第3話: タロウ、博士とユイに翻弄される
「君がそんなに疲れているとは…… これは興味深い現象だな。」
博士はソファに座りながら、腕を組んで僕をじっくり観察している。無表情のルナは、相変わ
らず「ご主人様に最適なサポートを提供します」と淡々と働いている。テーブルの上に資料を
並べ替えるその手際の良さに、僕はもう反論する気力すらなくなっていた。
「タロウ、あれだよ。やっぱり大変そうだよね、何でこんなに疲れてるんだろうね?」
ユイが隣で心配そうに僕を見つめる。彼女の目には優しさがあるけれど、時折その優しさが
ちょっとズレている気がする。ルナが全部やってくれるのがありがたいのか迷惑なのか、ユイ
は理解しきれていない様子だった。
「博士、僕は…… ただ普通に生活したいだけなんです。ルナが全部やってくれるのは、ちょっ
と過剰すぎて…… 。」
僕がようやくそう口にした瞬間、博士は満面の笑みを浮かべて言った。
「過剰?いやいや、むしろ足りていないんだよ、タロウ君。君が疲れているのは、まだルナが
君に対して十分にサポートをしていないからだ!そうだ、君にはもっと完全なサポートが必要
だ。」
「え…… 完全なサポートって、どういうことですか?」
僕は不安を感じながら尋ねた。博士の「完全なサポート」という言葉が、何か嫌な予感を呼び
起こした。ユイも興味津々に博士を見つめている。博士は得意げに話し始めた。
「例えば、ルナが24 時間君をモニタリングすることで、君の生活すべてを管理するんだ。君が
眠る時も、食事をする時も、すべて完璧にサポートできるようにしようじゃないか。さらに、
家中にサポート用ロボットを設置して、君の快適さを保つんだ。どうだ、素晴らしいだろ
う?」
「いや、ちょっと待ってください!それはもっと疲れるだけです!」
僕は反射的に叫んでしまった。24 時間モニタリング?そんなの、僕のプライバシーなんてなく
なるし、ただの地獄だ。ユイも驚いて博士を見つめる。
「うん、それはちょっと大変かもね…… でもさ、タロウ!もしもう少し自由が欲しいなら、逆
にルナを週末だけ休ませるってのはどう?『休ルナデー』を作ってみたら、メリハリが出て良
くない?」
ユイが真剣な顔で提案してきた。僕は「休ルナデー」の響きに思わず目を丸くした。彼女は僕
を心配してくれているんだろうけど、その提案もちょっとズレてないか…… ?
「いや、ユイ…… それはありがたいけど、週末だけっていうのもなんか違う気がするんだ
よ…… 。」
僕がやんわりと否定すると、ユイは少し困った顔をしたが、「そうかなあ?」と首を傾げる。
一方、博士は全く違う方向に話を進めている。
「いやいや、タロウ君、安心したまえ。ルナが君をもっと効率的にサポートすれば、すぐに君
も楽になる。ロボットの手によって完全に管理された生活―― それこそが最も効率的な幸福だ
よ!」
博士は大真面目にそう言い切った。ユイの提案もズレているが、博士はさらに遠くを突き抜け
ている。僕は二人の間で、何とか自分を保とうと必死だった。
「いや、だから…… もう十分です。ルナがこれ以上やることはないですし、これ以上サポート
されたら、僕の生活が全部壊れます!」
僕は力なく訴えたが、博士は全く動じず、ユイも僕の言葉を「なるほどねぇ」と首を傾げて聞
いている。僕は、何かがズレているこの二人にどう説明すればいいのか、途方に暮れていた。
その帰り道、ユイは少し思案顔で歩きながら僕に話しかけた。
「ねえ、タロウ。さっきの博士の話もそうだけど、私の『休ルナデー』も、あんまり良くなかっ
た?」
「うん…… 気持ちはありがたいんだけど、ちょっと違うかな…… 。」
僕は優しく答えたが、内心ではもう、どうしたらいいのか分からなくなっていた。ユイも心配
してくれているけど、その提案が僕の疲れを本当に解消してくれるのかは微妙だったし、博士
の提案は論外だ。
「…… タロウ、どうする?」
「うーん…… 何とかするしかないよな。でも、どうやって?」
僕はため息をつきながら答えた。ユイは「うーん」と腕を組んで考え込んでいるが、その提案
が再びズレていないことを祈るしかなかった。
こうして、博士とユイの奇妙な提案に翻弄される日々が続いていく。僕の「普通じゃない」生
活は、さらにカオスな方向に進んでいるように感じた。




