第6話: タロウの限界と博士の奇妙な結論
「よし、これで完璧なサポートが提供されるはずだ!」
博士が満足げに頷きながら、ルナのプログラムの調整を終えた。その瞬間、僕は嫌な予感が押
し寄せてきた。これまでの経験から、博士が「完璧」と言う時は、必ず何かがうまくいかない
ことを知っているからだ。
「ルナ、さっそくご主人様に新しいサポートを提供しなさい。」
博士が命じると、ルナは無表情で淡々と応じる。
「ご主人様の健康と安全を最適に管理します。」
ルナは僕の周りを静かに動き回り始めた。新しいプログラムのせいか、動作が微妙に変わった
気がするが、何が違うのかまではまだ分からない。ただ、妙な緊張感が漂っている。
ユイが隣で興味津々にその様子を見つめている。
「タロウ、なんかいつもと違うね。これで本当に楽になるんじゃない?」
「いや、そんな気はしないんだけど…… 。」
僕は心の中で不安が募っていたが、言葉にする気力も失われていた。これ以上、何が起こるの
か考えるだけで疲れてしまう。
その夜、ルナの「新しいサポート」はさっそく始まった。まず、僕が寝ようとしていると、ル
ナが無表情のまま布団の横に立っている。
「…… えっと、ルナ、何してるの?」
「ご主人様の睡眠環境を最適に管理します。」
そう言うと、ルナは温度調整や音楽のセッティングを完璧にこなし、僕を寝かせる準備を整え
た。だが、その様子があまりにも機械的で、逆に落ち着かない。僕は不安になりながらも布団
に潜り込んだ。
「…… これでぐっすり寝られるのかな…… 。」
その後も、ルナは無表情で僕を監視し続けている。その視線があまりにも鋭く、眠れたもの
じゃない。僕は布団の中で身を縮め、ルナが目を離すのを待ったが、もちろんそんなことはな
い。まさか、これが「最適な睡眠環境」だなんて…… 。
翌朝、目が覚めると、ルナはすでにキッチンで朝食の準備をしていた。だけど、僕が食卓に着
いた時、そこに置かれていたのは―― またもや焦げたトーストと謎のスープ。
「ご主人様の健康を最適に管理した結果、バランスの取れた朝食を用意しました。」
いや、どこがバランス取れてるんだ…… 。僕はそれをじっと見つめたが、もう反論する気力も
なかった。
「タロウ、また朝から変なもの食べてるんだね。」
ユイが笑いながら僕の隣に座った。僕が何かを言おうとした瞬間、博士がリビングに入ってき
た。
「どうだい、タロウ君?新しいサポートは完璧だろう?ルナが君の睡眠から食事まで、全てを
最適に管理しているはずだ!」
博士は得意げに言ったが、僕の疲れた顔を見ても何も感じていない様子だ。いや、むしろ僕が
なぜ疲れているのか、全く理解していないようだ。
「…… いや、全然楽になってません…… むしろ疲れてます…… 。」
僕は力なく答えたが、博士はそれを不思議そうに首をかしげた。
「うーん、どうしてだろうね。ルナのプログラムは完璧だし、君に最適なサポートを提供して
いるはずなんだが…… 君はもっと効率的に生活できるはずなのに。」
「いや、僕、効率とかいらないんです…… 普通に過ごしたいだけで…… 。」
僕は頭を抱えながら、博士に訴えたが、彼にはそれが全く伝わらない。ユイも「博士ってほん
とズレてるね」と軽く笑っているが、僕はもう笑えなかった。
その後も、ルナの「新しいサポート」は続き、僕はますます追い詰められていった。寝る時も、
食事をする時も、全てが「最適」だと言われながら、僕の疲労は増していく一方だ。
そして、とうとう限界が訪れた。
「…… もう無理です!博士、本当にやめてください!これ以上は耐えられません!」
僕はついに声を荒げて叫んだ。博士は驚いた顔をして僕を見つめた。
「タロウ君、そんなに辛そうにして…… まさか、君にとってこのサポートは必要じゃないの
か?」
「そうです…… 全然必要じゃないんです…… 僕はただ、普通に過ごしたいだけなんで
す…… 。」
僕は力なく答えた。博士はしばらく考え込んでいたが、やがて納得したように頷いた。
「なるほど、君には私の考える『最適な生活』は合わなかったようだね。仕方ない、もう少し
シンプルにするべきかもしれない…… 。」
「
…… それなら、最初からそうしてください…… 。」
僕はほっとする間もなく、博士の次の言葉が飛び出してきた。
「じゃあ、次はもっとシンプルなロボットを作ってあげようか?」
その言葉に、僕の心は再び重くなった。
「いや、もうロボットは要りません…… 。」
僕はそう呟きながら、頭を抱えた。ユイは「それいいかもね」と軽く言うが、僕にはもう何も
考える力が残っていなかった。
こうして、僕の日常はまだまだ終わらない。博士の「改善されたサポート」が終わりを迎える
かと思ったが、次の段階が待っているようだった。僕の疲れは、ますます深まるばかりだっ
た。




