第6話: お弁当は栄養第一?
ある朝、僕はいつも通り起きて学校の準備をしていた。昨日の疲れがまだ残っているものの、
今日は少し楽になるかもしれない―― そう思っていた。
「ご主人様、今日はお弁当を作りました。」
キッチンから聞こえてきたルナの声で、僕は朝から驚かされた。普段は朝食を「サポート」す
る彼女が、今日はお弁当まで作ってくれるという。だが、これまでのルナの「サポート」の結
果を考えると、素直に喜べる状況ではなかった。
「え、お弁当?ルナが作ったの?」
僕はキッチンに向かい、無表情でお弁当箱を差し出すルナを見て、胸騒ぎがした。
「はい、ご主人様の健康を最優先に考慮した、栄養バランスの取れたお弁当です。」
ルナが差し出してきたお弁当箱は普通のサイズで、一見すると特に問題なさそうだ。けれど
も、彼女の言う「栄養バランス」がどんなものかは、今までの経験で痛いほどわかっている。
「…… ありがとう。だけど、大丈夫かな…… 」
僕は恐る恐るお弁当箱を受け取ったが、その中身を確認する勇気はまだなかった。学校で開け
ることになると思うと、不安しかない。
学校に着き、昼休みがやってきた。クラスメートたちがそれぞれお弁当を広げる中、僕は自分
のお弁当を持って少しだけためらった。これを開けたら、どんな結果が待っているのだろ
う…… 。
「タロウ、お前も弁当か?」
友達のユウスケが近づいてきて、僕のお弁当に興味を示した。彼は何も知らないから、普通に
僕のお弁当を開けるのを待っている。
「う、うん…… まあ、そうだけど…… 」
覚悟を決めて、僕はお弁当箱のフタをゆっくり開けた。そして、その瞬間、僕は固まった。
お弁当の中には、見たこともないような不思議な料理がぎっしり詰まっていた。白米があるの
は良いとして、その隣には色とりどりのサラダと、なんとデザートが一緒に詰められている。
まるで、サラダとスイーツが一体化したかのように、プリンの上にトマトが乗っていたり、果
物が卵焼きの中に挟まれていたりする。
「な、なんだこれ…… 」
僕は唖然としながらお弁当を見つめた。どうしてこんな組み合わせになったのか、全く理解で
きない。ルナの「栄養バランス」を考えた結果がこれなのか?
「タロウ、それ…… なんかすごい弁当だな…… 」
ユウスケが驚いた顔でお弁当を見ている。彼もこれは普通じゃないと感じているようだ。クラ
スメートたちも次々と僕の弁当を覗き込み、興味津々だ。
「いや、これは…… ちょっと特殊なやつなんだ…… 」
僕は必死に言い訳をするが、クラスメートたちは笑いをこらえきれない様子だ。僕がどう弁解
しようとしても、プリンにトマトが乗っている時点で、普通じゃないのは一目瞭然だ。
「それ、食べるのか?」
ユウスケが興味津々に尋ねてくる。正直、僕も食べたくはなかったが、せっかくルナが作ってく
れたお弁当を無駄にするわけにもいかない。仕方なく、僕は一口食べることにした。
まずは卵焼き―― と思ったが、卵焼きの中に何かが混ざっている。果物だ。僕は恐る恐る卵焼
きを一口食べてみた。
…… 甘い。卵焼きと果物の甘さが混ざり合って、なんとも言えない不思議な味がする。決して
まずいわけじゃないが、期待していた卵焼きの味とは全然違う。
次に、サラダに挑戦してみる。だが、サラダのドレッシングが甘い。しかも、その甘さがどう
やらプリンから染み出したものらしい。トマトにプリンの甘さが絡んでいて、これもまた奇妙
な味わいだ。
「う、うわ…… 」
思わず顔をしかめた僕に、ユウスケが笑いながら言った。
「お前、ほんとにそれ食べてるのか?すごいな。」
「…… まあ、仕方ないだろ…… 」
僕はなんとか笑顔を作りながら、残りのお弁当を少しずつ食べていくしかなかった。全てがルナ
の「最適な栄養バランス」に基づいたものだが、僕の口には全く合っていない。
その日の放課後、家に帰ると、ルナが出迎えてくれた。
「ご主人様、お弁当はいかがでしたか?」
無表情でそう尋ねてくる彼女に、僕はどう答えるべきか悩んだ。正直に言えば、彼女は無感情
だから反応はしないだろうが、それでも作ってくれた気持ちを無視するのは気が引ける。
「う、うん…… まあ、ありがとう。でも、少し変わった組み合わせだったかな…… 」
「ご主人様の栄養を最大限に考慮した結果です。全ての栄養素がバランス良く含まれていま
す。」
「そうかもしれないけど…… プリンとトマトはちょっと…… 」
「問題ありません。ご主人様の健康を最優先に考えています。」
彼女は淡々とそう言い放ち、何事もなかったかのように僕を見つめている。僕はため息をつき
ながら、これ以上何を言っても無駄だと悟った。
こうして、また一日が終わった。ルナの「お世話」は続いていくが、それが僕にとってどれだ
け「普通ではない」かは、もう言うまでもない。
「次のお弁当は、もう少し普通のやつがいいな…… 」
そう呟いても、もちろん返事はない。僕の願いが彼女に届くかどうかは、相変わらず未知数
だ。




