19話 トドメのアッパーカット
リングの上で、激しい攻防が続いていた。
DV野郎「おのれぇぇぇ!
俺の本気を喰らえぇぇ!」
黒いグローブをはめた拳が、猛烈な勢いで緋奈子に向かって飛んでくる。
緋奈子「絶対に負けない!これがあたしの本気よ!」
しかし——
DV野郎の拳が緋奈子のガードを突き破り、脇腹に深くめり込んだ。
緋奈子「うっ……!」
体が大きく揺らぐ。痛みが全身を駆け巡る。
(痛い……でも……思い出して……あの頃の私を……)
DV野郎「ふん! まだまだだな!
女の分際で俺に勝てると思うなよ!」
彼は勢いに乗り、連続でパンチを浴びせてくる。
緋奈子は歯を食いしばり、必死に耐えながら、ふと恋人時代の楽しかった思い出がフラッシュバックした。
──初めてデートした遊園地
DV野郎「ほら、もっと笑えよ。お前可愛いんだから」
緋奈子「うん……楽しいね」
──夜の花火大会
DV野郎「綺麗だろ? お前と見れてよかった」
緋奈子「私も……幸せ」
──彼の部屋で一緒に映画を見ていた夜
DV野郎「ずっと一緒にいようぜ」
緋奈子「うん……」
あの頃は、本当に好きだった。
笑顔で手を繋いで、優しい言葉を信じていた。
でも——
平手が飛んできた夜
壁に叩きつけられた夜
「貧乏神」「女のくせに」と罵倒された夜
楽しかった思い出が、痛みとともに胸を締めつける。
緋奈子(あの頃の私は、信じていた……
でも、あんたは全部壊した。
優しかった顔も、全部嘘だった……
もう、許さない……!)
緋奈子は赤いグローブを強く握りしめ、瞳に強い光を宿した。
緋奈子「まだまだ……これからよ!」
DV野郎「ふん! まだ立ち上がる気か!
いいぜ、もっと本気でぶっ飛ばしてやる!」
DV野郎が再び大きく拳を振りかぶったその瞬間——
緋奈子は低く沈み、相手の動きを冷静に見切った。
緋奈子「てりゃぁぁぁぁ!!」
赤いグローブが、DV野郎の脇腹に深く突き刺さった。
DV野郎「ぐぉっ……!?」
続けて、緋奈子は素早い連打を浴びせた。
緋奈子「これが……あたしの本気よ!」
パンチが顔、胸、腹に次々と炸裂する。
DV野郎「ぐあっ……!
緋奈子は赤いグローブを強く握りしめ、全身の力を込めた。
(楽しかったあの頃を、全部壊したあんたに……
今、全部返してやる……!)
緋奈子「次で最後よ!あたしの本気を喰らえ!!」
彼女は大きく踏み込み、腰を回転させ、地面からの反動を全身に伝えた。
肩から拳へ、恋人時代の楽しかった思い出と、裏切られた痛みと怒りをすべて込めて。
緋奈子「でりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォン!!!
強烈なアッパーカットが、DV野郎の顎を下から打ち抜いた。
DV野郎「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ひなこぉぉぉぉ……あの頃……お前と一緒にいた時は……楽しかったのに……どうして……俺を……こんな目に……」
重く、鋭く、骨にまで響くような衝撃音がジム全体に轟いた。
DV野郎の頭が大きくのけぞり、体が一瞬浮き上がる。
次の瞬間、彼の体は大きくバウンドするように後ろへ吹き飛び、リングの床に大の字に倒れ込んだ。
口から泡を吹き、完璧なるダウンを喰らわせた。
完璧な一撃だった。
緋奈子は荒い息を吐きながら、倒れたDV野郎を見下ろした。
緋奈子「絶対にあんただけは許さないから!」
緋奈子「まだまだこれからよ!」
DV野郎「ぎゃぁぁぁぁぁ、やめろぉぉぉぉ」
彼女は倒れた男に近づき、容赦なくパンチを浴びせ、赤い靴で股間を強烈に蹴り上げた。
緋奈子「てりゃぁぁぁぁ」
DV野郎「ひぎゃぁぁぁぁぁ……!」
緋奈子「とりゃぁぁぁぁ」
DV野郎「ぎょぇぇぇぇ……!」
緋奈子「これが女の本気よ!!」
おっ男がぁぁぁぁ……!大事な所が……!
くるしぃぃぃ……!たすけてくれぇぇぇ……!
高くて強い女の声と男の弱い悲鳴がジムに響き渡る。
骨のミシミシという音も混じり、DV野郎はリングに崩れ落ち、泡を吹きながらのたうち回った。
緋奈子は冷たく見下ろしながら、静かに言った。
緋奈子「男だからって、自分の方が強いと思った?
か弱いと思って、今まで散々あたしを殴ったよね?
全部あんたが悪いんだよ!」
彼女はさらにパンチを浴びせ、徹底的に追い詰めた。
緋奈子「女は度胸!本気になれば、男より強いんだから!分かったか?」
DV野郎「ひぎゃぁぁぁぁぁ……!
ひぇぇぇぇぇ……!2度としません……
たすけてくれぇぇぇ……!」
緋奈子「もう2度と女性に暴力を振るわないこと!
次したらもっと痛い目に合うからね?
返事は?」
DV野郎「ひぃぃぃ……もう許してください……!
もう……二度と……女性に手は出しません……!」
弱々しいDV野郎の声が、ジムに虚しく響き渡った。
緋奈子はリングの中央に立ち、深く息を吐いた。
汗で濡れた赤いシャツが、リングの照明に照らされて輝いている。
DV野郎は泡を吐きながら、完全に気絶していた。
男のプライドは完全にへし折られ、リングに大の字に倒れ込んでいる。
その姿は、かつて緋奈子を支配しようとした傲慢な男とは、まるで別人のようだった。
緋奈子はゆっくりと近づき、冷たく見下ろしながら言った。
緋奈子「参ったか!2度と女を舐めんなよ!
これが……女の本気よ」
緋奈子は赤いグローブをはめた手を高く掲げ、リングの照明の下で勝利を噛みしめた。
緋奈子(やっと……やっと終わった……
あんたに与えられた痛み、全部返せた……
私は、もう怯えない)
朱莉はリングサイドから、温かい笑顔で緋奈子を見つめていた。
朱莉「よくやった……緋奈子さん。
あなたはもう、立派に強くなったね」
聖夜のジムに、長い間続いた恐怖と屈辱に、ようやく終止符が打たれた。
赤い情熱が、静かに勝利を照らしていた。
スカッと、すべてが終わった。




