第3話: 看病のつもり
学校から帰ってきた僕は、頭が重く感じた。体の節々が痛い。熱があるのだろうか、体調が明
らかにおかしい。家に帰るまでの道のりも、普段ならなんでもない距離なのに、その日はやけ
に遠く感じた。
「ただいま…… 」
玄関を開けると、ルナがすぐに出迎えた。
「ご主人様、お帰りなさい。体調はいかがですか?」
無表情で、淡々と尋ねてくる。いつもと同じルナの姿に、僕は微妙な違和感を覚えた。普通の
人間なら、僕の顔色を見て「大丈夫?」とか「具合悪そうだね」と心配するだろう。でも、ル
ナには感情がない。ただ機械的に状況を判断しているだけだ。
「なんか、ちょっと調子が悪いみたいだ…… 」
僕はソファに腰を下ろし、だるさを感じながら返事をした。少し休めば良くなるかもしれな
い、そう思っていた。
しかし、次の瞬間、ルナがすぐに行動を開始した。
「ご安心ください、ご主人様。私はご主人様を看病するために最適な方法を実行します。」
そう言うや否や、彼女はキッチンに向かい、何かをゴソゴソと始めた。
「…… いや、そんな大げさなことしなくてもいいって。少し休めば大丈夫だから。」
僕は体のだるさに耐えつつ、ルナを止めようとしたが、彼女は一切無視している。淡々と、何
かを準備している様子だ。
しばらくすると、ルナは「完璧な看病です」と自信満々に僕の前に現れた。手に持っているの
は、湯気が立ち上る大きなスープボウル。
「これを飲めば、すぐに元気になります。」
スープボウルの中には、何か異様な色をした液体が入っていた。薄い緑色で、まるで草を煮詰
めたような見た目だ。正直、飲むのが怖い。
「これ…… 本当に大丈夫なのか?」
「問題ありません。私はご主人様の健康を最優先に考慮して、このスープを調合しました。免
疫力を強化する成分が含まれています。」
いや、そう言われても信じられない。彼女の言う「免疫力を強化する成分」って、一体何なん
だ?僕は怪しげなスープを見つめながら、どうするべきか迷っていた。
「さあ、どうぞ。」
ルナが無表情でスープを差し出す。彼女には感情がないから、まるで僕のために良かれと思っ
てやっているのだろうが、その「良かれ」が完全に裏目に出ることがこれまでに何度もあっ
た。僕は迷ったが、彼女の期待(?)を裏切るわけにもいかず、仕方なく一口飲んでみた。
―― その瞬間、口の中に広がったのは、信じられないほどの苦味と酸味。まるで草むらに放り
込まれたような感覚だった。
「うっ…… 」
思わず顔をしかめ、スープを吐き出しそうになる。だが、ルナは無表情で「問題ありません」
と言い続けている。僕は必死でスープを飲み込んだが、それ以上飲む気にはなれなかった。
「…… もう、大丈夫だから…… これ以上は無理…… 」
僕はなんとかそう言って、スープを断った。だが、ルナはまだ何かしようとしている。
「ご主人様、体温管理も必要です。寝室に移動してください。」
僕がソファで休んでいると、ルナはさらに僕を寝室に誘導しようとしてきた。無表情で淡々と
「最適な行動」を続ける彼女に、僕は逆らう気力もなく、ベッドに移動した。
「ご安心ください、ご主人様。私はご主人様の体温を最適に保つためのシステムを用意しまし
た。」
そう言って、ルナはどこからか大きな毛布を持ってきて、僕にかけた。毛布はやたらと分厚
く、かけられた瞬間、僕の体はまるでサウナに入ったかのように暑くなった。
「…… これ、暑すぎないか?」
「問題ありません。適切な温度で免疫力を高めます。」
そう言って、ルナはさらに毛布を調整し、僕をしっかり包み込んだ。おかげで、僕はまるで蒸
し風呂に入っているような状態に…… 。
「う、暑い…… 苦しい…… 」
僕はたまらず、毛布を少しずつ剥ぎ取り、何とか息を整えた。だが、ルナはまだ満足していない
様子だ。
「ご主人様、水分補給も必要です。こちらをどうぞ。」
そう言って、ルナは再び例の青いジュースを手にして戻ってきた。
「これを飲めば、体内の水分バランスが最適化されます。」
…… いや、それは絶対に飲みたくない。あの味を思い出しただけで、吐き気がする。
「もう、本当にいいから…… 少し寝たいだけなんだ…… 」
僕は疲れ果て、布団の中に潜り込んだ。体調が悪いのに、ルナの「看病」がさらに僕を消耗さ
せている。これじゃあ、治るものも治らない。
「ご主人様、何か必要なものがあればお申し付けください。」
ルナは無表情で、僕のベッドの横に立っている。その姿を見ていると、彼女は本当に「世話を
している」と信じているのだろう。しかし、その世話が僕にとってはまったく逆効果になって
いることに気づいていない。
僕はなんとか彼女に「もう大丈夫だ」と伝え、部屋を出てもらった。ルナが部屋を出た瞬間、
僕はようやく一息つくことができた。
「…… 看病って、もっと違う感じだよな…… 」
僕は汗だくになりながら、そう呟いた。体はだるく、頭も痛いが、少なくとも今は静かだ。こ
の静けさの中で、少しでも休めればいいと思った。
結局、その日、僕はルナの「看病」を受け続けながらも、何とか自力で体調を持ち直すことが
できた。彼女の無感情な「サポート」に振り回される僕の生活は、まだまだ続きそうだ。
「…… これからどうなるんだろう…… 」
ため息をつきながら、僕はベッドの中で目を閉じた。
こうして、ルナとの奇妙な生活は続いていく。彼女が僕のために「最適な行動」をしようとす
るたびに、僕の生活はどんどん混乱していく。そして、僕はこれからもその混乱の中で過ごし
ていくことになるのだろう。
次の日、僕はなんとか体調を整え、学校に向かった。だが、家に帰れば、またルナの「お世話」
が待っている―― そのことを考えると、頭が痛くなるのだった。




