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第1話: 朝食はいつでも朝食

僕、田中タロウは14 歳の中学生。成績も普通、運動もそこそこ、特別目立つわけでもなく、誰

からも注目されることのない、どこにでもいる男子中学生だ。毎日が平穏で、特に事件もな

い、つまらないと言ってもいいくらいの生活を送っていた。


そう―― あの日までは。


その日は、いつもと変わらない平凡な夕方だった。学校からまっすぐ家に帰り、玄関の前に

立った僕の目に、妙な箱が映り込んだ。


「なんだこれ…… ?」


銀色に光る箱。サイズは小さめで、まるで映画に出てきそうな、未来的なデザインをしている。

普段なら無視するところだが、なぜかその日は違った。僕は箱を拾い上げた。

箱は意外に軽い。表面に触れると、つるりとしていて、どこか機械的な感じがする。そして、

何気なくその箱をいじっていると、突然カチッと音を立てて開いた。驚きのあまり後ずさった

僕の目の前に、信じられない光景が広がった。


「こんにちは、ご主人様。」


銀色の髪を持つ美少女が現れたのだ。いや、正確には「美少女の姿をした何か」だ。髪は艶や

かで、目は淡い青色をしている。彼女は僕を見下ろす形で話しかけてきた。


「私は万能アンドロイドのルナです。これからご主人様の生活を全力でサポートいたします。」


無表情のまま、彼女―― ルナは、淡々とそう言い放った。


「え、えっと…… ルナ?アンドロイド?」


あまりの唐突さに、頭が追いつかない。まさか本物のアンドロイドが目の前にいるなんて、冗

談にもほどがある。


「はい。私は万能アンドロイドとして設計され、ご主人様のお世話をするようプログラムされ

ています。」


無感情な声で、彼女はまるで事実を淡々と述べるかのように返答する。いや、ちょっと待て

よ。お世話?僕が何を?


「え、何で俺が『ご主人様』なんだ?」


困惑しながら尋ねると、彼女はすぐに答えた。


「私にインストールされたデータには、ご主人様の情報が含まれていません。しかし、現在の


状況下では、ご主人様のお世話をすることが私の最適な行動と判断されています。」

最適な行動?状況って何だ?僕は一層混乱したが、彼女の態度には一切の迷いがない。まる

で、何もかもが「当然」のように話している。


「ちょっと待てよ…… 本当にアンドロイド?何かの冗談じゃなくて?」


「ご安心ください。私は100% アンドロイドです。」


彼女は無表情で、まるでロボットらしい返答をする。僕は半信半疑ながらも、彼女が冗談を

言っているわけではないことを感じ取っていた。そう、これは冗談なんかじゃない。目の前に

いるのは、どうやら本物のアンドロイドらしい。

僕がどう対応すればいいのかを考えているうちに、彼女は勝手に玄関の中へと進み、家に上が

り込んでしまった。


「おい、ちょっと待てよ!僕、何も頼んでないんだけど!」



「問題ありません。ご主人様の生活環境を最適化するため、まずは家の状況を把握します。」


そう言って、ルナはさらに家の中を見回し始めた。まるで、僕の存在など意識していないかの

ように、淡々と行動している。

しばらくして、ルナはキッチンへと向かっていった。


「ご主人様のために、朝食を準備します。」


「いや、だから、今は夕方だって!朝食はもういいよ!」


僕は慌ててルナを止めようとしたが、彼女は無表情のまま冷蔵庫を開け、手際よく食材を取り

出し始めた。


「ご安心ください。朝食は1 日の始まりに最も適した食事です。栄養バランスを考慮し、ご主人

様が1 日を元気に過ごせるよう準備します。」


「いや、だから夕方だって言ってるだろ…… 」


しかし、僕の言葉は一切聞き入れられないまま、ルナは淡々と調理を始めていた。まるで、彼

女の「最適な行動」に一切の疑問がないかのように、動き続けている。

僕は頭を抱えながら、キッチンでのルナの行動を見守るしかなかった。なんでこうなったん

だ?僕はただ、普通の夕方を過ごしたかっただけなのに―― 。

30 分後、ルナは料理をテーブルに並べ、無表情で「朝食ができました」と言った。僕はその料

理を見て絶句した。

そこに並んでいたのは、黒焦げのトーストと、青く光る謎のジュース。


「…… これ、何?」


恐る恐る尋ねると、ルナは淡々と説明を始めた。


「トーストには炭の成分が含まれており、体内の毒素を排出します。そしてこのジュースに

は、全ての必須栄養素がバランス良く含まれています。」


「いや、どう見ても食べられそうにないんだけど…… 」


僕は黒焦げのトーストと、青く光るジュースを見比べた。どちらもどう考えても「健康に良

い」なんて思えない代物だ。だが、ルナは一切の感情を持たず、ただ「正しい」と信じて僕に

それを提供している。


「…… 本当にこれ食べて大丈夫なのか?」


「問題ありません。ご主人様の健康を最優先に考慮した結果、このメニューが最適です。」


ルナは全く動じることなく、冷静に答えた。僕はさらに困惑しつつも、どうしようもないので

一口だけトーストをかじってみた。


―― 硬い。


歯が折れそうなほど硬く、かじるだけで顎が痛くなってくる。しかも、味はというと…… 炭そ

のものだ。これが健康に良いと言われても、到底信じられるものじゃない。


「…… う、うわ…… 」


なんとか飲み込んだものの、喉に引っかかりそうになり、思わず水を探してしまう。だが、テー

ブルにあるのは例の青いジュースだけ。僕は仕方なく、そのジュースに手を伸ばした。

コップの中で青い液体が不気味に揺れている。これは、飲むべきなのか?でも、ルナの目が

じっと僕を見つめていて、断ることができない。

意を決して一口飲んでみる―― が、その瞬間、口の中に広がったのは、信じられないほどの苦

味と酸味。まるで薬草でもすり潰したような味だ。僕は思わず顔をしかめ、吐き出しそうにな

るのを必死でこらえた。


「うっ…… !」


「ご安心ください。このジュースには体内の毒素を分解する成分が含まれています。」

そう言われても、飲む気になれない。僕は苦しみながら、なんとかその一口を飲み込んだ。


「…… もういい。お腹いっぱいだから。」


結局、僕はギブアップした。ルナは相変わらず無表情のまま、食器を片付け始める。


「ご主人様、明日の朝も朝食を準備いたします。」


「え、明日も…… ?」


僕は絶望的な気持ちで、ルナの後ろ姿を見つめた。彼女は僕のために尽くしてくれているのは

間違いない。だが、その「尽くし」がどうにも裏目に出てしまう。


「なんでこんなことに…… 」


そう呟いても、答えてくれる人はいない。いるのは、冷静に黙々と働くアンドロイドのルナだ

けだ。

こうして、僕とルナの奇妙な日常が始まった。彼女が僕のために「尽くしてくれる」のは理解

している。しかし、その行動が全て裏目に出てしまうのだ。僕の生活は、どんどん混乱してい

く。


「…… これから、どうなるんだろう?」


僕は自分の未来を考えながら、夕方に出された朝食のことを思い出していた。

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