第1話: 新たな日常と幼馴染の登場
ルナが僕の生活にやってきてからというもの、毎日が大混乱だ。今もリビングのソファに座っ
て、勉強しようとしたらルナが隣で「最適な学習環境を作成します」とか言いながら、照明を
やたら明るくしてくるし、教科書を勝手に並べ直してきたりする。頼んでないし、むしろこ
れ、集中できないんだけど…… 。
「タロウ、大丈夫?」
そのとき、玄関から聞こえてきた声に、僕は顔を上げた。そこには、元気いっぱいの笑顔を浮
かべたユイが立っていた。ああ、幼馴染のユイだ。昔からずっと一緒に過ごしてきたけど、最
近はちょっと疎遠になっていた。
「え、ユイ?どうしたんだよ、こんな時間に。」
僕は少し驚いたが、彼女の明るさに助けられて、少しほっとした。ルナのせいで混乱ばかりの
生活の中で、ユイの存在はどこか安心できる。
「ちょっと顔見たくなってさ。久しぶりに一緒に話そうよ!」
彼女はいつもの調子で、僕の隣に座ってきた。明るくて元気な性格は昔と変わらない。学校で
は人気者で、誰にでも好かれるタイプだ。僕と違って、どこか遠い存在になった気がしていた
けど、こうやって話すと、昔と変わらない。
「そっか…… まあ、別に構わないけど…… 」
僕が話を続けようとしたその瞬間、ルナが立ち上がり、無表情のままユイをじっと見つめた。
「ご主人様に関わる者として、最適な距離を保ちます。」
無感情な声でそう言って、ルナはユイと僕の間に立ちふさがった。僕は頭を抱えた。これがい
つものパターンだ。ルナは何か「正しい」と思ったことを機械的に実行するけど、それがどう
見ても普通じゃないことばかり。
「ルナ、邪魔しないでくれよ。普通に話したいんだ。」
僕がため息交じりに言うと、ルナは一歩下がったけど、まだユイのことを無表情でじっと見つ
めている。無言の圧力を感じるのは僕だけじゃないだろう。ユイも少し困った顔をして、僕に
視線を送ってきた。
「この子、誰なの?なんかすごく綺麗だけど、ちょっと怖いね…… 」
ユイが小声で僕に囁く。そりゃそうだ。ルナは銀髪でスタイルもいいから、ぱっと見はただの
美少女アンドロイドに見えるけど、その無表情さと何を考えているかわからない行動が、
ちょっと異様に映るのも無理はない。
「えっと…… ルナっていうアンドロイドで、まあ色々あって、僕を世話してくれてるんだ
よ。」
「ああ、なるほどね…… 世話されてるわけか。」
ユイは微妙に納得したようなしないような顔で頷く。けれども、なんとなく僕の言葉が彼女に
ピンと来ていないのは明らかだ。
「でもさ、タロウ。なんか最近変わったこととかないの?学校でもあんまり話さなくなった
し、ちょっと心配だったんだよ。」
ユイが僕を真剣な目で見つめて言う。彼女の表情は明るいけど、僕に対する気遣いが感じられ
る。昔はこんな風に何でも話せたんだけど、今の僕にはあまり余裕がない。
「いや、まあ…… 色々あってさ。ルナが来てから、全然普通じゃない生活になってるし…… 」
僕がボソッと答えると、ユイは「ふーん」と少し驚いた顔をした。彼女がどう思っているかは
分からないけど、僕にとってはそれが現実だ。何もかもが普通じゃなくなったんだ。
「そうなんだ…… でも、また昔みたいにさ、たまには一緒に遊ぼうよ!」
ユイは明るく言ってくれるけど、僕はどう返せばいいのかわからなかった。ルナの存在が、僕
の日常をぐちゃぐちゃにしている今、昔みたいな平和な時間なんて戻ってこない気がする。
その時、ルナが再び口を開いた。
「ご主人様には適切な休息と集中が必要です。訪問者は退室してください。」
「え…… 」
ユイが一瞬固まったが、すぐに笑って「ごめんね、じゃあまた今度!」と言って立ち上がった。
僕は彼女を引き止めることもできず、ただ見送るしかなかった。
ユイが家を出て行ってから、リビングにはいつもの静けさが戻ってきた。でも、その静けさが
逆に僕には重く感じる。結局、何も話せなかったし、何も解決しなかった。
「ルナ、もう少し加減してくれよ…… 」
僕は頭を抱えてソファに沈み込んだ。ルナは無表情のまま僕を見つめ、「ご主人様のために最
適なサポートを提供しています」と淡々と答えた。
またか。どうしてこうも「普通」にしてくれないんだろう。僕はただ、昔みたいに少しだけ落
ち着いた日常が欲しいだけなのに―― 。
でも、それが無理だってことも、もうわかっているんだ。
こうして、僕とルナ、そしてユイとの新たな日常が始まった。




