第2話: 博士の「幸せ」の定義
「ほうほう…… これは興味深いな。」
博士はリビングのソファに座り、腕を組みながら、じっくりと僕とルナを見つめていた。無表
情なルナは、相変わらず「ご主人様の健康を最適に管理しています」とか言って、僕の周りを
整理整頓している。いや、整理っていっても、資料を勝手に並べ替えられて、むしろ分かりに
くくなってるんだけど…… 。
「…… 博士、何がそんなに面白いんですか?」
僕は疲れた声で問いかける。勉強どころか、ルナと博士のせいで全く落ち着けない。ユイも隣
で様子を見ているが、困惑しているのが明らかだ。
「タロウ君、君は実に面白い。普通なら、このルナのサポートで完璧な生活が送れているはず
だ。しかし、君はなぜか疲れているようだ。これが私にとって最大の謎だよ。」
博士は満面の笑顔を浮かべているが、僕にとっては笑い事じゃない。ルナがやってることが
「完璧なサポート」だなんて、全然思えない。むしろ、彼女の行動が僕を追い詰めているとし
か思えないんだけど…… 。
「いや、博士。全然、完璧じゃないんですけど。むしろ、ルナが余計なことばっかりしてるせ
いで、逆に疲れてるんです。」
ユイも横から口を挟んだ。「そうそう、タロウは毎日ヘトヘトだよ。ルナが世話しすぎなんじゃ
ない?」
博士は少し驚いた表情を見せたが、すぐに頭を振りながら言った。
「それは君たちが、まだ本当の『幸せ』を理解していないからだよ。私の定義する『幸せ』は、
感情を排除し、完璧な効率を追求した生活だ。ルナが君のために行っているのは、まさにその
究極の形だ。どうだい?感情の起伏がない生活こそが、最も理想的だと思わないか?」
「いや、思いません…… 。」
僕は即答した。博士の言ってることは、僕の感覚から完全にズレている。感情を排除した生
活?そんなの全然楽しくないし、むしろ疲れるだけじゃないか。ユイも呆れたようにため息を
ついている。
「タロウが疲れてるのは、まさにそのせいじゃないですか?感情を排除したら、楽しさとか安
らぎとかがなくなるんじゃないですか?」
ユイの言葉に、僕も大きく頷いた。ユイの言う通り、感情がなかったら、ただのロボットみた
いな生活になってしまう。それが幸せだなんて、僕には到底理解できない。
しかし、博士は全く気にせず、むしろ得意げな顔をして続けた。
「いいかい、タロウ君。感情というのは、無駄なエネルギーを消費するだけのものだ。君が
日々感じるストレスや疲れは、全て感情によるものだ。ルナが君を完璧に管理すれば、その感
情による無駄なストレスも解消されるはずだ。」
僕は頭を抱えた。もう何を言っても無駄なんじゃないか?博士は完全に自分の理論に酔いしれ
ていて、僕やユイの言葉が全く届いていないみたいだ。ユイも困ったように僕を見つめてい
る。
「でも、タロウは感情がない生活なんて無理だよ。楽しくなきゃ、人生意味ないじゃん。」
ユイがため息をつきながら、そう言った。僕も心の中で同意する。感情のない生活なんて、無
味乾燥で耐えられない。
しかし、博士はにこやかに微笑んだまま、全く動じなかった。
「感情は確かに一時的な喜びをもたらすかもしれないが、長期的な効率を考えれば、それは不
要だ。私は、君が本当の意味での『最適な生活』を送れるようにしているんだよ。」
「…… それが僕にとって、全然最適じゃないんですけど。」
僕は力なく答えた。博士の頭の中では、ルナの行動は全て完璧なサポートとして機能している
らしいけど、現実はそうじゃない。ユイも納得いかない顔をしていたが、博士の話を聞いても
どうにもならないことは分かっている様子だ。
「まあ、今はまだ君が完全に理解していないだけだ。もっと時間が経てば、君も私の考えに共
感できるはずだよ!」
博士は得意げにそう言った。僕はその言葉を聞いて、ますます疲れが増していくのを感じた。
博士の「幸せの定義」が、僕とはあまりにもかけ離れていて、どうやってこの人に自分の考え
を理解させればいいのか、全然分からない。
「タロウ…… 本当に大丈夫?」
ユイが心配そうに僕を見つめる。僕は力なく頷いたが、内心は「全然大丈夫じゃない」と叫ん
でいた。
こうして、博士との奇妙な日常が続く。彼の言う「幸せ」の定義は、僕にとっては全く理解不
能だ。ユイも困惑しているが、どうにか僕を支えてくれている。博士の滞在がこれ以上続くこ
とを考えると、僕の疲れはますます深まっていきそうだ。




