じ境遇になっちまえ……DVは、絶対に許さないんだから!)
足音だけが響く中、朱莉は強く思った。
(女をボコボコにする男……最低最悪な男。弱い人を攻撃する奴は、もっと弱いんだよ。)
(今日であんたの「男は強い」という幻想を、打ち砕いてやるんだから覚悟していなさい!)
(緋奈子さんが、きっとやっつけてくれる!)
DV野郎が突然口を開いた。
DV野郎「なぁお前、本当にあいつが俺と戦う気か?」
「あんなにか弱い女が、よくそんな決闘状なんて出せたもんだな」
朱莉は笑顔を保ちながら答えた。
朱莉「ええ、本気だよ。緋奈子さんは、ちゃんと覚悟を決めてる」
DV野郎「はっ! 覚悟?女が男に勝てるわけねえだろ。1分で終わらせてやるよ。」
「今日はストレスが溜まってるから、ちょうどいい発散になるぜ」
朱莉は内心で冷たく思った。
(あんたが一番弱いんだよ……)
(今日、赤いシャツと赤い靴を着た緋奈子に、徹底的にぶっ飛ばされるんだから)
雪が二人の肩に積もり、街灯が赤く輝く道を進む。
朱莉はDV野郎を誘導しながら、ゆっくりとジムへと向かった。




