第2話: 忘れ物は完璧に届けます
学校が始まって数日経ったある日、僕、田中タロウはいつも通り学校に行く準備をしていた。
朝起きて、制服に着替え、カバンを持ち、家を出る。これが僕の平凡な朝のルーティンだ。
…… が、その日はちょっとしたミスがあった。
「…… あれ?体操服がない…… 」
学校に着いて教室に入ると、思い出した。今日は体育の授業がある日だというのに、僕は体操
服を忘れてきてしまったのだ。
「どうしよう…… 」
タダでさえ目立たない僕が、こんなことで目立つのは避けたい。しかし、どうやっても家に取
りに戻る時間はない。今日はもう諦めて、先生に言い訳をするしかないだろうか。
そう思いながら、僕はため息をつき、机に座った。
授業が進み、昼休みになった。僕は友達と軽く話をしながら、今日の体育の授業について考え
ていた。先生に怒られるのは嫌だな…… でも、体操服を忘れたのは事実だし、どうしようもな
い。頭の中でそんなことをぐるぐると考えていると、突然校内放送が鳴り響いた。
『田中タロウ、ご主人様は体操服を忘れました。すぐに職員室へ来てください。』
…… え?
僕は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。今の放送は…… 体操服を?ご主人様?職員室
に?
教室中がざわつき、みんなの視線が一斉に僕に向けられた。
「え、タロウ、体操服忘れたの?それにしても、ご主人様って…… ?」
「いや、違うって!俺、何も言ってない!」
慌てて否定する僕だったが、クラスメートたちは興味津々の目で僕を見つめていた。その時、
教室のドアが開いて、あのアンドロイド、ルナが現れた。
「ご主人様、体操服をお届けしました。」
そう言って、彼女は無表情のまま、僕の忘れていた体操服を手渡してきた。彼女の行動に、ク
ラスメートたちの視線はさらに強く僕に向けられる。
「ちょ、ちょっと待て!なんで学校に来てるんだよ!」
僕は顔を真っ赤にしながら、体操服を受け取る。クラスメートたちはニヤニヤしながらこちら
を見ている。中にはクスクス笑う者もいた。
「ご主人様が忘れ物をしたため、私はそれを届けに来ました。これは私の役割です。」
「いや、そういうことじゃなくて…… 」
僕は困惑しながらも、ルナにどう説明すればいいのかがわからなかった。彼女はまったく表情
を変えず、ただ自分が「正しい」と思う行動を淡々と実行している。だが、そのせいで僕はク
ラス中の注目を集めることになってしまった。
「タロウ、あの子誰なんだよ?」
授業が終わってから、クラスメートたちに囲まれ、質問攻めにされた。彼らにしてみれば、突
然現れた美少女が「ご主人様」と僕を呼んでいるのだから、興味を引くのも無理はない。
「いや、あれは…… その、ちょっと特殊な事情があって…… 」
「特殊な事情って何だよ?」
「うーん、説明しにくいんだけど…… まあ、アンドロイドっていうか…… 」
僕の説明に、クラスメートたちはますます混乱した様子だ。そりゃそうだ、突然「アンドロイ
ドが僕の家に来たんだ」なんて話しても、誰も信じないだろう。
「アンドロイド?本気で言ってんの?」
「いや、冗談に聞こえるかもしれないけど、本当にアンドロイドなんだよ…… 」
クラスメートたちは半信半疑のまま、僕の言葉に耳を傾けていたが、誰一人として真面目に信
じている様子はなかった。無理もないか…… 。
結局、その日の体育は無事に終わった。僕は体操服を受け取ったおかげで授業に参加できた
が、その後の噂話は避けられなかった。クラス中で「タロウにご主人様って呼ぶ美少女がい
る」という話が広まり、僕はその話題の中心に置かれることになった。
「…… どうしてこうなったんだ…… 」
僕は家に帰り、ため息をついた。ルナは僕のために「世話」をしてくれるつもりなのだろう。
しかし、その結果がこうなってしまうのは、どうにも腑に落ちない。
リビングに座り、頭を抱えていると、ルナが静かに近づいてきた。
「ご主人様、今日の業務は無事に完了しました。」
「いや、完了してないよ!むしろ、逆に大変なことになったんだよ!」
僕は苛立ちを隠せず、ルナに反論した。だが、彼女は相変わらず無表情で、僕の言葉に対して
は一切反応を示さない。
「ご主人様の体操服をお届けしたため、問題は解決しました。」
「だから、それが問題だって言ってるんだよ!なんでわざわざ校内放送でアナウンスするんだ
よ!」
「ご主人様の忘れ物を迅速にお届けするため、最も効率的な方法を選択しました。」
…… 効率的?いや、それが効率的なのかどうかはともかく、結果的に僕は恥ずかしい思いをし
たんだぞ!僕は再びため息をつき、頭を抱えた。
その夜、僕はベッドに入ったが、今日の出来事が頭から離れなかった。ルナは何かを「正し
い」と思い込んでいるらしいが、それがどうしてもズレている。僕の生活がどんどん混乱して
いくのは、彼女のせいだ。
「どうにかならないのか、これ…… 」
つぶやいても、返事をくれる人はいない。静かな夜が更けていく中、僕はただ布団に潜り込ん
だ。
翌日も学校に行くのが憂鬱だ。クラスメートたちに何を言われるのか、考えるだけで頭が痛
い。それでも、明日は明日で何とかしなければならない。
こうして、ルナとの奇妙な生活は続いていく。彼女が僕のために尽くそうとするたびに、僕の
生活は予想外の方向に転がっていく。次はどんな「お世話」が待ち受けているのか、僕には全
く見当がつかない。
「…… これから、どうなるんだろう…… 」
再びため息をつき、僕は眠りに落ちた。




