第4話: 人気者ユイの試練
月曜日の朝。僕はいつも通りルナに起こされ、重い体をベッドから引きずり出した。最近、学
校でも家でも落ち着かない日々が続いていて、疲れが抜けない。
「ご主人様、朝食を用意しました。」
リビングに行くと、ルナが無表情でテーブルの前に立っていた。テーブルの上には、見慣れた異
様な光景が広がっている。ルナが「完璧に栄養を計算した」朝食だ。
「…… 今日のは、なんだ?」
僕は不安そうにテーブルの上の料理を見つめた。いつもながら、色合いが妙に鮮やかすぎる。
そして、その中心には見たことのない形のスープが湯気を立てている。
「ご主人様のエネルギー補給のため、最適なバランスで組み立てました。今日のメニューに
は、ビタミンC が豊富な野菜ジュースと、タンパク質強化のための特製豆腐スープが含まれてい
ます。」
豆腐スープ…… ねえ。豆腐がスープの中で不思議な形に固まっていて、なんか、怖い。
「いや…… うん、ありがとう。ありがたいけど、ちょっと今日は時間がないんだよ。」
僕は言い訳をしながら、急いで制服に袖を通した。正直、この朝食を完食するのは無理だ。朝
から豆腐スープに挑むほど、僕の胃は丈夫じゃない。
「朝食は重要です。これを摂取しないと、エネルギー不足に陥る危険性があります。」
ルナは無表情で、僕の言い訳を一切聞き入れずに淡々と続けた。彼女には感情がないから、僕
がどれだけ無理だと感じていても、それが理解できないんだろう。
「本当に、ありがとう。でも、もう時間ないんだよ!」
僕は慌ててカバンを持ち、玄関に向かおうとした。けれども、ルナは冷静に僕の前に立ち塞が
り、スプーンを手渡してきた。
「一口だけでも摂取してください。ご主人様の体調を考慮した結果です。」
「…… わかった、わかったよ。」
僕は観念して、スプーンで豆腐スープをすくった。見た目は…… まあ、言わないでおこう。ひ
とまず口に入れてみると、予想通りの奇妙な味が口の中に広がった。豆腐の食感は、まるでゼ
リーのようにプルプルしていて、スープの味付けは何とも言えない独特の風味がする。
「う…… まあ、食べたよ。これでいいだろ?」
僕はスプーンを置き、なんとか笑顔を作ってルナに伝えた。彼女は無表情のまま、淡々と頷い
た。
「ご主人様の健康を最優先に考慮しました。今後も継続して管理いたします。」
…… そうだろうな。僕はため息をつきながら、玄関を出て学校に向かった。朝からこんな調子
だと、今日一日がますます憂鬱になる。
学校に着くと、いつものようにクラスメートたちのざわざわした声が耳に入ってきた。教室に
入った瞬間、みんなが僕を見てクスクス笑い始めた。なんだ、今度は何だよ…… 。
「おい、タロウ!最近ユイとよく一緒にいるよな?」
声をかけてきたのはケンジだ。彼はいつも人の恋愛話に首を突っ込むのが好きなタイプで、他
人のプライベートには興味津々だ。
「いや、別に普通に話してただけだって…… 」
僕は軽く流そうとしたが、ケンジはしつこく「ユイと付き合ってるんだろ?」と突っ込んでく
る。教室中がその話題で盛り上がり始め、ユイも巻き込まれてしまった。
昼休み、僕はユイと二人で屋上に避難することにした。クラスメートたちのしつこい視線に耐
えきれず、少しでも落ち着ける場所が欲しかった。
「ごめんね、タロウ。なんか、みんな勝手に盛り上がっちゃって…… 」
ユイが申し訳なさそうに言う。僕も彼女が悪いわけじゃないと分かっているけど、どうにも落
ち着かない。
「いや、ユイのせいじゃないよ。みんなが勝手に噂してるだけだし…… 」
そうは言っても、ユイが学校で人気者なだけに、彼女と僕が一緒にいるとどうしても目立って
しまう。まして、家にはルナがいて、ますます僕の日常は普通じゃなくなっている。
「まあ、気にしないでおこうよ!そのうち噂なんて消えるって。」
ユイはそう言ってくれたけど、彼女も心の中では少しだけ疲れているのかもしれない。僕はた
だ、無理にでも元気を出そうとしている彼女の気遣いに感謝しつつ、今日もまた普通じゃない
日々に戻ることを覚悟した。
こうして、学校での噂とルナとの生活に振り回される僕の毎日は、まだまだ続いていく。




