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野球と酒と女と男  作者: 熊出


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14/15

エゴイズムだ

「しかしよ、打線も悪いよ。一ノ瀬と三神で塁埋まってるのに後が続かない」


「だがなー、若手が躍動してる阪神とはまた環境がなあ」


 ファン達がわいわいがやがやと言いながら甲子園に訪れる。


「けど下位打線が続かないと三神は勝負避けられるぜ?」


「……けど、変じゃないか?」


「変って?」


「三神ってさ、悪球打ってでも成績上げてきたじゃん。ちょっとやそっとのボール球なら手を出す気がするんだよな」


 そう言われて、もう一人は黙り込む。


「二年目に背負わせすぎなんじゃないかねえ」


「つっても、プロだぜ?」


「けど、二十歳だ」


「五番任されてる意味はわかると思うんだけどなあ」


 来場したファン達は、その時ざわついた。

 五番、レフト、三神。

 そうアナウンスされたのだ。



+++



 それを進言したのは三神だった。


「俺の配球パターンは佐古田に読まれているようです。小学生からの付き合いで、一時期はバッテリーも組んでいた。これは一朝一夕でひっくり返せるものではありません」


 真剣な目で監督を見る。


「俺を、キャッチャーから、外してください」


「……お前には、エゴが足りない」


「いえ」


 三神は胸に手を置く。


「勝ちたいという渇望は、誰よりもあります。俺の打撃センスなら、誰にだって……」


 そう、一ノ瀬すらも、後々は。

 監督は、天を仰いだ。


「去年も、今年も、お前の配球センスと盗塁阻止でここまで来た。佐古田が出たからと言ってひっくり返すわけにはいかんな」


 三神はじっと監督を見る。


「今年のクライマックスシリーズだけだ。来年までに、佐古田対策を詰め直すぞ」


「はい!」


 三神は勢いよく返事した。

 そして、配球の重責から解き放たれた三神が打席に立った。

 体が軽い。

 しゃがみ込んでいる負担がないからそれも当然だ。


 打席に集中して、なんだって打てる気がした。

 投手が投球する。外角低めに外れたストレート。



+++



「なんでホームランを打てたか、とでも聴きたいのか?」


 古賀は冗談交じりに言う。

 三神が無言なので、不思議そうな表情になった。


「お前だって大一番の経験はあるだろ」


「けど、俺は、今日、打てなかった。それが、俺の人生を分けるような、そんな気がするんです」


 沈黙が漂う。


「なんで古賀さんは打てたんですか」


「打たないと、評価にならないだろ」


 呆れたように言う古賀。


「お前だって去年は一緒だったろうに」


 黙り込む。


「色々ごちゃごちゃ考えすぎじゃないかね。俺達に必要なのは、エゴイズムだ。進塁打も、バントも、自分をアピールするための我だ」


 その考え方は三神になかった。

 そこまで徹底的に割り切れなかった。

 けど、結論があった。


「このチームで勝つためなら、俺はエゴイストになれるかもしれない」


 古賀はまた、呆れたように背を向けた。


「明日は頼むぜ、クリーンナップ」


 三神は、一つ頷いた。

 外野の一席を蹴落としてでも、自分を活かす。

 そんな考えが、脳裏に浮かんだ。



+++



 三神のバットが球を運ぶ。

 綺麗な放物線を放ち、観客席へ。


(今まで葛藤なんかなかったんだろうな……ただ結果だけを出してきた)


 古賀呆れたようにそれを見て思う。


(お前は、本物の化物だ)


 失った足が疼いた。

 そこからDeNAは連勝。

 日本シリーズ進出を決めた。


 MVPは三神だった。



+++



「ソフトバンク、負け、え」


 電話口からの言葉に球団職員が絶句する。


「どうした?」


 傍にいた職員が問う。


「ソフトバンク、負けたって」


 聞いた職員は絶句する。


「荒川投手の中四日の二勝だ」


「……二年目、だぞ?」


「うちの三神捕手だって、二年目だ」


 溜息混じりに言う職員だった。

 日本シリーズは、DeNAと西部に決まった。



つづく

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