7話 赤いシャツに誓う決意
朝のボクシングジムは、まだ人が少なく静かだった。
朱莉がストレッチをしていると、ドアが開く音がした。
朱莉「おはよう」
緋奈子「おはようございます……」
緋奈子の声が小さく、元気がない。左の頰に薄い痣が残っているのが痛々しかった。
朱莉「どうしたの? 元気ないね……きっと、ヤツのせいだよね?」
緋奈子は小さく頷いた。
緋奈子「はい……昨日、家に押しかけてきて、やられてしまいました。
また金を出せって言われて、平手で殴られて……」
朱莉の目が鋭くなった。
朱莉「もう大丈夫。今日は徹底的に鍛えよう。
サンドバッグを、あいつだと思ってぶん殴ろう!」
緋奈子「今日は……300発殴ります!
絶対に強くなって、あいつを私の手でやっつけます!」
二人はリングに上がった。
朱莉はいつもの鮮やかな赤いシャツを着ていた。
今日は緋奈子も違った。
赤いシャツを着て、赤いスニーカーを履いている。
少し照れくさそうにしながらも、彼女は自分の胸元に視線を落とした。
緋奈子「私も……今日から赤を取り入れてみます。」
緋奈子「実は、あいつが『赤は派手で嫌い』って言ってたんです。だから、わざとこの色を選びました」
朱莉「へえ……そうなんだ。あいつの苦手な色を、わざと身につけるなんて、なかなかやるじゃない」
緋奈子は少し力強く頷いた。
緋奈子「はい。あいつの嫌いな色を着ていると、なんだか悔しさが燃えてきて……
練習のときも、すごく気合いが入るんです」
朱莉は微笑みながら、自分の赤いシャツの袖を軽く引っ張った。
朱莉「いいね。それでこそ私たちの赤だよ。
あいつが嫌がる色を、お揃いで着て勝ちに行く。最高じゃない」
トレーニングが始まった。
朱莉「腰を落として! 体重をしっかり乗せて!」
緋奈子「えいっ! えいっ! たぁぁっ!」
パンチの音がジムに響くたび、二人の赤いシャツが汗で光を反射した。
朱莉の深みのある赤と、緋奈子の少し明るめの赤が並ぶ姿は、リングの中で鮮やかに映えた。
300発を終えた頃、緋奈子は息を荒げながらも、達成感で目を輝かせていた。
緋奈子「はあ……はあ……やった……300発、やりきりました!」
朱莉「よく頑張ったね。フォームもだいぶ良くなってる。特に右のストレートが鋭くなったよ」
朱莉は自分の赤いシャツの袖で汗を拭い、緋奈子の赤いシャツの肩を軽く叩いた。
朱莉「この赤を着ていると、あいつの嫌そうな顔が想像できるよね。それだけで力が出る」
緋奈子「はい……あいつが『赤は派手で気持ち悪い』って言ってたのを思い出すたび、もっと強く殴りたくなるんです」
その日から、二人のトレーニングはさらに熱を帯びた。
早朝と夜の二部練習。
サンドバッグ300発、ミット打ち、キック練習、アッパーカットの特訓。
二人はお揃いの赤いシャツを着て、赤い靴を履いて汗を流し続けた。
ある日、緋奈子が疲れて膝をついた。
緋奈子「もう……きつい……あいつ、強かったし……」
朱莉は自分の赤いシャツの胸元を軽く掴み、緋奈子の前にしゃがみ込んだ。
朱莉「無理じゃないよ。緋奈子さんはもう二ヶ月でここまで来てる。」
朱莉「ほら、この赤いシャツを見て。私たちの赤だよ。もっと自信持って!」
緋奈子は自分の赤いシャツと赤い靴を見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
緋奈子「……はい。あいつが嫌いな赤を着ていると、逆に勇気が出るんです。」
緋奈子「朱莉さんと一緒の色を着ていると、強くなれる気がします」
日が経つにつれ、緋奈子の変化は目に見えてわかった。
パンチのスピードが上がり、キックの威力が増し、アッパーカットの軌道が安定していく。
赤いシャツを着た胸が、赤い靴を履いた足が、日に日に力強さを増していった。
クリスマスまで残りわずかになったある夜、二人は練習を終え、リング脇に座って水分補給をしていた。
二人の赤いシャツは汗でびっしょりになり、赤い靴も練習の証のように輝いていた。
朱莉「緋奈子さん、もう本当によく頑張ってる。クリスマスの夜、あいつをぶっ飛ばす姿、楽しみだよ」
緋奈子「はい……絶対に勝ちます。あいつが嫌いな赤を着て……絶対に勝ちたいです。」
朱莉は優しく微笑んだ。
朱莉「そうだね。あいつの苦手な色で、徹底的にぶっ飛ばそう」
二人は拳を軽く合わせ、笑い合った。
クリスマスまであと数日。
緋奈子の拳は、日々確実に「勝利の形」を帯び始めていた。
二人の影が長く伸び、情熱的に揺れていた。




