エゴイズムだ
「しかしよ、打線も悪いよ。一ノ瀬と三神で塁埋まってるのに後が続かない」
「だがなー、若手が躍動してる阪神とはまた環境がなあ」
ファン達がわいわいがやがやと言いながら甲子園に訪れる。
「けど下位打線が続かないと三神は勝負避けられるぜ?」
「……けど、変じゃないか?」
「変って?」
「三神ってさ、悪球打ってでも成績上げてきたじゃん。ちょっとやそっとのボール球なら手を出す気がするんだよな」
そう言われて、もう一人は黙り込む。
「二年目に背負わせすぎなんじゃないかねえ」
「つっても、プロだぜ?」
「けど、二十歳だ」
「五番任されてる意味はわかると思うんだけどなあ」
来場したファン達は、その時ざわついた。
五番、レフト、三神。
そうアナウンスされたのだ。
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それを進言したのは三神だった。
「俺の配球パターンは佐古田に読まれているようです。小学生からの付き合いで、一時期はバッテリーも組んでいた。これは一朝一夕でひっくり返せるものではありません」
真剣な目で監督を見る。
「俺を、キャッチャーから、外してください」
「……お前には、エゴが足りない」
「いえ」
三神は胸に手を置く。
「勝ちたいという渇望は、誰よりもあります。俺の打撃センスなら、誰にだって……」
そう、一ノ瀬すらも、後々は。
監督は、天を仰いだ。
「去年も、今年も、お前の配球センスと盗塁阻止でここまで来た。佐古田が出たからと言ってひっくり返すわけにはいかんな」
三神はじっと監督を見る。
「今年のクライマックスシリーズだけだ。来年までに、佐古田対策を詰め直すぞ」
「はい!」
三神は勢いよく返事した。
そして、配球の重責から解き放たれた三神が打席に立った。
体が軽い。
しゃがみ込んでいる負担がないからそれも当然だ。
打席に集中して、なんだって打てる気がした。
投手が投球する。外角低めに外れたストレート。
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「なんでホームランを打てたか、とでも聴きたいのか?」
古賀は冗談交じりに言う。
三神が無言なので、不思議そうな表情になった。
「お前だって大一番の経験はあるだろ」
「けど、俺は、今日、打てなかった。それが、俺の人生を分けるような、そんな気がするんです」
沈黙が漂う。
「なんで古賀さんは打てたんですか」
「打たないと、評価にならないだろ」
呆れたように言う古賀。
「お前だって去年は一緒だったろうに」
黙り込む。
「色々ごちゃごちゃ考えすぎじゃないかね。俺達に必要なのは、エゴイズムだ。進塁打も、バントも、自分をアピールするための我だ」
その考え方は三神になかった。
そこまで徹底的に割り切れなかった。
けど、結論があった。
「このチームで勝つためなら、俺はエゴイストになれるかもしれない」
古賀はまた、呆れたように背を向けた。
「明日は頼むぜ、クリーンナップ」
三神は、一つ頷いた。
外野の一席を蹴落としてでも、自分を活かす。
そんな考えが、脳裏に浮かんだ。
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三神のバットが球を運ぶ。
綺麗な放物線を放ち、観客席へ。
(今まで葛藤なんかなかったんだろうな……ただ結果だけを出してきた)
古賀呆れたようにそれを見て思う。
(お前は、本物の化物だ)
失った足が疼いた。
そこからDeNAは連勝。
日本シリーズ進出を決めた。
MVPは三神だった。
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「ソフトバンク、負け、え」
電話口からの言葉に球団職員が絶句する。
「どうした?」
傍にいた職員が問う。
「ソフトバンク、負けたって」
聞いた職員は絶句する。
「荒川投手の中四日の二勝だ」
「……二年目、だぞ?」
「うちの三神捕手だって、二年目だ」
溜息混じりに言う職員だった。
日本シリーズは、DeNAと西部に決まった。
つづく




